真奈美の所信表明
いよいよ真奈美のスピーチが始まる……。
真奈美の所信表明
――ちょっと~、そんな静かにされたら、逆に緊張するじゃない! ……鼓動が聞こえてきそうだわ。
イナリ、スピーチの内容を早く出してよ!
『了解! 頑張れ真奈美!』
目の前に文字が浮かび上がった。
私はマイクに向かってそれを読み上げた。
「……ア、ド、リ、ブ、ってなんじゃこりょ!」
ナンジャコリャと言いたかったのだが……それすら噛んで言えなかった――。
大きな音声で私の声が遠くまで響き渡る……。
まだ静かなままで、私の顔だけが赤面していくのがよく分かった。
『ドルフィー銀河の民は私の声明ではなく、真奈美の声を聞きたがっている。思ったことを言うのが一番と判断。待機中』
待機中って何よ! 薄情者~!
……頭の中が真っ白になっていく気がした……。
「えーと、あの~。その~」
……高校入学時にクラスで無理矢理やらされた3分間自己紹介を思い出す。
あの時も名前だけを言って……、ず~っと立ち尽くしていた。もう自己紹介すらトラウマになった。
――しかし、今回は名前すらまだ言っていない。名前? ……そうか!
「樋伊谷真奈美です。16歳です。趣味は読書と音楽鑑賞です」
あ、なんかいい感じ。普通に喋れるじゃない。
「好きな言葉は、ラブ安堵ピースで、嫌いな人は、体育の先生です」
あら、言っちゃって良かったのかしら? まあいいわ。イナリも黙って聞いている。マイクを握ってさらに話した。
「この間、ヌガヌグ帝国の戦艦をやっつけたのは、実はドルフィー銀河を助けるためなんかじゃなかったんだけど、なんか……いい結果になったみたいでホッとしてます」
ガイザク提督とマドラン統括が顔を見合わせている。だって本当なんだもん。テヘペロ。
「ってことなので、私に期待されてもあんまり大したことは出来ないんですけど、……ええっと、当選したあかつきには、より良い社会にしたいと思いますので、清き一票をよろしくお願いします……? お仕舞い!」
――何の一票だ、これは選挙演説だったのか?
言っていて自分でも途中から訳が分からなかったのだが、なんかスッキリした。
『真奈美にしては上出来と判断。我が主、サラマン・サマー様も拝聴。傑作とお褒めの言葉を頂戴した。……腹を抱えて笑って下さった、功績ポイントを5ポイントも頂いた。満足中。感謝中。待機中』
それって、ひょっとして……馬鹿にされてる?
笑顔が少しひきつったものになる……。
「ありがたいお言葉……ありがとうございました」
マドランがそう言うと、辺りからはまた大歓声が沸き起こった。
「ささやかではありますが歓迎セレモニーの準備が出来ています。どうぞこちらへ」
警備員が真奈美の周囲を囲み、一行は宇宙港の建物内へと向かった。
『私がいるので警備など必要なしと判断。また、この警備員では惑星外からの艦砲射撃には全く無力。手薄。待機中』
「そう言ってぼやかないの。心遣いよ」
そう呟き、宇宙港にある大きなドーム状の建物へと入った。
 




