湖畔でバーベキュー (挿絵あり)
謁見の順番を並んで待っていた真奈美だが、あまりにも暇なので周辺を歩き始める。
静かな湖畔で二匹の宇宙人(?)と出会う。
湖畔でバーベキュー
……どうせ順番が最後なら、別に並んで待つ必要もないんじゃない?
目の前の宇宙人が気持悪かったのもあるが、また少し、周辺を歩くことにした……。
「私はまだ真奈美の護衛任務中。目の届かないところへは行かないで欲しい。ここでは異次元シールドや主砲が使用不可」
「分かったわ。でも大丈夫そうよ」
空気も美味しいし、まるで自然豊かな高原に来たようだ。
――今じゃ私にとって……地球の方がよっぽど危ないところなのかもしれない。ここから無事に帰ったとしても、私の日常は取り戻せない……。
地球では大勢の犠牲者を出してしまった。学校周辺は事件で大騒ぎになっているだろうし……。地球に戻っても本当に楽しいのかさえわからない――。
……かと言って、こんな辺境の星で生活する訳にもいかない。いったい――私はこれからどうしたらいいのだろう。
――どうなってしまうのだろう――。
「そこの方。良かったら僕たちと一緒にバーベキューでも楽しまない?」
「そうそう、どうせ順番待ちで暇なんでしょブヨ」
考えごとをして、ぼうっと歩いていた私に、突然得体の知れない宇宙生物二匹が声を掛けてきた~。
一匹は豚のような鳥。もう一匹は……青い石コロのような、小さな物体……。日本語を喋ってはいるけど、
――どちらも宇宙人だ!
襲ってきそうではないが、一歩引いてしまう。
……その二匹は、あろうことか、網で肉を焼いて食べているではないか!
湖の畔。確かにバーベキューするシチュエーションとしては最高なんだろうけど……。
「え、ええっと。私は日本語しかしゃべれません。しかもバーベキューをしたい気分でもないですし、お腹も張ってませんから~」
――きゃ~! 助けてよイナリ! 宇宙人にナンパされてるんだわ!
――だいたい、宇宙人の相手ってどうしたらいいのよ~!
――好みのタイプじゃない時の断り方――教えてよ~!
そう考えてもイナリは何も答えてくれない! 異次元シールドを解除していると、私の考えを読み取ることができないんだわ!
「恐がらなくても大丈夫だよ。美味しいから食べてごらん」
青色をした石コロのような奴が、肉をどんどん焼きながらそう言う。豚のような鳥が、焼きたての肉をガツガツ食べている……。
困ってうろたえていると、イナリの声が聞こえた。
「人間が食べても無害と判断。真奈美は空腹。食べて時間つぶしをしてはどうだろう。そこの二匹に悪意は無しと確認済み。安全。待機中」
イナリも私にそう勧める……。
それじゃあ……いただこうかしら。
宇宙人の食べる物が、人間の口に合うのかどうか不安だったが、二匹の横に座って出された箸で一口食べ、その心配も消し飛んだ。
「あら、何よコレ、美味しいじゃない!」
まるで国産牛肉だわ!
……美味しそうな匂いに釣られ、つい食べてしまったが、……はて、得体の知れない物だったらどうしよう。
――ピタリと噛むのが止まった。
「人工牛肉だから大丈夫だよ」
青石コロがそう言った。そして恐らくは異次元からだろうか、空間から肉を出して焼き続ける~。
長い箸を器用に使って肉を並べて焼くのだが、どう見ても手や指なんかが見えない。
念力で箸を使っているのかしら……? だったら、箸自体もいらなくない?
豚のような鳥は、汗を掻きながら頑張って食べているが、だんだんペースが落ちている。……よく見ると足で立っていない。地面から浮かんでいるのではなく、こいつは! 腹が地面に当たって、足が浮いてしまっている。どうやって歩くのだろう?
「ところで君はどこから来たんだい。珍しい姿をしているけれど」
「ええっと、地球です。銀河の太陽系の第……? 惑星です」
――家の住所なら言えるが、宇宙で地球の場所を説明できない~。だいたい銀河で通じるのだろうか? 疑問である。
「なるほど。それは遠いところから来たんだねえ」
「ブヨブヨ」
遠いところ? この二匹は地球を知っているのかしら……?
イナリの方を見た。気になることがあるとすぐにイナリを見てしまう。
「地球の座標をデータ化して、二匹に直接送信実行。……ただし豚鳥には理解不能の様子。食べることに夢中。待機中」
なるほど、イナリ達には言葉とは違う、宇宙用の通信方法があるのね。だから私の日本語が通じているのか……。
「珍しい姿って言ったけど、あのステージの上にも人が立っているじゃない。すらっとした男の人が」
青石コロにそう言いながら、いい具合に焼けた肉を遠慮なく食べた。
「あれは見る者によって違う姿に見える謁見用の互換装置らしいよ。君の場合は二足歩行生物に見えるだろうし、僕の場合は、僕のような姿に見える」
「肉にしか見えないブヨ!」
「みんなの思い描く理想の姿を投影し、謁見を速やかに終わらせるための物らしいけど。毎日たくさん並んでいるから……。君は終了間近に来て正解だよ」
並んでいる宇宙人はもう残り二人にまで減っていた。
私は並ぶために、今食べている肉を飲み込むと立ち上がった。
「もう並ばなきゃ。どうもご馳走様! ありがとうございました」
「またおいで」
「バイバイブヨブヨ」
豚鳥が小さな羽を振っている。笑顔で私も手を振ると、ステージへと向かった。