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ボディーガードは次元戦艦オイナリサン!  作者: 矮鶏ぽろ
第一章 次元戦艦オイナリサン!
25/196

火炎激直砲発射――!

真奈美は母親に頼まれ、ナマコと酒盗とマヨネーズを買う。

事件はその後に起こる!

 火炎激直砲かえんげきちょくほう発射――!


 ――ん?

 外が暗い? 暗いですって~!

 ベッドで昼寝したのが2時頃だったから、……4時間も昼寝してしまったことになる~。

「ちょっと寝過ぎたじゃないの! 大宇宙の時間浪費は勿体ないんでしょ! 起こしてくれたっていいじゃない!」

 そう愚痴を言ったのは当然イナリに対してである。

「君達二足歩行生物は多大な浪費によりストレス解消や要求を満たす精神構造部分あり。待機中」

「今は4時間も浪費したくなかったの!」


 まったく!

 せっかく楽しみにしていたテレビ……見逃してしまったじゃないの――。


「周辺デジタル電波は全部受信し、解析と保存を実行中。真奈美の瞳に投影も可能」

「え、瞼に映してテレビも見られるの?」

「当然。テレビ以外でも飛び交っている情報は全て視聴可能。有料放送も無料。巻き戻し中」

 凄いじゃない! どこでもテレビが見られるなんて! ……巻き戻しってなに?


 さっそく見逃したドラマを見たいとイナリに言った時、下の階から母の声がした。

「お姉ちゃん。ちょっと降りて来てくれない」

 ――もう何なのよ~。

 ムズキュンドラマをお預けにされ、下の階へ降りて行った。

「ごめ~ん、ちょっとマヨネーズ買ってきてくれない?」

「えーなんでよ」

 そんなの何とかならないの? あと……妹の瑠奈に行かせばいいじゃない!


『酢、サラダ油、卵黄にて作成可能。異次元にて調合可能。待機中』

 ……わざわざ作るの? その方が時間がかかるわよ!


「瑠奈は受験勉強しているでしょ。……お願いお姉ちゃん。今日はお好み焼きなのよ」

 お好み焼きにマヨネーズ……。確かに、必要不可欠だわ――!

「……わかったわ。それじゃあ仕方ないものね。その代り、お釣りで好きな物買ってもいい?」

「ええ、いいわよ」

 千円札を受け取った。

 ラッキー! これがいつもの手段なのだが、母はいたってにこやかである。


 スーパーでマヨネーズをかごに入れると、今度は鮮魚コーナーへと直行した。

「ああ、何てこと! クジラのお刺身買ったら千円超えちゃうじゃないの」

『……もっと女子高生らしく、お菓子にした方が適切。待機中』

「いやよ。鮮魚か生肉が食べたいのに! そのためにわざわざ買い物引き受けたんだから」

 仕方なく、私は隣の袋の中でプヨプヨ浮かぶ……ナマコをカゴに入れた。

『ナマコは鮮魚?』

 ――もう、いちいちうるさい!

 まだお釣りは残る。あとは大好物の酒盗(しゅとう)の瓶詰を買おう。――ああ、見るだけでよだれが出ちゃうわ。

『呆れて待機中。おっさん化現象心配中』


 帰り道はもう真っ暗だった。でも暗いのは少しも怖くない。なんせ私には、自称最強のボディーガードが()いているんだから。

『……()いている訳ではない。異次元で待機しているのだ。待機中』


 ――オイナリサンに取り憑かれている……? ありそうで怖い。

『……待機中』 


 スーパーから少し歩いたところで気がついた。

「あ! 異次元に転送してよ。それからまた家の前で戻してくれたら楽じゃないかしら?」

『護衛以外の要望に応える必要なし。バレる危険を指摘した真奈美が自らそう言うのは矛盾を感じる。よって拒否。待機中』

「あっそ。はいはい。どうせそんなに期待なんてしてませんでしたよ」

 言ってみただけよ。

 するとその時、イナリの待機中の文字が変化した――。


『目標物捕捉。直線距離2キロメートル』

「え! な何よ! 橘君? でも2キロメートル先なんて見える訳ないでしょ」

 目を凝らして見ると、――遠くの公園のベンチに橘君が座っているのがハッキリ見えた! 後姿で橘君だって分かる! 

