蜂の巣 (挿絵あり)
「橘太郎もどき」を消しさった真奈美とイナリは、別の敵(?)に狙われる!
蜂の巣
「あ!」
『あ!』
私とイナリが同時にそう言った。
イナリが「あ!」って何よ! ……もしかして、全く気にしていなかったの?
私は瞬時に顔だけを両手で隠した。
顔さえ見られなかったら、後日、バレないかな~っていう安易な考えだ。
『賢明と判断。異次元への転送を依頼。待機中』
「駄目駄目――、そんなことしたらまた怪しまれるでしょ!」
そう言いながら公園の外へと走って逃げようとした。
すると自衛隊の人は何やら大声で叫びだしたのだ――。
「――に、人間が消えた! 高校生くらいの女性が、一緒にいた男を目の前で……いきなり消し去った――!」
「探していた女が見つかりました――! 大至急、来援を――!」
「公園から駅方向へ逃走中! 銃の使用許可を願います!」
――何ですって?
わ、わ、私に、銃を向ける気――?
ダメダメダメ~! それだけは絶対駄目よ!
『早々異次元への逃走が賢明。銃を向ける相手を私は敵と判断。削除可能。捕捉中』
「削除は絶対駄目よ! でも、確かに走って逃げているうちに、色々目撃されるわ……」
どうしようか迷ってしまう。
パラパラコロコロ……。
なんか……ライフルの弾みたいな物が体の周りに落ちている気がするけれど、何これ?
「異次元シールド展開中。顔面モザイク処理も実施中」
「モザイク処理ですって? 何よそれ! 私は犯罪者でもなんでもない……か弱い女子高生なのよ!」
目の周りに、何やらうっとおしいモザイクが見える……。仕方ないのかもしれないが、もう少しマシな方法があるはずだ。
『横長四角黒塗りも可。待機中』
――うるさい!
できるだけ人の居ない方を探して走りながら答えた。
「――仕方ないわ。どこかに隠れてから、異次元に転送してちょうだい!」
「了解。待機中」
ちょうどコンクリートの小さな倉庫が目の前に見えてきた。
自衛隊とはいえ、走って近づいてくるような勇敢な愚か者は居ないようね。私はそのコンクリートの倉庫に隠れた。
「いいわ、異次元へ――」
――その時、私の隠れたコンクリートの倉庫が爆音と共に崩壊した!
「――ちょ! ちょっと何ごとよ!」
「ロケット弾ごと。待機中」
――何よ、本気で私を殺すつもりなの?
ロケット弾なんて……当たったら死んでしまうわよ!
「いやいや真奈美さん。ライフル弾でも人間は普通に死ねます。何発も喰らってますけど」
「……んもう! 地球の恩人を殺そうとするなんて酷いわ!」
「火炎激直砲発射準備完了。誤差修正完了」
「……じゃあ、それで派手に壊れそうな物をだけを壊して、みんなが驚いた隙に異次元に転送して! ――くれぐれも人に当てちゃ駄目よ! 怪我もさせちゃ駄目だからね!」
「了解。火炎激直砲発射!」
どこから発射されたか分からないその火炎激直砲は、私を追ってきた自衛隊の一メートルほど後ろの地面を爆音とともに吹き飛ばし、瞬時に大きな穴を開けていた――。
――隊員が驚き、一瞬そちらを向く。
そして私の方を向き直した時、私は既に家の玄関の扉を開けていた。
「ただいま」
玄関を開けると、鍋を頭に被ってお玉を手に持つ父親と、同じく座布団を頭に被った母親に出くわした。
「おお、真奈美、何処に行っていたんだ。早く扉を閉めて鍵を掛けるんだ!」
「今、あなたの高校周辺でまた何か奇妙な事件があったらしいのよ。しばらく家を出てはいけないわよ!」
玄関の扉に鍵をかけながら答えた。
「うん。分かった。外は危険が一杯だものね」
父親に鍋を渡されると……それを頭に被りながら自分の部屋に戻った。まるで戦時中のコントを家族全員でやっているようだ。
「お姉ちゃん、どこ行ってたのよ。心配するじゃない」
瑠奈も自分の部屋から出てきた。
「……コンビニに立ち読みに行ってたの。まったく、子供じゃあるまいし、心配し過ぎなのよ」
さすがに銃で撃たれそうになったとか、ロケット弾が私を狙って飛んで来たとかは言えない――。
『銃弾482発、ロケット弾1発が実際には当たっていました。待機中』




