大量殺戮兵器
真奈美は人類が滅亡する確率を聞き驚愕する。
イナリが一つの提案をすると、……真奈美の心が激しく揺れ動く!
大量殺戮兵器
次元戦艦が私の護衛を始めて一カ月が経とうとしていた――。
その間、私は平和ボケしていたのかもしれない。
――恋愛や友情にうつつを抜かしている場合ではなかったのだ。世界を驚愕させるような大量殺戮兵器が私にはあるのだ。何者が……何を目的とした物なのか、まだ分からないままだ。
大きな悪の組織や、詐欺等を疑って仕方がないのだが――。
「その可能性はない。我らの任務は全て主が下す。宇宙の統一において必要と判断が下されたからこの任務を遂行中。また、真奈美も完全に調査済み。審査された結果、無害と判断されている。待機中」
イナリはそう言う。
部屋のベッドで天井を見ながらぼんやりそれを聞いていた。
「でもイナリ。もし私があなたの力を利用して、地球制服なんかを企てたとしても、それが本当に正しいと思うの?」
「正しい。主は宇宙を統一されるお方。一つの知的生命生存惑星が主の支配下となる。待機中」
「それでもし……、何人もの犠牲者がでても正しいの? 本来、宇宙人とかは、他の星の発展とかに影響を与えてはいけないんじゃないかしら?」
「主が正しい。それは絶対。宇宙の統一者が統一している星系に影響を与えるのは当然の運び。銀河間の影響は、場合によっては規制を必要とするが、そもそも、その上位である主が影響をあたえるのは、言わば必然」
「なにそれ? 弱肉強食って言うわけ?」
「大宇宙は全てにおいて弱肉強食。待機中」
アホらし……。
そんなこと言ってると、いつかはその主も食べられちゃうわよ。
「我が主はアホではないと推測。それに、君達二足歩行生物も弱肉強食と判断」
「人間は違うわよ……。弱い人や弱い者を守るの。だからこんなに発展してるのよ」
「それは人間が地球上で絶対的強者となったことによる勘違い。うぬぼれ。発展といってもたかだか数千年。千年後には絶滅する計算。待機中」
人間が――絶滅する計算ですって?
「なんでよ! なんでそんなことが言えるの? ま、まさか……見てきたの?」
そう聞いた直後、……少し怖くなった。
――次元戦艦やサラマンとかいうイナリの主は……過去も未来も行き来できるの――?
「それは不可能。ただし、これまでのデータより、同種で殺し合う種族は、生物であれ機械であれ、自滅した事例が大宇宙で百万種族を超える。互いを傷つけ合う遺伝子が全人類に蔓延確認済み。待機中」
そ、それは確かにそうなのかもしれない。
……今でも戦争はどこかの国ではやっているし、強大な軍隊を持つ国も多い。
「軍隊や戦争だけが傷つける遺伝子ではない。先日の、「争ってでも橘太郎を得たい」という思考回路自体が絶滅へ導く遺伝子。自分の遺伝子を残すために、同種の遺伝子であっても排除を希望している。つまり敵と認識」
「違うわよ!」
違うにきまっている……けれど、つい先日の自分のことを思い起こす……。
――一体何が違うのだろうか――。
「単純なものほど多くの矛盾を生む。待機中」
「違う……はずよ。私達人間は平和を好むのよ。そのために軍隊や兵器が必要なのよ……」
……言っていて……それこそが矛盾と感じる。
じゃあ何故軍隊が要るの? 兵器が要るの?
――ああ~、なんかムカつく!
「核兵器などが存続する限り、人間の滅亡期は即近と判断。残り千年も無理」
「……そうよね。そんな危険な兵器があるのに、平和だ繁栄だなんて言ってるのが、あなた達宇宙人が見たら、ちゃんちゃら可笑しいことなのかもしれないわね」
「――宇宙人ではない。次元戦艦!」
ため息が出る……。
人間の思想や矛盾やエゴは誰も正してくれない――。
この星には人間以上の知恵と力を持った生き物が居ないのだ――。
「誰か忘れてないか、真奈美」
イナリに指があるのなら、自分をクイクイっと指して言っているのだろう……。
「イナリから見た人間はどうなのよ」
「地球という惑星に大量発生した一生物。納豆菌と大差なし。5分とは言わないが、五年以内に全て滅ぶ可能性もあり」
「どれくらいの可能性よ」
「推定5%。単純に比例しており、五十年後であれば50%の確立で滅亡」
「50年後に50%で滅亡――? それって、私が橘君をゲットするより高いじゃない!」
「確率的にはそうなる。だが安心するがいい。真奈美が滅ぶ確率は五十年後も0%」
「0%はいくらなんでも言い過ぎじゃないの? 地球が全て火の海になるのかもしれないのよ?」
核兵器は、地球の全人類を数回滅ぼせる数が保有されているのに……。
「異次元転送にて問題は全て解決。異次元は時間停止も可能。真奈美は異次元80318が崩壊するまで何億年でも今の姿のまま存在可能」
「時間止めた異次元でさまよえって言いたいの?」
「それが一番確実。任務達成。次なる任務を頂き、また我が主のお役に立てる。待機中」
結局は主が一番なのね……。
人類の存続や私の命も、イナリにしてみれば任務の一環でしかないわけか……。
「……? もし、この世界から核兵器が全てなくなったら、人類はどれくらい延命できるのか分かる?」
「計算中――完了。五年後であれば少数第二位を四捨五入して推定0%。全て滅ぶ確率は皆無となる。五十年後でも5%未満と推定」
ということは、千年先は分からなくても、せいぜい私の老い先くらいは保障されるってわけね……。
「真奈美の老い先は不明。異次元で待機すれば、何年でも時間停止可能。待機中」
ごめんイナリ、黙って。
私はそりゃあ、長生きはしたいんだけど、地球がなくなって、人が一人も居なくなった状態で、私一人異次元で生活したいとは思わないのよ――。
「橘太郎と二人っきりでも可能だよん」
「――え! ちょっと、何いいだすのよ!」
二人っきりってことは、ええ~!
それってアダムとイブじゃない。それって……キャー。顔が赤くなるじゃないの~。
「二人っきりのスイートな毎日。華やいだ世界。異次元いいとこ一度はおいで」
ああ! ああ! 胸がキュンキュンしてしまうわ――はっ!
ついついイナリのイイナリになるところだった――!
危ない危ない……非常に危なかったわ――。




