敵接近 (挿絵あり)
異次元粒子砲の発射位置から、次元戦艦と真奈美の正確な位置が敵にバレてしまう。
敵接近
私の高校は一週間休校が決まった。その他の学校は元通り始まったらしかった。
「妙な事件で受験に影響が出たら大変よ」
朝ご飯を食べながら妹がぼやいている……。今日は学校へ行くのだろう。
逆に私は期待してもいない連休をどう過ごすが考えていた。何処へ行っても誰と居ても今はただ憂鬱になってしまうだろう。
「御馳走さま」
また部屋へ上がって行った。
私の居場所は他にないような気がする。とりあえず土曜日までは何があっても部屋でゴロゴロすると決めていた。
――そう決めていたのだが、事件というものは、急に訪れる!
急にスマホが鳴り響いたのだ。……スマホは急に鳴り響く物なのだが、今の私は精神状態不安定。見覚えのない番号に戸惑った。
「番号検索。結果、橘太郎所持スマホと一致。相手が橘同一人物かは現状不明」
「――え~! 橘君からなの?」
直ぐにスマホに出た。躊躇する必要なんて、ないわ~!
『……。待機中』
「もしもし、樋伊谷です」
『橘です。今、大丈夫?』
「私は大丈夫。色々あったけれど、橘君の声を聞いると、そんなことも吹っ飛んでしまうわ」
『……。人の命の尊さも橘太郎と比べれば、「そんなこと」程度と推測。落胆中』
ええい――シャラップ! ごちゃごちゃ文字を出すな!
『じゃあこれから会える? 場所は前に待ち合わせをした公園。俺はもう待ってるから、出来るだけ早く来て欲しい』
「え、もう待ってるの? わかった、超特急で行くわ!」
スマホを切った。
――急いで服を着替える。いくら急いでいたってパジャマで出かける訳にはいかない!
……あ~あ、要件は何かしら? 私に会いたいの? きゃ! やだ、どうしよう……胸がキュンキュン……。
「鼓動修正。興奮状態抑制実施――」
「――せんでいい!」
着替えを終え、玄関を元気に出た。
「ねえ、イナリ。お願~い。今すぐ公園の近くまで連れて行ってくれない?」
「……真奈美の都合の良さは、宇宙でも上位クラスと判断。可愛く言っても私には二足歩行生物的感情はない。護衛以外は任務外。待機中」
「じゃあ、サラマン様とやらに都合の悪いことばかり言うかもしれないわよ……」
言い終わる前に私は、公園裏の目立たないところに立っていた――。
――確かにこんなことでは……この世界はいつか滅んでしまうかもしれないわね……。ウフ。
橘君はベンチに座っていた。
学校周辺にはまだ自衛隊の人や海外から調査団のような人達が居る。映画のようにライフルを持っている。待ち合わせする場所としては――少しロマンチックさに欠けている。
「お、おはよう。橘君」
そっと声を掛けて近づくと、橘君もこっちを向いた。
「おはよう。真奈美ちゃん」
――やだ、真奈美ちゃんだなんて~。
私達、まだそんなにお近づきになってないじゃないの~。顔が赤くなってしまった。
『――! 橘太郎と同一構成素子を持つ異なる物と判明。警戒中――。真奈美に注意勧告中!』
「やっと探したよ。さあこちらへ」
橘君がそう言って素早く私に手を差し出してきた。
――え? やっと探した?
