目的は次元戦艦オイナリサン
敵の目的を真奈美が知り、心底……腹を立てる!
目的は次元戦艦オイナリサン
部屋に入ってコートを脱ぐと、ベッドに座った。
隣にある妹の部屋の扉が閉まる音を確認してイナリに問いかけた。
「いいわよ。さっきのことを全部説明して。何で「橘君もどき」なんかが出てきたのよ。あと、それで何が分かったのか。……言っとくけど、簡単にまとめて説明してよね」
「真奈美レベルでの説明了解。「橘太郎もどき」とそれを制御している敵艦隊は、ここより約1256億光年離れたドルフィー銀河と呼ばれる銀河系より襲来。目的は次元戦艦80318を手中に収めるためで、現在その次元戦艦80318の護衛対象である真奈美を奪取し、洗脳することにより、次元戦艦80318を味方に引き入れ、他の銀河への侵略を計画中」
「つまり、私ではなく、次元戦艦であるイナリを手に入れるために、わざわざ橘君の偽物まで作って私に接近したってことなの?」
「正解! 昨日破壊した隕石は、砲撃による正確な真奈美と私の位置をつきとめるためであり、地球の破壊は目的外だった。真奈美が死んでしまっては、敵の計画は白紙に戻ってしまう」
……ってことは!
――結局イナリのせいで地球が破壊されかけたわけじゃん――!
それと……、私はこれからもイナリと一緒にいる限り、狙われ続けるってこと……?
「大正解! 本来の樋伊谷真奈美には狙われるような価値は……皆無!」
それは確かにそうなんでしょうけど、皆無~! とか言われると、カチンとくる~!
百歩譲ってそれは仕方ないとしても、イナリのせいで一体どれだけのリスクを我々地球人が背負ったことになるのだろうか……。
「リスクとしては惑星一つ程度。大宇宙的にとっては極小規模。待機中」
「うっるさい! 黙って人の考えてることに口を出さないで! 大体なによ、それじゃあ全部あなた達のせいだったってことじゃない! それで御免なさいの一言もないわけ? 私達地球人は絶滅しかけたのよ――!」
「私は主の命令に忠実に従っているだけ。護衛中……。待機中……」
「なによそれ! 私たちが住んでる地球よりも主の命令が大切ってわけ?」
「当然――。大宇宙には地球と同じような未発達知的生物が居る星は、……星の数だけある」
星が星の数だけある? そのままじゃない!
――冗談なら面白くもない~!
「それらを統一される我が主の命令は、一銀河よりも重要」
「もういいわ。それはわかった」
……聞いていても、どんどんムカついてくるばかりだ――。
「そのサラマンとかいうイナリの主が何者かは知らないけれど、今すぐ私をそこへ連れて行きなさい!」
「面会は土曜日の深夜〇時の予定。今から出ても早過ぎると判断。だから待機中」
「サラマンの予定なんてどうでもいいの! 今すぐじゃなかったら駄目! それまでに地球が滅んだらどうにもならないじゃない。さっさとしなさい!」
「……了解。……異次元通信中。完了。本日予定面会時間終了後、五分間だけ面会に応じてやる……とのこと」
応じてやる……ですって?
――どこまで……偉そうな奴なの~!
「これより出発すれば、予定時間より一時間早くサラマン第一惑星へ到着可能。ただし、途中木星軌道上の敵艦隊を撃破する必要ありと推測。許可を――。待機中」
「その敵艦隊が、……私をまた狙うっていうの?」
「次元戦艦返品が受理されなかった場合を想定。また、返品が受理されても、そのことについて敵が確認できる可能性が不明。誤射や誤洗脳、誤隕石により真奈美に危害が及ぶ可能性あり」
「……それはそうよね。イナリを返して、その後で意味もなく地球を狙って来られたら、防ぎようがないわ。……でもイナリの返品は決定よ」
「了解。――本来であれば返品された後のことを、私が危惧する必要はない。ただ……」
珍しくイナリが曖昧な表現をする。
ただ……何よ?
もしかして戦艦のくせに、――私に惚れた?
「……ただ、主との面会で私の評価を下げるコメントを控えてもらいたいため、残された時間で可能な限り真奈美の私に対する評価をあげる措置を行いたい」
「はあ?」
……それって、もしかして、ゴマすり……?
「地球用語のそれに当たるか否かは不明」
開いた口が塞がらなかった……。
この思考は一体誰の物なのだろうか。う~ん、聞かなくてもわかる気がする。全ての元凶――。
「その通り。我が主サラマン様の思考回路が我々次元戦艦には全艦搭載されている。大宇宙一の完全なる制御装置。その思考回路はまさに完璧。自慢中!」
「……はいはい。せいぜいゴマでも何でもすって頂戴。それじゃあ行きましょうか」
宇宙で完璧なる制御装置の話は、さらっと聞き流す程度でいいのだろう――。