 そして――その隣に座って楽しそうに話をしている女子の顔を……私は知っている。

 則子ではない――。

「ど、どうしてよ。――なんでそんなことになってるのよ!」


 ――五十鈴佳奈だった。


『音声拡大』

 耳の右から橘君の声――。左からは佳奈の声がステレオ音声で聞こえてくる!

 呼吸の音まで聞こえてきて、……ちょっと生々しい。


『大丈夫よ。いつか則子だって橘君のいいところ分かってくれるわ』

『そ、そうかなあ』

『きっとそうよ。だって橘君の頑張ってる姿は……素敵だもの』

『そ……そうかなあ』

『元気出して。私は橘君の味方してあげるからね』

『ありがとう……』

 

 ――ど、どう言うこと……。なんで佳奈が橘君とあんなに親しげに話しをしているのよ!

 も、もしかして幼馴染なの?


『小学校の時、同じクラスを数回確認。当時の会話履歴、検索中』

 同じクラス……だったら仕方ないか……。

 則子と付き合うために、則子の友達を味方に増やすっていうのは、橘君の戦略の一つなのね、きっと。


 だったらそのうち、私にも話しかけてくれるかもしれない――。

 きゃっ、牡丹餅(ぼたもち)から(たな)ね!


『いや。幼馴染は男心をくすぐるとデータベースに記載あり。五十鈴佳奈は橘太郎に異性としての好意を持つ発言を数回確認。危険と判断』

 ――何ですって!

 そう思ったとき、二人は立ち上がって歩きだし……私の千里眼から見えなくなってしまった。

 公園の奥に消えていくと……不安や嫉妬ばかりがどんどん湧きあがってくる!


 ――胸がチクチク痛みだし、抑えたいのに抑えられない思いが込み上げる――!


「もう。佳奈なんて最低! きっと則子にフラれて落ち込んでる橘君に接近したんだわ!」

『作戦としては完璧。成功率は真奈美の作戦の推定50倍』


 ――そ、そんなに高いの?

 ――絶対許せない! 今すぐ天罰が当たって欲しい――。



「何とかしてよイナリ! 痛い目みさせてあげて!」

 思わずそう口走ってしまった――。


「了解。火炎激直砲発射! ――命中。目標物は完全に機能停止。橘太郎は無傷確認。作戦完了。待機中」


 ――ハッとした。い……今……何て言ったの……?


「了解。火炎激直砲発射! ――命中。目標物は完全に機能停止。橘太郎は無傷確認。作戦完了。待機中。と言った。待機中」


 完全に機能停止って……何よ。


 まさか、佳奈を――。


「二足歩行生物で言う死。完全に殺した。今回は復元不可。待機中」

 足元が、ゆらゆらした……。

 顔が青ざめる。


 火炎激直砲……発射したのは私じゃないわ。でも、命令したのは……私……。


 ――でも、それは気が立っていただけで、痛い目に合せて欲しいと思ったけれど、別に殺して欲しいなんて本心で思ったわけじゃない!


「納豆菌は体にとって味方。だが真奈美は今日も無駄に殺した。それに比べ、五十鈴佳奈はライバルであり、敵。敵なら削除すべき。待機中」

「――敵だなんて! そんなんじゃないわよ!」

 しゃがみ込んで顔を押さえた。どうしていいか分からず涙だけが止めどなく溢れ落ちる。

「イナリの馬鹿! 冗談でしょ――!」


 声にならない……。嗚咽を上げながら私は泣いていた――。


「もちろん冗談。それと、私は馬や鹿ではない。百歩譲ってキツネだと認識中。待機中」

 

 ――え? 今何て言ったの……。


「もちろん冗談。それと、私は……」

「冗談なの! 何よ、イナリの馬鹿――!」

「……私は馬や鹿ではないと言った。百歩譲ってキツネ。待機中」

 

 私は初めて、悲し涙は――一瞬に嬉し涙に変わることを知った。

 

 本当に、心の底から安堵した――!

 そして親友である佳奈のことを、ちょっとでも悪く思ったことを――心の底から後悔して反省した。

 

 涙を袖で拭って言ってやる。

「イナリはキツネよ! 人を……騙してばかりいると、いつか罰があたるんだからね!」

「真奈美こそ感情の制御が必要。一時の感傷で味方を傷つけては、いずれは身を滅ぼす。いきなりキレる方こそ馬鹿。待機中」

 

 よけいなお世話よ――バカ!


『百歩譲ってキツネだと認識中。待機中』


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