私が……その手に触れようとしたまさにその瞬間――。全てが止まった――。
――ような気がした。
――突然、異次元へ転送されたのかと思ったが、目の前、周辺全てが真っ暗に包まれている。
宇宙空間では無い。星すら見当たらないのだ――。
次々に流れ変わっていくイナリからの文字だけが見えた……。
大きくため息を吐く……。いつもいつもイナリったら……。
「ちょっと、何するのよ! イナリの仕業でしょ。早く元に戻しなさいよ!」
言っても戻らない。
……仕方なく目の前に大量に表示さた文字を順に読むことにした……。
『橘太郎同素体脳内を解析。拒否により解析不可』
『再試行実行中。拒否により解析不可』
『異次元より脳内解析強行。解析中。不正侵入因子発覚――地球外物質検知』
『護衛対象への接近は危険レベル。橘太郎は敵と判断。ただし見掛け上人間であるため、機能停止は被護衛者真奈美との契約違反のため、削除不可』
『真奈美に削除許可申請』
『――返答なし。返答まで時間必要。敵、真奈美に接近。接触による危険最大レベル。異次元シールド最大へ調整』
『敵制御装置解析完了。敵体内と木星軌道より遠隔制御が判明。真奈美と敵との接触までに撃滅は不可』
『真奈美の異次元転送は目撃者多数のためバレる可能性あり。真奈美に許可申請中』
『真奈美に敵の異次元転送許可申請中』
『――返答なし。返答までは削除申請同程度の時間必要と判断。遅過ぎてあくびが出る』
『……接触までの時間皆無のため、主に時間停止依頼』
『時間停止許可返答。元時間にて半径十万光年内、真奈美を除いて時間停止確認』
『時間停止中。敵制御装置解析中。解析完了。待機中』
私は途中を、……飛ばして読んだ。
いつもながら……さっぱり意味がわらない。
いいところなのに! 説明しなさい――!
「異次元への移動により真奈美の存在が世にバレる危険が生じたため、現在半径十万光年を完全に時間停止中。真奈美を異次元に転送してもいいか、もしくは「橘太郎もどき」の削除をしてもいいか、真奈美の許可待ち。待機中」
「なに言ってるの、そんなの駄目よ! いいとこなんだから! それに、なんでわざわざ時間を止めるのよ。前に異次元は時間を止められると言ったけど、宇宙は無理だって言ってたでしょ?」
「大宇宙でこの銀河周辺のみ時間停止中。私ではなく主に依頼。解析データーより真奈美が橘太郎もどきと接触により完全に洗脳される危惧あり。橘太郎もどきは物質として人間であるが、オリジナルではないと判明。異次元通信により木星付近の駐留艦隊より遠隔操作中」
「なにそれ。橘君は橘君よ」
「橘太郎は現在実家前で素振り中。こちらの橘太郎もどきは人間ではあるが、製造工程と制御が異なる。簡単に言うと。真奈美を洗脳するために木星付近から送り込まれた有機物粘土細工。ただし人間の為、削除には真奈美の許可が必要。待機中」
橘君が素振りをする姿が目の前に映し出されると……、イナリの言う通り、目の前の橘君が急に怪しく思えてきた。
こんなに思う通りに――橘君から会いたがるハズがないもの……。
私を洗脳するために、送り込まれた粘土細工……。偽物の橘君……。
「偽物なら……こわしちゃって」
どこかの宇宙人が造った偽物なんかに……興味はない。
「ポカッ! 完全破壊完了。その後異次元へ転送して再度解析実施。――解析完了。先日の隕石と真奈美の護衛依頼者について全て判明。ただし、説明は時間を正常通りに戻してからが賢明」
確かに真っ暗の中では居心地が悪い――。
「時間停止にて、光の進行がないため可視による確認は不可能。また、時間停止しているだけ大宇宙には歪が生じ、我ら次元戦艦による歪みの修復作業が必要。主への時間停止解除依頼」
イナリがそう言うと、急に光の中に立たされる眩しさを感じた。
目の前に居た「橘君もどき」はもう消えていた……。恐らく今頃は、異次元空間で時間停止された状態で色々解析されているのだろう。
異次元で解析される橘君もどき……。少し可哀そうと考えた。
しかーし、私はもっと酷い目に遭った!
なんと! 自衛隊の人たちがこちらを見ていたのだ!
暇つぶしに……高校生同士のラブラブなやり取りを見たかったのかもしれない~。