宇宙の最後はローパジウム
サラマンが無限の時間の可能性と、宇宙について熱く語るが、真奈美にはサッパリ分からなかった。
宇宙が腸詰ウインナーって……なに?
宇宙の最後はローパジウム
「そうだったのか……」
ゴジュルヌが唸る。
「サラマンの思考回路は俺や他の星系の制御装置より遙かに優れていると思ったのだが、同等レベルだったんだなあ……」
「さんざん引っ張っといたギャグにしては……笑えないブヨ」
「期待して聞いて損したわ。サラマンも結局分からないって事ね。ハッキリそう言えばいいのに」
「――あー! お前たち信じていないな! だ~か~ら思考回路の低い者は困るのだ。……だが、お前達が信じる信じないはどうでもいい。肝心なのはここからだ」
モニターの画面が真っ黒の宇宙とローパジウムが映し出された。
「宇宙に果てなどはない。上であれ左であれ、現在2952億光年先に真っ直ぐ進めば反対方向から辿り着くのだ」
「それぐらい知っているさ。だから何が言いたいんだ」
ゴジュルヌもいい加減なサラマンの説明に苛立っている。サラマンは真面目な声で続ける。
「つまり、消滅しない大宇宙の中心は、宇宙が収縮し、その最終局面では手の平よりも小さくなる。それが意味するのは、自分の体で自分が上下左右全ての方向から押しつぶされるという現実だ。通常物質は超臨界重力で消滅してしまうが、ローパジウムはその存在力故に消滅はしない。全方向から自分に押しつぶされた状態で身動きの取れない状態に陥るのだ」
モニターには端から端まで全てローパジウムが表示され、隙間がなくなるまで圧縮される。
「そして無限の時間が経過するのだ――」
そこまで言うとサラマンは、一つ肉を口に放り込んだ。
「……これで宇宙は終わりではない。……無限分の一の確率でローパジウムが全ての宇宙空間の物質と、異次元の物質、思念、一秒前から一秒後などの時間、全ての存在力を再度吸収した瞬間、
この大宇宙は――再びビッグバンを巻き起こし、現在のような広大な宇宙空間に膨らむことができるのだ!」
「無限分の一だと? それってゼロじゃないか!」
「ゼロなものか! 無限分の一の確率でも無限を掛ければ必ず一となる。つまり、永遠の時間経過後に必ず大宇宙は復元するという事だ!」
無限の時間? 一億年よりも長いのかしら。
「フン、比較にならん。年やそんな……計測出来る時間ではない」
モニターにびっしり9が表示される。
「私は自分の異次元から、大宇宙収縮の無限の時間の計測を試みてみた……」
「で、それはどれほどの時間だったんだ?」
「知るか!」
思わずサラマンの口からツバが飛ぶ――。
「あまりにも長いからローパジウムがビッグバンを起こしたら再起動するように設定して自分の電源を切ったわい! 無限に近い時間をかけて、超重力に異次元や思念など、大宇宙以外の別次元に存在する物質が回収されていく。時間もその速さを失い、時間の概念すら一つに圧縮される。」
「そんなバカな事があるものか! 異次元にあるものが、一体どうやって宇宙に圧縮されるというんだ? 別次元だぜ?」
ゴジュルヌが箸でサラマンの方を指す。お行儀がチョイ悪い……。
「無限の時間というのは、不可能を可能にするのだ。宇宙でできたものならば、いずれは存在力で引き合い、その異次元と接触をして圧縮される。ただし、その途方もない無限の時間とは、ゴジュルヌのバカあたまで想像できるような時間ではない」
「そして最後に気付いたのだ。計測を続ける私自身も、最期にはその臨界重力に回帰せねば、ビックバンは再発しないと!」
サラマンの口から、またツバが飛ぶ。
ゴジュルヌは顔に付いたそのツバを、そっと袖で拭きとった……。
「長くなってしまったが、結局のところ私が何が言いたいのかと言うと、圧縮された後、無秩序に作られた異次元や、思念などを回収するのに要する「無限の時間」に対し、一瞬である現在の大宇宙の存在がどれほど素晴らしいかを知っておけと言う事だ……。我々が生きられ、そして滅べるという事は、無限の時間をじっと一人ぼっちで動くことも出来ずに耐え抜くローパジウムに比べ、どれほど幸せな事か……。始まりがあれば必ず終わりは来る。ところが大宇宙には始まりがなく、終りもないのだ。私がこうして話す大宇宙の存在も無限の繰り返しであれば、無限分の一の確率で再度、再々度まったく同じ大宇宙が訪れる。そう、この大宇宙は、
途切れる事の無い腸詰ウインナーソーセージの様な物なのだ――」
言い終わると、サラマンは連なったソーセージを一気に頬張った。モニターにも連なって縺れるソーセージが表示されている。
「なるほど……。つまり、その無限の待ち時間が長い分、この大宇宙で存在する一瞬のような期間を一秒でも長引かそうというのが、サラマンの願いという訳か」
「そうだ。それに反抗する奴は別に構わん。だが私は容赦しない。実力を持って排除する」
ゴジュルヌがサラマンの掴んだままのソーセージを反対から掴んで引張る。
「だったら俺はせいぜい……その邪魔をさせてもらうさ。サラマンが正しいのかどうか俺には分からんが、絶対に正しいものなど、この大宇宙には存在しないだろ。それに、暇つぶしくらいにはなるだろ」
「フン、勝手にしろ。貴様など、暇つぶしにもならん!」
私は空を見上げた。
宇宙制御戦艦の散らばる破片。無限に時を刻む宇宙の一瞬の出来事――。
それでも必死に生き続ける私達の存在意味なんて、どれほど価値や必要性があるものなのかしら。
同時にゴジュルヌも空を見上げていた。
「そ、そういえば異次元消失は解除されたんだよな。他の宇宙制御戦艦は一体どうなったんだ?」
そうだわ!
ファンデルワールスとトロイが敵の宇宙制御戦艦二隻と闘っていたはずよ――。
「ああ、宇宙制御戦艦「オムライス」と「ヒヨタン」なら、先程ハイパジウムと戦う際、超異次元粒子砲で破壊した。破壊したというより、流れ弾が当たったのだ」
「……やれやれ。相変わらず酷いなあ」
ゴジュルヌが頭を押さえる。
「カレーライスとかオムライスはないだろう。それが本当に宇宙戦艦の名前か? 酷いネーミングだ」
――ええ? 酷いって、そっちなの? てっきり破壊したことかと思ったわ……。
「フン、名前などどうでもいい。最初はしっかり考えていたが、途中でそれすら飽きたのだ。でも奴らはそれでも「ありがたき幸せ」と喜んでいた。オイナリサンもそうだったがな」
オイナリサン……。




