帝国艦隊 VS 寄せ集め艦隊 (挿絵あり)
次元戦艦オイナリサンは、ヌガヌグ帝国を滅ぼすために、ドルフィー銀河集結隊と合流し闘う。
帝国艦隊 VS 寄せ集め艦隊
ヌガヌグ帝国主星は鉄と鉛でできたような黒い色をした天体規模の要塞であった。
その大きさは地球の約5倍あり、真っ黒な球体に赤い光が無数に散りばめられ、見るからに不気味な色彩である。
その周りには同じような色をした無数の宇宙戦艦が集結している。
それに対抗するかのように、ドルフィー銀河内から集結した艦隊が向き合っている。色に統一性がない。寄せ集め艦隊なのだろう。
「……色や形どころか、艦隊運用にも統一性は皆無。敵艦隊約一万隻。銀河集結隊は二万五千隻。ヌガヌグ帝国は制御装置一つが指揮をするのに対し、銀河集結隊は個々の戦艦にて指揮を行う。戦闘が始まれば通信すらままならない。勝負する前に勝敗は分かる」
「なんでよ! たくさん考える人がいる方が色々アイデアが出ていいんじゃない?」
「団体で行うスポーツで、個人プレーが拒まれるのと同じ」
ああ、なるほど。個人プレーで目立つと他の人に恨まれるものね。上手すぎる奴とか……。
「それはちょっと違う。……ドルフィー銀河集結隊と交信。音声と映像通信のため、こちらも真奈美を投影する」
「え、ちょっと待ってよ!」
ソファーから立ち上がり目の前の大スクリーンに映し出された集結隊の隊長と向き合った。
「未確認宇宙戦艦。こちらはドルフィー銀河集結艦隊のガイザク提督である。貴艦も我らと共に闘ってくれると信じて良いのだろうか?」
日本語を喋ってくれるのはありがたいが……姿が気持ち悪い。
大きな顔には眼のような物がたくさん付いており。顔の横から太い足が出ている~。
ハッキリ言って化け物だ! グロイ!
「……初対面で化け物呼ばわりされるとは思わなかったが、現在、我々は極めて不利な状況。一隻でも味方が欲しい」
「ええっと? はい、頑張ります!」
「ありがとう。作戦は随時暗号にて送信する。今は待機していてくれ」
交信が終了した。
気持ちの悪い顔がスクリーンから消えてホッとしたのだが、
「ちょっとイナリ! 私がキモイと思ったのを、さっきの奴に言ったでしょ」
「直訳して交信した。生物同士であればお互い理解できるかな~と推測した。隠しごとは良くない。待機中」
頭を押さえた。
「ハア~、せめてオグラートに包むような配慮はないわけ?」
初対面の宇宙人にいきなりグロイなんて言われたら、私ならかなり落ち込むだろう。
「その件に関しては心配無用。銀河内で他の宇宙生物との接触を経験していれば、先程のようなことは日常茶飯事。挨拶のような物。それより――。敵艦隊が射程距離に入った。戦闘開始している」
拡大投影された敵艦隊は全て虹色のバリアーを張っている! そして光輝くレーザー砲で一斉に砲撃を開始しのだ――!
「いよいよね! こちらも反撃よ!」
そう言って拳を握るが……イナリは何も行わない。それどころか、こちらの艦隊は全く砲撃すら始めていない――?
「こちらの艦隊は射程距離外。戦艦によりバラつきがあるが、射程距離が敵艦のおよそ半分。私は砲撃可能。射程内なのだが、……なんせ味方が前にこんなにうじゃうじゃ固まっていると、砲撃できない状態。味方に当たっちゃうよ。待機中」
「じゃあさっさと前に出なさいよ! 異次元へ転送すればいいでしょ」
なにが「待機中」だ!
「了解。異次元転送にて最前線へ移動。完了」
見ると目の前に居た味方艦隊は全て消え去り、黒い壁のような敵艦隊の列から、レーザーが一斉に降り注いだ――。
「きゃっ!」
目の前のスクリーンが全てまっ白に光り、驚いて……しゃがみこんだ。
「ほらね。眩しくて目も開けられない。照度調整中。完了。待機中」
そっと前を見ると、目の前で敵のレーザーが消えている。イナリもバリアーを張っているんだわ。
「ちょ、ちょっとビックリしただけよ! このバリアーは、本当に大丈夫なんでしょうね!」
「地球用にデフォルトした物を使用中。忠実に再現するため、あえて途中で切れるように設定。待機中」
「じゃあ駄目じゃない! こんなところに居たら、私達も無駄死にしちゃうわ!」
「だーかーら。異次元シールドは常時展開中。見せかけバリアーが切れても、敵の攻撃は無効。傷一つどころか、異次元転送をするから、かすりもしない。待機中」
「なーんだ。だったら最初からそう言ってよ。それと、いつまで「待機中」なんてしているのよ! 突撃しなさい!」
イナリは心地よいエンジン音をさせ、敵の前へと前進した。
「ガイザク提督より危険との警告あり」
「無視して。どうせ効かないんでしょ?」
イナリが前に出ても大丈夫なら、できるだけ敵艦隊の攻撃を集めておいた方がいいわ。最前線に居る味方艦は、既に殆どが火や煙を上げている。何隻かは宇宙の破片となっている……。
「それで……、イナリは何で反撃するのよ」
「異次元魚雷が有効と判断。敵もミサイルを多数発射確認」
「え、なに? 雷魚? 外来魚? ブルーギルとかのこと……? 意味が分かんないけど、それ発射!」
「ブッブー! まだ射程距離外。射程半径は2万キロメートル。あと2秒必要。接近中」
ブッブーってなによ! 腹立つわ~!
