忍び寄るチンピラ
真奈美と佳奈の背後から二人のチンピラが近づき、危険な目に遭う! チンピラが!
忍び寄るチンピラ
制服に着替えて店を出ると、周りは真っ暗だった。
「うわー、もう夜だわ」
「午後四時から八時まで働いて、バイト代が二千円じゃ割りに合わないわよねえ」
そう愚痴をこぼした。
「文句言わないの。私は何としてもお金を貯めて欲しいものがあるんだから」
カナは拳を握り締めて夜空を見上げた。
「何よそれ? 初めて聞くけど」
空を見上げたままのカナの顔を覗く。
「あれれ? もしかして、テファニーのオーブンハートペンダント?」
カナの顔が。みるみるうちにニヤケていく。
「そう! それ! 当然よ~」
「なんだ、やっぱりそうだったのかあ」
笑いながらカナの背中をバシバシ叩いた。
二人は同じ物を目当てにしていたのだ!
やっぱり女の子は貴金属に目がないものなのよ~。
『落胆中。それはさておき、背後より人間の男二名接近中。思考回路解析済み。よからぬことを企て中。警戒中』
え、え、ちょっといきなりなによ! テンション下がるじゃない。なんとかしなさいよイナリ。
『了解。異次元へ転送し、スリ身にして宇宙魚の餌にするのが妥当と判断。効率的』
ダメに決まってるでしょ~! だいたい宇宙魚ってなによ! ……なんとなくやり過ごせないの?
『おっ? 都合が良いことに助っ人登場。私の出る幕無しと判断。待機中』
なんですって?
一体誰よと聞こうとした時、後ろから声を掛けられた。
「こんな遅くまでバイトとは、せいが出るねえ~」
深々とニット帽を被った人相の悪い男――。
「バイト代、ちゃんと貰ったのかな~? 最低賃金以下だったら俺達が差額を請求してやるぜえ~へっへっへ~」
もう一人の顔も確認しようとした瞬間――、白いボールが勢いよくその男の顔にぶつかった!
「ギャン!」
一言も発することなくその男は倒れ、のびてしまった。
「――なんだ! なにしやがる! どこだ出てきやがれ!」
もう一人の男が辺りをキョロキョロしていると、同じようにボールが飛んできて、全く同じように男にぶち当たり、男同士が重なりあって、あっという間にのびてしまった。
「誰? もしかして、橘君?」
きゃー、これって最高のシチュエーションだわ。――カナが邪魔だけど!
『五十鈴佳奈も、全く同じことを思考中。落胆中。残念ながら別人物』
「こんな遅くまで二人とも何をしてたのよ?」
歩道の並木から姿を現したのは、――則子だった。
「「なんだ……則子か……」」
私とカナは声を揃えてそう言った。
「こらこら! タチの悪いチンピラに絡まれそうになっていたところを助けられといて、「なんだ則子か」はないでしょ!」
半ば呆れながら則子は落ちていたソフトボールを拾い上げた。
「そうよね、野球のボールはもっと小さいものね」
そのセリフで則子も二人が何を期待していたのか察した。
「橘君じゃなくて悪かったわね! 彼ならまだグランドで練習してたわよ」
則子は体操服の上にコートを着ている。女子ソフト部も野球部のように遅くまで練習しているようだ。
「則子はいつもこんなに遅いの? 危なくない?」
「私は平気よ。ボール持ち歩いてるし、いざとなったら走ってでも逃げられるし。でもあなた達は気を付けなさいよ。運動音痴なんだから」
「へへへ」
余計なお世話よ……。二人ともそう思った。
こうして三人は駅まで一緒に帰ることにしたのだが……、
『チンピラと称された男二名は、顎骨折のため異次元より修復実施。カルシウム不足と判明。しかし、田中則子は手加減を学ぶ必要あり。少し気の毒中』




