一人目の標的
ディアブロと共にエレベーターに乗り、高級ホテルの最上階へと向かう真奈美。果たして一人目の標的とは!?
一人目の標的
『危険レベル皆無のため、干渉せず。待機中。アホクサ』
――アホクサってなによ~!
一人の女子の将来がかかっているというのに! イナリにやきもきしてしまう。
「人間なんてちっぽけなものさ。生まれて死んでいくだけだ。この手も顔も所詮はあるものを守るための道具なのさ」
エレベーターのボタンを優雅に押す。扉が閉まり、最上階へと動き出した。
「そんなの分かってるわ。命を守るためでしょ!」
「違うよ。
――遺伝子を守るためさ――」
真面目な表情のままディアブロが答える。
その青い瞳で見つめて喋られると、その言葉に嘘がないことが伝わってくる……。
「人間は本来遺伝子を守り、増やしていくためのモービルスーツのような物なのさ。大昔から文明や科学、芸術やらなんやら言ってはいるが、所詮は遺伝子を絶やすことなく遺し増やしていく……。そのためだけに生きているのさ」
『正解。それは人間以外も同じ。ただし、宇宙には違う存在価値の生命体やマシーンもまれに存在あり。待機中』
「なに納得してるのよ! 遺伝子を守るためだからといって色んな女性とその……その……ヤッチャダメだわ~!」
キャー言っちゃった! 一気に私の顔は紅く染まる。
うぶな私になんてことを言わせるのよ~! イナリのバカ!
『……!』
「ところがだ……、人間は遺伝子を増やし、存続させることが容易となった。その結果、優秀な遺伝子だけを後世に残せばいいと遺伝子自体が変化しつつあるのだ」
「――? その変化して優秀で残すべき価値がある遺伝子が僕だって言いたいわけ?」
「! ああそうさ! それが言いたいのさ! ――僕より先に言うな!」
あっちゃー。
『あっちゃー』
完璧に……なんか……、頭の歯車が噛み合っていないのね……コイツは。
片手を頭についてため息を吐きだした。何不自由無く育つと……人ってそういう発想になるのかしら……?
「ところがだ――! これまでどの女性も僕との子供を産みたいとは言わなかった! 断られ続けた! もし、僕の子供を授かるのなら、養育費を修学までの間、年間300万円出すと言ってもだ! 何故だ!」
「――知るか!」
――私に言われて分かるもんですかっ!
……300万円が微妙過ぎるのよ――!
『容姿とお金があっても、ディアブロ・ゾンタの性格が問題。こんな遺伝子不要と世の女性も判断。妥当。感心中』
ディアブロは息を整えて言った。
「話しはそれだけだ。安心してくれ、君の遺伝子には興味はないよ」
……なんか腹立つ一言をさら~っと言って、ちょうど最上階で扉が開くとディアブロだけがエレベーターを降りた。
目の前の扉が閉まるとき、ディアブロ越しに一人の女性の姿が見えた。
こんな馬鹿な男に騙されるかもしれない惨めな女子。
そんな馬鹿な女の顔を一目見てやろうじゃないの――。
長いコートを着ているがその顔には見覚えがあった――。
今日、何度も話をした友達だった。
扉が完全に閉まってしまった――