青い瞳の男子
真奈美は青い瞳の男子に、目や心を奪われる。
青い瞳の男子
昨日の疲れなど次の日には皆無である。なんせ私はまだ十代の乙女なのだ。疲れ知らずなのよ。
『超回復処置のお陰。私のお陰。待機中』
イナリのそんな言葉を読みもせずに登校する。
「おはよう、マナ」
「おはよ。カナ」
電車を降りたところで親友の五十鈴佳奈に出会い、今日も小説の話で盛り上がる。
「マナは何巻が一番面白かったの?」
私とカナは同じ恋愛小説に夢中なのであ~る。
「やっぱり三巻でしょ。あの辺りから二人の愛が育まれていくんだわ!」
カナは首を斜め四三度に傾げる。
「……そうだったかしら。一体誰と誰のこと?」
うわ! カナったらそれもわからずに読んでいたのかしら?
そう思うと、私が教えてしまってもいいのか心配になってしまう……。
『心配無用と判断。真奈美の心配度数バラメータは理解不能クラス。待機中』
あ、そうなの? じゃあ教えてあげようかしら。
「ケン様とミュラ様よ。二人は熱く結ばれて、互いに引き裂かれるのよ。これこそ愛だわ」
聞いた途端、カナが白い目で私を見る。
「二人とも男じゃないの。しかも、百歩譲ってもあの二人は同姓愛者じゃないわ。ケン様は既婚者だし」
「チッチッチ、そんなの分からないわ。奥さんに隠れて、なんと男と不倫してるのよ~。それでもって、最後は要塞と共に宇宙に花を咲かせたんだわ~」
途中からカナは――聞いてもいない。
上等よ!
「ああ、儚い命はなんて美しいんでしょう~」
両手を顎の前で組んだとき、校門を通過する金髪の男子生徒と目が合った。
その男子は、こちらを向くと……ニコリ微笑み、そのまま校舎へと入っていった――。
なんだろう……胸の辺りがキュンとして立ち止まる――。
目で追いながらカナに問いかけていた。
「い、今のは誰? あの金髪って、地毛よね。だって……目も青かったもの」
もう小説の話は頭の片隅にもなかった。
「何言ってるのよマナ……。知らないのは全校生徒でマナくらいよ」
「え? え? カナは知っているの? 誰よ、教えてよ!」
私がカナに必死で問いかけるのには理由があった――。
『イケメン。理由と言うほど大それたことではないと判断。待機中』
イナリのため息が聞こえてきそうだが、今はイナリに構ってなどいられない――。
「三学期から普通科に転校してきた外国人よ。確か、ディアブロ・ゾンタって名前だったかしら。イタリアから来た、超お金持ちらしいわよ~」
「キャ~! すっごく素敵じゃない!」
一度見ただけの、青い瞳にもう釘付けだった――。