弁論大会 私の主張
真奈美の通う高校では、冬休みの宿題に「私の主張」の作文があった。
弁論大会 私の主張
冬休みの宿題に、「私の主張」という作文があった。
私の通う高校では、それをクラス毎で選考し、選ばれた人は全校生徒の前で発表する、弁論大会があるのだが……、
「そんな催し物をして、一体どこの誰が喜ぶって言うのよ。非生産的だわ」
「まあまあ、そうぼやかないの。どうせマナのは選ばれないから大丈夫よ!」
登校中にそう言って私を安心させてくれたのは、友達の「カナ」こと五十鈴佳奈である。
「どうせ選ばれないって言われると、……なんかそれはそれで悔しいんですけど」
虚ろな目でカナを見ると、手を前で振りながら答えた。
「ごめんごめん。でもマナは何について書いたの?」
ゴッホン!
咳払いをして胸を反らして答えた――。
「もちろん、この大宇宙と異次元の神秘についてよ。どこかの学会で発表したら、ノーベル賞ものよ!」
もしそうなれば、私は一躍世界のヒーローだわ~。きゃっ、どうしましょ。
『あの文章では説明が不十分と判断。待機中』
イナリの思考が文章化され、直接目に映って見える。
私以外の人がいるときは、イナリは自分の存在がバレないように、考えたことを文章にして表示するのだ。
「それって「私の主張」と全然関係ないんじゃない。マナは小説の読み過ぎよ……」
そう言ってカナは、胸を反らしたままの私を置いて先に歩いていった。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
追いかけると、カナは早足で逃げた!
まてまて! 運動不足なんだから、朝から走らせるな!
二人は笑いながら登校した。
心配が安堵に替わったのは、ホームルームの時間であった。担任が弁論大会のクラス代表を発表したのだ。
「内容がとても良かったので、先生は田中の書いた私の主張を、クラスの代表にしようと思うけれど、どうでしょう?」
満場一致。誰も反対する者がいない。
それどころか、選ばれた田中則子も文句一つ言わないのは、……絶対の自信ってやつ? それか、大勢の人前で話すことについて、全く何も考えていないのかのどちらかだろう。
『他の者の嫌々書いた主張と、田中則子の意欲を持って書いた主張の内容の差は歴然。私も推奨。待機中』
――誰もイナリの講評なんて聞いてないわ。……っていうか、読んだの? ……私の主張?
『私の主張だけではなく、みんなの主張を読んだ。待機中』
……。