でも憧れの橘君
イタリアからの転校生ディアブロ・ゾンタを普通科の教室まで追いかけて行った真奈美は、痛恨のミスを犯す。
でも憧れの橘君
あの青い瞳の彼を……何とかして私のものにしたい~。
下駄箱で靴を履き替えると、早速普通科の教室へ向かった。
「ちょっとマナ! 授業始まっちゃうわよ?」
「平気平気! もう一度青い瞳を見るだけなんだからっ!」
カナも私についてくる……ってことは、どうやら興味があるみたいだわ。二人は女子ばかりの通称「生活科」で、教室の方向が普通科とは全く逆なのだ。
教室の扉についている小さなガラス窓越しに中を覗くと、青い瞳のディアブロには、男女大勢が群がっている。
「ああん! 周りの奴等が邪魔で、私のディア君が見えないじゃないの!」
『私のという表現は不適切と判断。しかも、昨日までその対象は橘太郎であったと記憶。真奈美の目移りの早さに落胆中』
「いいのよ、どうせ橘君は高嶺の花でライバルも多いじゃない。それに田中則子のことが好きってところが致命的なのよ!」
ついそう口にしていた。
「そこをどいてくれないか。教室に入れない」
その声に……慌てて振り向いた。
――なんと私の背後にいたのはカナでなく、橘……君。
「――やだ。橘君!」
鼓動が一気に倍速で刻み出す――。
変なこと……聞かれてなかったかしら?
『「田中則子のことが好きってところが致命的なのよ~」と言った真奈美のセリフは、一字一句、完全に聞かれていた。これこそ致命的。待機中』
イナリのそのメッセージを読むと、自分の浅はかさにがっかりする――。
「お、お、おはよう、橘君……」
「ふん。俺に用なんてないんだろ。どいてくれ」
教室の扉を乱暴に開けて、私の横から教室へ入っていってしまった……。機嫌も悪そうだ。辺りを見渡すと、もうカナの姿もなかった。
始業のベルが鳴るのもそれと同時だった。
自分の教室へ向かって走った。
「もう、イナリのせいだからね。……ああ、橘君のポイント下がっちゃたわ」
「始めからそんなポイントは皆無。どちらかと言えば積算値でもマイナス。今日はさらにマイナス五十ポイントと判断。ただし――」
息を切らせて教室へと駆け込んだ。まだ担任は来ていないようだ。セーフ、助かった。
「ハア、ハア、ただし――なによ?」
小さな声でイナリに確認する。
『ただし、最近の橘太郎は情緒不安定。精神的に弱っている。原因は先ほどのディアブロ・ゾンタが要因と解析。待機中』
担任が入ってきて朝のホームルームが始まったが、私はイナリの話に夢中だった。
――なんでディア君のせいで橘君が弱っているのよ。
『女子生徒の自分に対する支持率が半分以下まで下落。瞳が青いだけで魅力的とされるディアブロに過剰嫉妬。打率も半分以下まで下落。俗に言うスランプ。待機中』
「そうなの、可哀想。……つまり」
「『――今がチャンス!』」
イナリと私は思考回路が同調しているようで笑えてしまう。
『同調ととられては甚だ迷惑! 私の思考回路の方が超最新。最先端。真奈美に仕方なく合わせているだけ。……同調中』
また憎まれ口をたたいている。
イナリは超次元戦艦にランクが上がっても、思考回路はたいして成長していないみたいね。
『……真奈美のそれと比較しても時間の無駄。後悔中』




