出待ち作戦
真奈美はディアブロ・ゾンタに文句を言ってやろうと校門前で待ち伏せをするのだが、返り討ちにされる(?)
出待ち作戦
「かといって放課後に待ち伏せをする必要性について理解困難。推測中」
下校時間、校門のところでディアブロ・ゾンタを待ちぶせする私にイナリが問い掛けてくる。
「シ―! 静かにしなさい。一体どういうことか問い詰めてやるんだから」
「問い詰めても真奈美には金のテファニーはもらえないと推測。そこまでして欲しいものかと落胆中」
「ペンダントが欲しいからじゃないわよ!」
イナリが的確に私の考えを言い当てるのが……本当に歯がゆい。
『標的接近。消音中』
イナリはそう表示して急に黙った。そっと校門から覗いたその時――。
「うわ!」
「キャッ」
急に顔を覗かせたため、ディアブロ君が回避出来ずに私の顔は彼の胸へとぶつかってしまい、よろけてバランスを崩した私を――とっさにディアブロ君が両手で受け止めてくれたのだ――。
「ごめん、大丈夫かい?」
「……はい」
『恋愛漫画? ――かよ! 突っ込み中』
ディア君は優しく微笑む。まるで抱き寄せられているように彼の右手は私の腰をしっかり支えてくれている。近くで見ると青い瞳は肉眼で見た地球以上に美しく光っていた。
――やだ、胸が熱い。声が出せないわ――。
『声が出せない? 了解。これは罠と判断。真奈美の用件を代弁開始。ごっほん、あーあー』
「なぜ私のだけ鉄82%鉛18%含有の贋物だったか答えよ!」
「「――!」」
ディアブロ君は急に驚いた顔を見せた。
――しかしそれ以上に驚いたのが誰でもない。私だ!
「なに勝手にしゃべってるのよ! って、今のは私の声じゃないわ!」
「本物を所望する。贋物など不要。遺憾! 立腹!」
「だから、勝手に喋るなって~!」
一人で二人分喋る私の姿を……ディアブロ君は不思議そうな眼差しで見ている……。
「もしかして、君が樋伊谷真奈美かい?」
「ああ、そうさ! 鉄と鉛で出来た贋物を渡した相手ならよくわかるだろウゲウ」
私は勝手に喋り出す自分の舌を軽く噛んで制した。
――ちょっと黙りなさい!
『真奈美が罠にかかると危惧したため、日本語やや辛口で応答が妥当と判断。注意必要。舌の痛み修復中。完了。警戒中』
イナリのせいで、せっかくのいいムードが台無しじゃない~!
私はようやく自分の口を取り戻した。
「ええ、そうよ、初めまして。私が樋伊谷真奈美よ」
「そうなのか。なんだ……意外と可愛いじゃないか。君と知っていれば本物をあげたさ」
『本心でないと解析。脳を異次元より徹底解析中』
イナリのコメントなんて、もう読まない!
「え、ホントに! 私……嬉しい」
「ただし、これから一緒に僕とお茶に付き合ってもらうけど、いいよね」
軽く片目を閉じられると、もう、私の胸はキュンキュンとときめいていた。
校門の前にはツヤッツヤの見たこともない外車が止まっている。静かにドアが開かれると、私は何の躊躇もせずに乗り込んだ。
……イナリは怒っているのか解析に手間取っているのか、何も表示しない。
……それでいいわ。勝手に喋った反省でもしてなさいっ!
『解析完了。反省中』