ウイニングボール (挿絵あり)
次元戦艦オイナリサンの発射した熱戦は、標的には当たらず大空を突き抜ける!
ウイニングボール
――な、何よそれ! もしかして自慢?
私達が橘君を狙っているのを則子もしっているはずでしょ~!
でも則子は気にせず話を続ける。
「できれば十時頃に来ていて欲しいって。さあ、急ぎましょ」
「今日の則子、なんだか楽しそうね」
二人に先立ちグランドへ走って向かおうとする。
「そりゃそうよ。私だって橘君と話くらいしたいわ」
佳奈の顔色は、――土色に変わっていった。
きっと私のもそうなんだわ……。
『着色可能。待機中』
三人がグランドに着いた時、試合は九回の表だった。
十二対〇。バッターボックスの相手に向かってエースの橘君が真剣に投げている。フェンスの後ろには私達と同じように何人もの女子が並んでいた。
――つまり全てライバルだ。
だが。私の横に立つ余裕の表情の田中則子……。最強のライバルが、まさか私の友達だなんて。
……もう今日が最後で、友達ジャ無クナルカモシレナイケド――!
「真奈美、視線が怖いわよ!」
ええ、ええ、そうでしょうとも!
もし目からビームでも出るものなら、今頃は……思いかけて私は、ハッと思いとどまった!
『凝視熱線発射準備完了。目標、田中則子。捕捉誤差修正完了。発っ――』
「わー、待て待て!」
急いで視線を則子からそらし、空を仰ぎ見る。
――何事も起こらない……良かった。
曇り空を見て深呼吸すると、冬のぶ厚い雲にとてつもなく大きな丸い穴が開き広がり……、
日が差すのが美しく見える――じゃなくてっ!
「――本当に撃つな! バカ~!」
もう少しで則子を怪我させてしまうかと思い、つい大声で叫んでしまった。
「ストライク! バッターアウト。ゲームセット!」
審判がそう言い、試合が終わった。
「……真奈美、いくら勝って欲しいからって、そんな野次飛ばしちゃ駄目よ!」
「そうよマナ。大声でそんなこと言っちゃ逆に橘君にマイナスイメージかもしれないわよ」
二人は冷たい目線を私に向けた。
――ち、違うのよ! 野次なんかじゃないのよ!
しかし、その橘君がこちらへ向いて歩いてくる!
試合後の礼もまだしていないのに。――そして私達の前で立ち止まると、
「則子さん。来てくれてありがとう。このウイニングボールを――受けとって欲しい」
――!
胸がチクリと痛んだ――。や、やはりそう来たか!
考えていた悪い方向へとばかり、事態は進もうとしている!
「え、なんで。私?」
則子も照れている――。それはそうだろう。相手はイケメンで野球の実力もあり、全校生徒の憧れの的なのだ。
胸がときめかない方がおかしい――! 他の女子もみんなが見ている!
一段と冷たい風が吹き、静寂だけがグランドを走った――。
「私、野球ボールもらっても練習には使えないわ。ソフトボールだったらいくらでも欲しいけど」
「?」
「?」
「?」
誰と誰と誰のハテナマークかは言うまでもない……。
『真奈美、佳奈、そして橘太郎。待機中』
言うまでもないことをわざわざ表示してくれて……ありがとうイナリ。




