消滅する宇宙制御戦艦オイナリサン――
オイナリサンが……その仕事を終える――。
消滅する宇宙制御戦艦オイナリサン――
「――貴様のミスは貴様で責任を取れ。それに生物であれ制御装置であれ、一度動作停止したものは安易に復元してはならないといつも言っているはずだ」
サラマンはイナリの願いを……聞く前から把握していた。
「今回は特別にいいんじゃないか? 責任って言うのならハイパジウムの責任なんだから……」
サラマンにゴジュルヌがそう言い聞かせるが、サラマンは――首を縦には振らなかった。
「駄目だ。大宇宙の秩序だ。みだりに覆してはならない」
「そうは言いながら……、自分の都合で好き勝手やってるじゃないか。さっきのファンデルワールスもサラマンが復元したんだろ?」
横目でそう言われ、サラマンも渋い顔をする。
「その必要があった為だ。しかし、樋伊谷真奈美にはもうその必要性がない。ハイパジウムの粒子が抜け出した今、その存在価値は有機生物一匹」
――納豆菌一匹と同等だ――。
「しかし、それじゃあまりにも可哀想じゃないか!」
「そうだよ、前から一生懸命だったブヨ?」
「大宇宙のバックアップが異次元にあるんだろ? 復元くらいすぐに出来るじゃないか! そもそも、ハイパジウムを密かに管理させるめに、――最初からサラマンが仕組んで次元戦艦を真奈美の元に送りこんだんだろ――?」
皆がサラマンに忠告する。
それが一層サラマンを怒らせているのに……気付いていないのが……痛い。
「ええい、うるさいうるさいうるさうるささいさい! 駄目なものは駄目だ!」
「サラマン様!」
イナリがそう声をあげると、皆が静まり返った。
「お願いです。私の身はどうなっても構いません。異次元レンジの材料にしてもらっても結構です。ですから、何卒、真奈美を生き返らせて下さい。――お願いします」
サラマンは冷たい瞳でイナリを見る。
半分に折れたオイナリサンの機体からは、まだ黒い煙が上がっていた。
「……なんだと? ……貴様は宇宙制御戦艦の地位や、その存在意義までもを否定し、……その有機生物一匹を生き返らせよと言うのか――この私に逆らって……」
サラマンは怒っていた。
先ほどまでとは目が違う。しかし、イナリも……もう覚悟を決めていた――。
「……はい。私はこれまで樋伊谷真奈美の護衛を最優先任務としてきました。現在もそのことに変わりは御座いません。この身に変えてでも、その任務を全うしたいと考えております――」
一度ゆっくり目を閉じた。
「分かった。そこまで言うのならそうしてやろう……。安心しろ、私は嘘はつかない。冗談は言うがな――」
サラマンが立ち上がり、片手を上げた。
「さっさと消え去るがいい。この出来損ないめ――」
イナリの姿が霞み――背景へと溶け込んで消滅していく――。
「ありがたき幸せ……。サラマン様……万歳――」
オイナリサンが大宇宙に残した……最後の言葉だった。




