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ボディーガードは次元戦艦オイナリサン!  作者: 矮鶏ぽろ
第一章 次元戦艦オイナリサン!
23/196

真剣勝負でしょ (挿絵あり)

女子の憧れの的、野球部エースの橘太郎。真奈美はウイニングボールを貰い握手をする(?)

 真剣勝負でしょ


「いや、そうじゃなくてこのボールは今日勝利した記念のボールであって、それを君に渡すって言うことは……」

 橘君が戸惑いながら、そこまで言ったところで、


 絶好のチャンス到来――!

 ――私は突き出されたボールを横から奪った。

「則子がいらないのなら私が貰うわ! ありがとう橘く~ん! 私、()伊谷(いだに)真奈美(まなみ)。よろしくね!」

 そう自己紹介をし、突き出されたままの手を握って握手をした。

 きゃっ、橘君の手って大きくて強そう。

 ――胸がキュンキュンしてしまう!


 橘君はもう……訳が分からなく、ただ呆然と私に握られた手を上下に振られていた。

「――はっ!、いや、君じゃない! 僕が付き合って欲しいのは則子さん。君なんだ」

 手を振り払われてしまった。


 ――ちっ、どさくさにまぎれてコクりやがった~!

 私だけではない。佳奈も、近くの女子達も全員がそう思った――。


「え? そうなの。だったらそう言えばいいじゃない。いいわよ」

 則子は軽~い感じで返事をした。


 ……私と佳奈はやるせない顔をしている。

 ――二人の友達の前で……。則子はひど過ぎる――!


 ――でも、絶対にこのウイニングボールだけは渡さないんだから! 

『奪還不可にするため異次元へ転送。完了』

 後ろでつかんでいたボールの感触が、スッと消えた。あ! 何するのよイナリ……。

 ――上出来だわ!


「いいけど、一つ条件があるの」

 則子と橘君にはもう、ウイニングボールなんてどうでもよくなっていた。

「私が投げるボールを、見事ホームランにしたら付き合ってあげるわ」

「なっ、なんだって?」

 それってどういうこと? 

 則子ったら橘君と付き合う気はないの? それとも、わざと撃たれて劇的な高校恋愛物語をスタートさせる気なのかしら――。

 その時は、私も佳奈もそう思っていたのだが、――違った。

 

 則子がコートを脱ぐと、なんと上下揃いのジャージ姿。家でくつろいでいて、そのままコンビニにでも来たノリなのか――あんたは!

「何で? ジャージが一番動き易いじゃない」


 美人は……何を着ていても可愛いのが……腹立たしい――。


 則子はどこからか出したのか、ソフトボールを右手に掴んで肩を回し始めた。

「ほ、本気なのかい? ……いいだろう、必ず君の投げる球をホームランにして見せる」

 橘君も……わりと単純なのかもしれない。思い抱いていたイケメンイメージとズレが生じてきている。


 野球とは距離が違うので、則子はマウンドよりも少しバッターに近いところに立っている。見ると則子の靴はランニングシューズだ。

「三球勝負よ!」

「ああ、来い!」

 バッターボックスでは橘君が真剣な目で構える。いつの間にスポ根になったのかしら……。


 則子のアンダースローから、体育の時とは比べ物にならないほど早い球が放たれ、キャッチャーミットにドン! ――突き刺さった!


 橘君は一球目を……見送った?

「ストライク!」

 審判――まだ居たのか。暇人なことだ。

「どうしたの? ソフトボールもバットは振らないと当たらないわよ」

「あ、ああ、そうみたいだな」

 橘君はバットを短く持ち直し構えた。

 そして次のボールが放たれると、橘君は思いっきりスイングしたのだが、バットは空を切り、野球部のキャッチャーは球を取れずに後ろへと逸らした。

「ットライ~!(ストライク)」

「なんて曲がるカーブだ。あんなの打てっこない!」

 橘君の心境を、他の野球部員が代弁している。橘君の顔も険しくなっている。

「これは真剣勝負なのよ」

「く、くそ!」


 あらあら、好きな女子に「くそっ」て言ったら駄目よねえ~。

『駄目よねえ~。観戦中』


「でも安心して。最後はど真ん中のストレートしか投げないから」

 則子も自信過剰だ。

 いや、まって! やっぱり実はホームランを打って欲しいのかも……。私はそう心配したのだが、やはり則子の放つソフトボールは弾丸のようにミット目掛けて飛ぶ!

 

 手加減なんて、あったもんじゃない!

 しかし、さすがは野球部のエース。バットはボールの芯を捕らえた。


 カッキン!


 ――そ、そんな~!

「「あああ~!」」

「キャー!」」

 女子達の悲鳴まじりの声がグランドに響く――。


 やっぱり則子も橘君のことを狙っていたんだわ。ああ、何てこと! かないっこないじゃない!

 

 小さくなっていくソフトボールを見送った。そして……そのボールはまた大きくなり、則子のグローブにしっかり捕らえられた。

「アウッー!(アウト)」

 審判がそう告げると、周りの野次馬や野球部員から大きな歓声が上がった。

 橘君はバッターボックスに座り込んでしまった。試合で敗れた最後の打者の姿だ……。

「私の勝ちね。今日は楽しかったわ。もっと練習しないと甲子園行けないわよ。じゃあね!」

 うなだれる橘君にそう言い、則子は私達の方へと戻ってきた。

「すごいじゃない則子」

「やったわね」

 私達が則子の勝利を喜ぶのは、けっして則子を喜ばすためではない。――私達自身のためだ……。


「ありがと。練習試合が終わって相手に礼もしないようなスポーツ選手に、私もちょっと頭にきてね。これでちょっとは頭が冷えたらいいんだけど」

 則子は心底、橘君に興味がないみたいだ。

 女子は全員則子の勝利を望んでいたのだろう。みんながいい笑顔をしていた。



昼食は則子がファミレスで御馳走をしてくれた。

私と佳奈は500円のランチパスタだが、則子はカツ丼とザルそばをガツガツ食べている……。


そんなに食べても太らない体質が羨ましい――。


「じゃあ則子って、どんな男子が好きなの。もっと凄いスポーツマン?」

「うーん。やっぱり可愛いらしい年下の男子かなあ……。何でも言うこと聞きそうだし。からかうのも面白そうだし」

 私と佳奈は思った。――絶対ドS。


 その日のウイニングボール……私の勉強机に飾ってある。


挿絵(By みてみん)

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