ちょうどイナリは敵艦隊と味方艦隊の真ん中位の位置に居る。モニターを見ると、黒い飛行物体が飛んで来ては、次々と消えていく――。
「敵のミサイルを異次元80318に転送中」
「それって、回収して自分の物にしてるわけ? せこくない?」
「せこくない! モッタイナイ! 資源のリサイクルは大宇宙でも必要。――異次元魚雷発射準備完了」
お、いよいよね。私は手を前に出して大きな声で言った。
「異次元魚雷発射!」
ちょっとは艦長らしくなってきたかしら。ウフ。そんなことを考えて微笑んだ瞬間、敵艦隊の前列はまたもや眩い光の壁に変わった。
「ちょっと! 照度調整しなさいって! 何が何だかわかんないじゃないの――」
「異次元魚雷全弾命中。敵艦半数撃破」
「はやっ! どういう意味よ」
「先程撃った異次元魚雷ってミサイルが全部当たりましたよ。そして敵の艦隊は五千隻が壊れてなくなりましたよ。という意味。待機中」
頭を掻いて聞き直す!
「えーい。そうじゃなくて、何でいきなりそんなに敵をやっつけられたのかって聞いているのよ。異次元魚雷ってそんなに破壊力豊富な武器なのかってことが聞きたいの!」
「魚雷を異次元80318内にて光速付近まで加速させ、その後、敵艦内の位置で大宇宙へと返送。宇宙戦艦も人間も中身は弱い構造は同じ。シールド不可。石ころでもダメージ絶大。ミサイルなら敵艦破壊してお釣りがくる威力。しかも全弾敵の魚雷のため、効率的」
「……もらった物を返したってことね?」
「どちらかというと、叩き返したってこと。さらに敵艦隊に接近中。両舷小型レーザーにて適度に応戦中。魚雷は回収続行中」
敵艦隊はイナリから距離を保つために散開している。
どうやらこちらの射程距離が敵には分かったようだ。極端に広がる敵艦隊内に包囲される形となってしまい、上も下も右も左も前も後も敵だらけだわ!
遠くから細ぼそとレーザーで攻撃してくるが、もう魚雷ってミサイルは使ってこないようだ。
「これじゃいつかやられちゃうわ。早目に敵の一番偉い奴を何とかしなくちゃ!」
「敵艦隊旗艦を識別中。完了。異次元にて移動中。完了」
聞いている内に、前が暗くなったりピンクになったり……。いつもながら、ちょこまか早過ぎて、何が何だかわからないのよ……。
目の前に、木星で見たのと同じような真っ黒の戦艦が一隻、大きく映し出された――。
「周辺護衛艦は異次元転送済み。敵旗艦シールド発生装置、推進動力装置、全ての兵器を異次元に転送。敵艦を完全に無力化完了。――敵艦より入電のため通信と映像にて応答」
「はあ?」
機械同士のやりとりは……早過ぎて人間にはついていけない――!
数秒後、目の前のモニターは、敵艦隊の映像から、訳の分からない黒い機械の箱の映像に変わっていた。
パソコンのタワーモデルのような黒い箱……。こんな黒い箱なんて映す意味はあるの?
「黒い箱ではない。我が制御装置であり、映像通信での非礼を避けるためあえて投影している物だ」
「あ、あらそうだったの。ごめんね。……って、イナリは何でも通訳するなって言ってるでしょ!」
「了解。ヌガヌグ帝国は停戦を要求。全艦隊は攻撃停止を確認」
「あ、そうなの。じゃあもうこれ以上犠牲者は出ないってことね」
「いや真奈美。まだドルフィー銀河各地のミサイル配備駐留艦隊はそのままの状態。人質を取られたままの状態」
イナリがそう言うと、その黒い箱もまた喋り出した……。
「フッフッフ……さよう。艦隊戦では敗北したが、我々にはまだ切り札が残っている。真奈美とか言ったな。貴様が何者かは知らぬが、そちらこそ艦の全動力を停止させよ。さもなくば、ドルフィー銀河内数千もの知的生物、及び文明が瞬時に滅ぶであろう。
三分間時間をやろう……」




