恐怖のディアブロ・ゾンタ
エレベーターの扉が閉まり、真奈美とイナリに最大の危機が迫る!?
恐怖のディアブロ・ゾンタ
「の! の! 則子! あんたこんなとこで何してるのよ! そいつは危険よ! 女を食べ物程度にしか思ってないカス野郎よ! 逃げなさい――ってもう、エレベーター下がってるじゃないの~!」
扉をドンドン叩いてそう叫んだのだが、階表示のランプは最上階からどんどん下がっていく。
「真奈美の所属する高校で最初のターゲットが田中則子とは意外。所詮は金かと落胆中。真奈美も注意必要と判断。待機中」
エレベーターに一人になると、イナリが声を出して言ってくる。
「バカイナリ! なにが落胆中よ! 早く元の階に戻って扉を開けなさい! 助けなきゃ――」
「あ、その手があったか。了解。異次元にてエレベーターを強制上昇。完了」
イナリがそう言うとエレベーターはガクンと止まり、扉が開くと先ほどの最上階だった。
「チ~ン! 扉にご注意下さい」
「うるさいっ! 静かにしてなさいっ!」
走って奥の部屋を目指した。
一番奥の部屋の前で二人に追いついた――。
「――待てディアブロお!」
振り向いたのは……則子だけだった。
「――真奈美じゃないの! あなた、こんなところで何してるのよ!」
「それはこっちのセリフよ則子! こいつはとんだ女ったらしよ。取っ替え引っ替え女を変えて、自分の子供を作ることしか頭にないのよ!」
そう言い私はハッとした――。
則子がどういう経緯でここに来たのか知らない……。
ソフトボールバカの則子が男に惚けるなんて考えられない……。
でも、もしディアブロのことが好きでたまらないのなら……私は一体どうしたらいいの?
「余計なことをベラベラと喋りやがって――。やれやれ、君たちは知り合いだったのか……」
ディアブロはこちらを振り向きもせずに天井に向かって呟く。その後ろ姿は怒りを押し殺しているようにも見える。
「なによ、本当のことを言っただけじゃない。やる気?」
――イナリ、異次元粒子砲発射準備よ!
『エネルギー充填120%。角度誤差修正完了。木星軌道上までの物質は跡形なく消滅可能。発射準備完了。待機中』
本気なのか冗談なのか、今はどうでもいい。なすがままになるだけよ!
するとディアブロが振り返った。
「ああ、勿論やる気だ。仕方がない。三人でやってみよう!」
「「……!」」
「なあに、三人でやるのも初めてだが、たぶん大差はあるまい。僕の回復力や角度はレーシングカーのリアスポ並みさ。そんじゃそこらの車についているそれとは訳が違う。そもそも中途半端なやつは重くなるだけで意味すらなしていないんだ」
遠くを見つめて真顔でそう語り出すディアブロに……、思いっきりパンチを浴びせた!
――ボグシ!
『ウハア。鼻血確認。お気の毒中』
「逃げるわよ!」
「え? ええ」
則子の手を握ると、エレベーターまでダッシュした。
エレベーターを呼ぶボタンを押そうと思ったが、――そこにボタンなどなかった。
「なによこれ! どうやって呼ぶのよ!」
焦る私の後ろから低い男の声がする。
「このエレベーターはディアブロ坊っちゃん専用だ! 女だからって俺達は容赦しないぞ」
二人が振り向くと黒いスーツを着た大きなボディーガードが何十人も並んでいる――。
「映画のワンシーンでこんな光景を見たことあるわ。マトリッ……」
「そんなことより真奈美! どうするのよ? 逃げられないわ!」
則子は震えて私の後ろへ隠れて、腕を痛いほど掴んでくいる。……弁論大会でも緊張一つしていなかったのに。
『怖いものや危険に対して敏感なのは生物的本能として妥当。怖いもの知らずは場合によって馬鹿を見る。真奈美は怖いもの知らずと判断。直訳馬鹿。馬と鹿に謝罪中』
「バカはどっちだ、そっちだ~!」
ついいつもの癖で、大勢の男の前でそう言って天井に指差した!
……けっして陽動作戦ではない。イナリにツッコミを入れただけだ。しかし、黒いスーツを着た男達は突然のことに驚き、皆天井を見上げたのだ。
「今よ、イナリ! はい!」
『――? いや? 真奈美さん? 「今よほい!」とか言われても、作戦聞いてないです。 それに大勢の前、田中則子の前でイナリと呼ぶのはまずいでしょ。バレちゃうよ。待機中』
その文字を読み――今日一番、クソっと苛立った!
ええい、じれったい! この場から逃れる絶好のチャンスだったのに~。もう男達はこちらを向いて迫ってくる。
『あ! 真奈美は退避希望と判断。了解。扉にご注意下さい』
チ~ン! 開く筈がないエレベーターの扉が開いた――。
「則子、早く乗って!」
「え? でも逆に逃げられくならない?」
そう言う則子をエレベーターに押し込む。
当然、大勢の男達もなだれ込んでくると思ったその時――、
――プシュン!
――目にも止まらない早さで扉が閉まった――。
もし男達の手や顔が少しでも入ってきていたのなら……。
『完全に切断。敵と判断したため縫合などの処置は不要。一階へ降下中』
……そうならなくて良かったと胸を撫で下ろす。
イナリは自分の任務遂行のためになら手段を選ばない。他人の命など屁とも思っていないのだ。
『真奈美は今朝、納豆菌を約百万匹無駄に殺した。納豆菌は真奈美にとって味方。それでも食べ残しにより無駄死にさせた。それに比較すれば敵を排除するのは大宇宙においても当然の行為。また、私の任務遂行のためではなく、全ては我が主、サラマン・サマー様のためだと報告済み。待機中』
「ところで則子はなんであんなところにいたのよ。もしかして……お金目当て?」
イナリのコメントを無視して問いかけた。則子は恐怖と驚きと安堵でいつもより情けない顔で私に答えた。
「違うわ。私はただ……」
突然大粒の涙を流して抱きついてきた――。
「怖かった~怖かったよお~」
「……則子」
まだ……震えていた。
「もらったお礼はちゃんとしないといけないと思ったのよ。だからディアブロに礼を言いに行ったら、ここのホテルの最上階で話がしたいって言うもんだから、話だけならいいかと思って……」
「話だけなら……別にこんな所に呼び出す必要ないじゃない……」
『おや? 真奈美も話だけと言われてホイホイ着いてきたと記憶。再現中』
目の前に私が車に乗るところが映し出される。
――やかましいわ! 早く消しなさい!
「じゃあ、則子は別にディアブロのことを好きなわけじゃないのね?」
則子は黙ったまま頷く。それを聞いて安心した。
欲しい物を貰ったから、そのお礼をするのは当然と思い……則子は大切な物を奪われかけたのだ。
「素直なのは則子のいいところだけど、騙されちゃいけないわ……」
『ディアブロ・ゾンタを排除可能。今思い付いたのだが、異次元落し穴ってどうだろう。落ちた底が異次元で、永遠に加速し続けて落ち続ける。奈落の底までご招待。提案中』
――ええい! うるさい!
奈落だか涅槃だか知らないけど、二人の大事な話に首を突っ込むな――!




