修復できない傷
佳奈は真奈美にライバル心を抱く!
田中則子のお弁当を見て、真奈美は驚愕する!
修復できない傷
月曜日。登校した私は、いつものように佳奈と親しくできなかった。
やっぱり昨日のことは聞けないし、佳奈から話ても来ない。
……ふつう、何かいいことがあったら親友に一番に話に来るはずなのに……。
「佳奈、昨日何か楽しいことでも……あった?」
それとな~く聞いてみたのだが、
「ううん。別に何もないわよ」
佳奈はそう答えるだけなのだ。
――顔にウソと大きな顔で書いてある! ニヤケているようにすら見えてくる!
ああ、私は一人また恨みを募らせていくのか。……そしてイナリにまた馬鹿にされるんだわ!
「どうしたの真奈美」
則子が私の様子を察してか、ただ暇を持て余しているだけなのか、休み時間に声を掛けてきた。
それとなく昨日、佳奈と橘君が一緒に居たことを告げると、則子も興味津々であった――。
「そうなの。へー、友達どうしが今日からライバルってことね」
「そんな他人事のように面白がらないでよ! どっちかっていうと則子の方がライバルなんだからね。……でもよりによって佳奈と橘君が一緒に居るなんて……」
則子は笑顔で見ている。
「私も参戦しちゃおうかな~」
きっー! と則子の顔を見た。まさか本気?
「冗談よ、冗談。おお怖い」
「全然冗談に聞こえないし、笑えない~!」
則子が橘君のことをどう考えているのかも、まるで分らないわ!
「で、昨日は橘君をずっと尾行していたの?」
「……いやいや。そんなストーカーみたいなこと、さすがにしないわよ。たまたまよ、たまたま」
「ふーん」
また則子は納得していないような笑顔で私を見る。
――まさか2キロ先の密会が、見えて聞こえていたなんて言えない。
次の授業が始まる少し前に、教室に佳奈が戻って来た。何処へ行っていたのかは知らないが、私の机の前に来ると突然――、
「マナ、この前の練習試合のボール、橘君に返した方がいいわよ」
そう言ってきたのだ。
……? 意味が分からなかった……。
「え? なんで佳奈がそんなこと言うのよ」
「だって、あれは橘君が則子にあげようとしたボールでしょ。マナが持ってるのはおかしいわ」
いくら親友とは言え――ムカつく。
「で、返したら佳奈がそれを貰うつもり。冗談じゃないわ。返すもんですか!」
「橘君に嫌われても知らないわよ……」
そう言うだけ言って、佳奈は自分の机へと戻った。
――なによ、それだけを言うために、わざわざ私のところへ来たの?
イライラしていると、イナリの待機中の文字が変化した。
『5分前、五十鈴佳奈は橘太郎に接近を確認済み。ボールを真奈美が返さないと言う回答も五十鈴佳奈は予測済み。橘太郎にその旨を報告し、橘太郎の真奈美に対する評価低減が目的。作戦としては効果大。待機中』
頭を抱えた。――どちらにしても私に分が悪いじゃない……。
『五十鈴佳奈が言う通り、あのボールの所持者は橘太郎か田中則子か部費を支払った野球部のいずれか。真奈美が持っているのは不当と判断。待機中』
――うるさい!
イナリまでそんなこと言わないでよ。私の味方をしなさいよ。
『私の任務は護衛のみ~。待機中』
ああ、ムカつく! なによ役立たず!
結局、私には誰も味方は居ないのね……。悲しくなっちゃうじゃない……。
『ただし、田中則子を味方につけるのは得策と判断』
……そうは言ってもねえ。
則子を見た。則子は学級委員もしている。先生が教室に入ってきて則子は起立の号令をかけた。
佳奈とギスギスした関係が続いた――。
今まで一緒に食べていた昼食も、今日は他の友達と食べている。私は一人自分の机でお弁当を寂しく食べていた。
……何てこと。……せっかくの寄せ海老フライが、ちっとも美味しく感じない……。
ご飯を何気なく箸で突いていると、則子が自分の弁当を持って私の前の席の椅子を借りて座った。
「いつも弁当一緒に食べる佳奈が居なくて、落ち込んでるんでしょ?」
机に大きな弁当箱を置く。もちろん則子一人分だろう。
「……そうよ。何よ佳奈なんてもう知らない! 友情より愛情ってわけ? もう友達やめようかしら」
「まあまあ。恋は焦らずって言うでしょ」
則子は決して可愛くもない大きな弁当の包みを解きながらそう言ってくれた。
「それにしたって私には分が悪いわ。彼氏と友達を一気に取られた気分」
「まだ彼氏なんかじゃないでしょ~」
さすがに則子はあきれてそう突っ込む!
「あ! そうだ、あなた達の友情にヒビが入らないように、私が無理やり橘君と付き合おうか?」
ああ、ため息が出る――。
「そんなのは解決にも何っっっにもならないてば! 逆にみんなでギスギスしちゃうわよ! って弁当デカ!」
則子のあり得ない大きさの弁当と、その中のご飯の比率に驚いた。
――十割ご飯じゃないの~。
ご飯の上に塩コンブが散らしてある~!
「昼はこれだけ。部活前に部室でも一つ食べるのよ」
「すごい食欲ね。きっと男子のラグビー部も顔負けだわ……」
則子は片手で弁当を少し手前に傾けると、どんどんそれをたいらげていった。
可愛い子がやると何でも許されるのであろうか、この大宇宙では……。




