木星軌道上での戦い (挿絵あり)
次元戦艦オイナリサンは、木星軌道上で敵艦隊と死闘を繰り広げる!
木星軌道上での戦い
何の心配もなく次元戦艦オイナリサンの艦橋に居た――。
宇宙戦艦の艦橋にはあるまじき白くて丸いテーブル。その横のソファーに腰を掛けてコーヒーを飲んでいる。
これから私の部屋を出て、木星軌道上の敵艦隊ってやつを破壊しに行くところなんだけど、緊迫感どころか、かなりくつろいでいる。
周りのスクリーンは全てピンクやオレンジ色の波模様でゆらいでいる。モニターの線でも抜け外れて「ジャミっている」のかと思ったら、それが異次元80318の姿だそうだ。
見ていてすごく落ち着く。私も異次元が好きになったのかもしれない。
「現在出撃準備中。真奈美はこれに着替えて欲しい――」
「え、何それ?」
コーヒーをテーブルに置くと、白いテーブルに音もなく黒い服が出現した。
その服を手に取って体に当てて見る。……どこかで見たような艦長が着る制服だ。
「……これに着替える意味はあるの?」
「敵艦との交信が発生した場合などに、地球人の秩序、文化、品位を損なわないための配慮。真奈美は地球だけでなく、この銀河系で初の他銀河系とのコミュニケーションを取った者となる。言わば銀河代表。その為の正装。よって必要不可欠!」
――絶対嘘だ。
そうそう会うはずもない宇宙人に、わざわざ気を使う必要なんてないでしょう……。
……まあ、そうは思いながらイナリの頼み事も少しは聞いてやるか。興味本位でその制服に着替え始めた。
「何の目的か知らないけど。着替えてあげるからあっち向いてなさい」
「了解」
あっちってどっちだ。
不思議と艦長らしい制服を着ると、そんな気持ちになってくる。着替えが終わると私は右手を前に出してそれっぽく言った。
「次元戦艦オイナリサン出撃! 目標、木星軌道上、敵艦隊!」
「了解」
ドドドド――!
重力制御推進装置の心地よい音が響く。
「唸り音は地球感覚に演出中。本来無音。また、戦艦後方部より光と音で推進イメージ再現中」
「なによそれ、じゃあわざと音を出して、光らせているわけ?」
「その通り。演出。主の宇宙戦艦イメージで我らは作成されている。本来無音。超クリーンな推進装置。目的地到着」
「はや!」
正面の大スクリーンを見ると、木星が大きく見えるが、真ん中に大きく黒い物が映ってしまい、木星がドーナツ状に見えている。
「イナリ……なんか画像がおかしいわよ。せっかくの木星が綺麗に見えないじゃない」
「敵艦によりこの角度から木星を完全目視は現在不可」
「なんですって。この黒い大きな塊は……敵の戦艦なの?」
よーく見ると、大きく黒いその塊には赤黒い光が様々なところで不気味に光っている……。
「大きく映し過ぎよ。こんなに大きく映したら、何が何だか分からないじゃない」
「拡大投影は未実施。木星も敵艦も真奈美の目視と同じ大きさで投影中」
「……ってことは、この目の前の戦艦が物凄く大きいのか……もの凄く近いかのどちらかってこと?」
「正解! 敵艦までの距離、10cm」
「ちかっ! もしかして、異次元から敵の位置とかは分からないわけ?」
「ミリ単位で把握可能。敵の意表をついて撃滅するのが賢明」
それでも近過ぎる! 私の意表をついてどうするのよバカ!
見るとその目の前の黒い物体は少し後退し、それと同時に虹色のような物が表面をコーティングし始める。
SFなんて全く興味がない私が見ても、それが何かくらいは分かった。
「バリアーだわ。敵は私達に気付いてバリアーを張ったのよ! どうするの? イナリの武器って効くの?」
そう言った次の瞬間、目の前の黒い物体が突然消えて、木星がその美しい姿を全て現した――。
「――消えたわ! 私達に気付いて異次元にワープしたのよ、きっと!」
気がつくと手にはびっしょり汗をかいていた。
「ワープではない。異次元へ転送した。待機中」
「異次元転送? じゃあ敵も異次元戦艦だったの? どうするのよ、逃げちゃったじゃない!」
「……異次元80318へ転送したのは私。現在敵艦5隻は異次元にて制御装置解析と改造中。完了。異次元内敵艦5隻は時間停止待機中。もう敵艦ではなく、材料。待機中」
何よそれ――。
もう終わっちゃったって……わけ?
「戦闘終了。待機中」
「あ、っそう。……早かったわね」
「大宇宙において異文明の戦いでは、戦力の差、技術の差により一瞬でケリが付く。私と敵とではフォークとトマホークくらいの戦力差。待機中」
全然ピンとこないわよ――!