酒盗になった痴漢
またもや遅刻しそうになった樋伊谷真奈美は、恐怖の四両目に乗りこみ、非常に怖い思いをする。
酒盗になった痴漢
次の日、私はまた電車の時刻と競争をしていた――。
全く進歩がないが、毎日走るのは連休明けの運動不足解消には丁度いいのかもしれない。
――なんせ正月に1.5キロも太ってしまったのだ! 食べた餅の数を計算しながら駅へと走った。
今日もなんとか間に合った。昨日と同じ車両。恐怖の四両目だけど、問題ない。小説さえ読めれば隣にいるのがおやじであろうが親父であろうがおじやであろうが関係ないのだ。
しかし、私はマークされていた――。
扉のすぐ前に立っている私の周りを何人かの男性が取り囲んだ。
私は小説に夢中だったのだが、席が空いているのに座っていないのが気にかかった。その席に座ろうと思ったが、周りには人がたくさんいて、とてもそこまで辿り着けそうにない。
仕方なくまた小説に目を落とした時、
――私のお尻に何かが触れる感触がした。
最初は誰かのカバンでも当たってるのかと思ったのだが、徐々にエスカレートしていく。
――佳奈が言ってたのは本当だったんだ!
どうしよう……周りには同じような中年男しかいないし、――怖くて声も出せなかった。
その男がスカートをめくろうとしたその時――、
「ギャー!」
――突然の大きな悲鳴! 全員の視線が私に集中する――?
――ちょっと待ってよ、悲鳴を上げたのは私じゃないわ! ――後のおっさんよ!
それに本来悲鳴を上げたいのは私のほうでしょ!
恐る恐る後ろを振り向くと……手のひらを真っ黒に焦がしたおっさんが恐ろしい顔で私を睨んでいる。
ハハハ……?
私はなんにもしてないし、被害者なのに……なんでそんなに怒ってるのかしら……?
――ちょうど駅に止まり扉が開いた――。逃げなきゃ――!
学校とは全く関係ない駅で途中下車せざるを得ない状況になった――。
「助けて~!」
その時は声を高らかにあげて走って逃げたが、誰も助けてくれない――。
後ろからは手を真っ黒にしたおっさんが血相を変えて追いかけてくる――。
「待ちやがれー」とか、「これは傷害罪だー」とか、意味のわからないことを叫んでる~!
待つもんですか!
息を切らしながら走って駅を出た――。
警察か……自衛隊とか……どこかにないかしら? だいたい、どっちに逃げたらいいのよ! その時、
「左」
誰かの声が聞こえた。
「ハア……ハア……え?」
「この先、左方向」
それはナビゲーションシステムのような男の声だった――。
訳もわからず言われるままに左に曲がった。後ろからはまだ追いかけてくる。
「左方向に進入して下さい」
「……分かったわ!」
そのナビの指示通りに走りきったその先は、――なんと、人気の全くない廃墟ビルだった!
「ちょっと! なんでよ~、こんなところに来たら逆に危ないじゃない! それに行き止まりじゃないの!」
得体の知れないナビに向かって叫ぶと、すぐ後ろから声が聞こえた。
「このガキめ、舐めた真似しやがって!」
おっさんは後のポケットから何か出そうとした。
――目が真っ赤で正気でない――。
「やめて――助けて!」
そう叫ぶと――目の前の男は急に真っ赤になった……?
まるで全身が真っ赤な酒盗? になった気がしたが、次の瞬間その酒盗の塊は目の前から姿を消した。
――一瞬で人が完全に消え去ったのだ――!
酒盗……魚の内臓の塩辛。珍味。