なんか……臭い日記
夜中に日記を書きながら眠ってしまい、変な夢を見た樋伊谷真奈美。次の日にその日記を見て驚愕する。
なんか……臭い日記
昼前に目が覚めた。
昨日見た夢をぼんやり思い出すと、無意識のうちに日記帳をめくり、そして――驚愕した!
「ああーうそ、何てことなの!」
日記帳の昨日のページが――よだれでべっとりとくっ付いている!
そのくっついたページをはがすと、何と! シャーペンで書いた字がふやけて読めない!
――ああ、何てことなの!
どうしよう……。
……どうでもいいか。
あーあ、乾燥させてから閉じれば良かったと後悔しつつ、一度臭いを嗅いでからそっと閉じた――。
部屋から出て階段を降りると、狭いリビングでは家族全員が正月前の慌ただしさを演じていた。
父が餅つき機から大きな餅を取り出し、母と妹がせっせとそれを丸めている。
年に一度しかしない作業なのに皆、手慣れたものだ。感心する。
「あら、お姉ちゃんおはよう」
私に気付いた母がそう言いながら片栗粉を大きな板の上に均等に広げる。
「また夜更かしして漫画でも読んでたんでしょ。さっさと手伝いなさいよ」
小生意気な口をきく妹だ。
その手の平で餅が奇麗に丸まっていくのが、……ちょっとムカつく。
「漫画なんて読むわけないでしょ。中学生じゃあるまいし、……小説よ、小説を読んでたのよ!」
「中学生だって小説くらい読むわよ。残念でした!」
年下のくせに……腹立つわ~。
「ハハハ」
笑っているだけの父親とは、最近会話らしい会話すらしていない……。
別に嫌いとか臭いとか思ったことはないけれど、話が全く合わないのだ。
手を洗うと、妹の横に座り、正月の食糧丸めに精を出した。
シワシワの堅くなったところを裏側から無理やり押し込んで、表面だけをつやつやにして丸める。
私が一つを丸める間に、……妹は三つ丸め終わっていた。
この日はまだ、届いていた宅配便に気がついていなかった――。
大晦日の夜。私は自分の部屋でベッドに横になり小説を読んでいた。
友達に借りた恋愛小説が面白く、年を越したことすら気付かなかった。
ずっと小説を読んでいたせいか、――なんか細かい文字のような物が天井にも見える……?
目をこすってまた小説を読むのだが、ずっとその文字のような物が消えないのだ。
不思議なことにその文字を見ようとして天井を見ると、その文字もすっと上へ上へと移動する。まるで目に直接書き込まれたようだ。
もう一度両手で目を擦ってまた目を開けてみるが、やはり同じように文字が見え続ける。文字だったとしても、細か過ぎるので何が書いてあるのかも分からない。
「お姉ちゃん。そろそろ初詣に行くわよ」
下の階から母の声がした。
「はーい」
目にゴミが入ったのか……小説の読み過ぎね。
痛くも痒くもないから、まあいいか。
その時はそう思っていた――。