金と銀のオーブンハートペンダント
欲しい物を手に入れ……真奈美は素直に喜んでいたのだが……。
金と銀のオーブンハートペンダント
こっそり込み上げてくる喜びの笑いと涙とをこらえていると、後ろから則子が声をかけてきた。
「おっはよう真奈美。あ、真奈美の下駄箱にも入ってたの?」
急に声をかけられたのと、ペンダントを見られたのと、「……真奈美の下駄箱にも」という意味しげな問いかけに驚き、――バッと振り返る。
「おはよう……則子。それって一体……どういうことよ……」
すると則子も笑顔でペンダントを制服の胸ポケットから取り出したのだ――!
私のと……色違いのようだ。
私のは銀色で則子のは金色……。
この差はなに――? 胸がチクリチクチク憤りを訴え始める――。
「小さな紙に書いてあったでしょ。素敵な女性に素敵なペンダントをだって。一体誰がこんないたずらしたのかしら?」
ペンダントの喜びが……半分になった気がした。
なんだか、……ムカつく。そして、……凹む。
「こんなこと出来るって言ったら、あの人しかいないじゃない」
カナが話に入ってきたのだが、そのカナの手にも――同じペンダントが握られている~。
色は……銀だ! ニヤリとほくそ笑んでしまった。
しかし、これで喜びは3分の1まで低下してしまった。いやいや、もし他にも大勢もらっているのだとすれば、価値なんてほとんどないわ!
「誰よ。あの人って」
半ば涙目で問いかけると、則子が意外そうな顔をして答えた。
「誰って、ディアブロ・ゾンタでしょう。彼の家はお金持ちらしいじゃない」
「え、ディア君なの?」
それって、私は、そのお金持ちのディア君に選ばれたって考えても……いいのかしら。
『はあ~。約十分前に私はそう伝えた。今さら驚く真奈美に落胆中。ペンダントをもらえたからといってディアブロ・ゾンタが真奈美に好意を持っていないのは確認済み。待機中』
私にとって都合が悪い文章は読まないことにしている――。
――早く消しなさい、腹立たしい~。
「でも、こんなことされると私困っちゃう。橘君とディアブロ君、どっちにしようかしら?」
「マナにはディアブロ君が似合ってるわ」
妙に進めるカナの魂胆は丸見え。橘君を諦めさせるつもりなのだろう。でもそう簡単にはいかないわ。
「カナもお似合いかもよ~。それに橘君は、こんな気の利いたことしてくれないじゃない」
負けじと言い返す。
二人が言い争いをしようとすると、いつものように則子が仲裁に入った。
「私もディアブロ君、狙っちゃおうかなあ~」
急にそう言いだす則子を、二人が見た。
「「是非そうしなさい、お似合いよ則子!」」
二人の声は、ここぞとばかりにきっちりハモった。
この女さえいなければ~! 橘君は私のものになるのだ。則子は殺意にも似た四つの瞳に見つめられ、一歩下がった。
「なによ二人とも。冗談よ冗談!」
「「冗談ですって?」」
一歩下がった則子を逃さずに、二人は詰め寄る。
「いえ、ええっと、そういう意味じゃなくて……。ほら、私はソフトボールに夢中じゃない。男子となんて付き合おうとも思っていないわ。だから二人とも安心して、ね、ね」
苦笑いしながらそう言う則子も、チッ、やはり可愛い。
則子は男を虜にする禁断兵器のような美貌とナイススタイルを見せびらかせて歩いているようなものなのだ――。それに比べて私やカナなんて、顔立ちは童顔だし、体型は中学生体形のまま……。男子が振り向く色気なんて、まだまだ芽すら出てきそうにもない。
『性格も忘れてはならない』
――うるさい!
ああ、またため息が出ちゃう。
担任が入ってきて渋々私達は席についた。
下駄箱から教室まで歩いてきた時のドキドキなんて、もうどこ吹く風だった。