ニュイタタと呼ばれるカベチョロ
セレモニーの御馳走に、宇宙での高級食材「ニュイタタ」が使用されていた。
ニュイタタと呼ばれるカベチョロ
セレモニーは何事もなく進んでいったのだが、他の宇宙人が壇上で話している最中にオードブルを食べているのは、私だけだった……。
セレモニーには長い挨拶がつきもの……。それが全て終わると、やっと他の宇宙人も食事や飲酒を始めたのだ。
「あれ? そう言えば、ここにある食べ物――全部地球の食べ物よ!」
食べていてその事に、全く気が付かなかった……。
「真奈美様のためにマナミ銀河の情報をイナリ様から事前に頂きました」
マドランが隣でそう言い、寿司を慣れない箸さばきで食べ始める。私の文化に合わせてくれているのだろう。
「なんだ、そうだったのか。宇宙人が何を食べてるのか、少し興味あったのに」
「いえ、特に変わりませんよ。これらの食材は全てこの星系で採れたものばかりです。それをデータに従ってそれらしく作成させました」
私は大トロを頬張ったまま止まった……。
それって、味と形は似てるけれど、全く別物ってことかしら……?
『異次元より全食材の安全性はチェック済み。真奈美が食べても害無し。心配無用。待機中』
「ちなみに、……この大トロは一体全体……何で出来ているの……?」
飲み込んでしまったのは浅はかだったかもいれない――。
イナリが材料を目の前に、鮮明なグラフィックで表示してくれた。
『ニュイタタと呼ばれる食用カベチョロ。栄養価豊富。ドルフィー銀河において高級食材。料理方法によりその食感は、「トロトロフワア」から「サクサクパリッ」まで自由自在。究極の食材』
「――何が高級食材よ! これってヤモリじゃないの~!」
窓ガラスにへばり付いていて、昨日も母が若い女子みたいに「キャーキャー」叫んでいた!
『しかし真奈美、サイズが大きく異なる。地球上の恐竜サイズカベチョロ。超高層ビルにも登れる。再現中』
――吐き出したい衝動をかろうじてこらえた。
見なければよかったんだが、目を閉じてもイナリの映し出すニュイタタこと巨大ヤモリがペタペタと地を走り回る~!
「もう! さっさと消しなさい! 気持ち悪い!」
もう何も食べられなかった――。
この搾りたてのオレンジジュースだって……何を搾ったのか分からないわ!
『ニュイタタの膀胱……』
また目の前にニュイタタが現れる!
膀胱を搾った? ……それって――!
『冗談冗談。食欲旺盛の真奈美は少し栄養摂取量調整の必要あり』
「どこからどこまでが冗談なのよ、ハッキリしなさい!」
半ば涙目でそう言うと、イナリは私の問いかけを――完全に無視した――。
『――! ドルフィー第一惑星周辺宙域に艦影多数ワープアウトを確認。その数、五千とんで二隻。一斉砲撃開始のもよう――!』
「こら! 話を反らすんじゃない!」
『……いや、非常事態なんですけど。カベチョロどころじゃないと判断。弁解中』
「さっき食べた大トロはどっちなのよ! 冗談なの? カベチョロなの?」
『……カベチョロ。でもカロリー調整の為に、真奈美の胃袋前で異次元へ転送済みのため、事実上食べていない。制限中』
「え? じゃあ食べてないの?」
『超次元戦艦うそつかない。冗談は言うが』
ほっと息を吐いた。
な~んだ。食べてないならいいわ。
食べても食べてないことになるなら、味わわないと損なのかしら? そう思って大トロをまた食べ始めたその時、大きな警報音が鳴り響いた――。
ジリリリリー!