血と共に流れ出る心?
墜落し炎上する宇宙制御戦艦オイナリサン。そして真奈美も力尽きる……?
血と共に流れ出る心?
白い物に覆われて……何が何だか分からない。
分からないのだが、体の落下速度は遅く、地面にタンポポの綿毛のように降り立った。
――急いで体を包む白い泡を取り去ると、そこがサラマンの謁見場前である事に気が付いた。
――胸の痛みが治まらない。足や体の痛みは既に痛覚として……存在していなかった。
「……サラマン、……サラマンはどこ!」
見慣れた宇宙人が……怪我だらけの私の姿を見て驚いている……。
今は、なんとしても、イナリを助けなくては。湖の畔に墜落し、赤い炎を上げている……。
異次元が使えない今、サラマン第一惑星は……大きな混乱の渦中にある。
急いで……なんとしても……、
サラマンに、サラマンに――復讐をしなくてはならない――。
胸の痛みが増すのと同時に……頭の中にはその声だけが響き渡ってきた。
「サラマンを破壊をするのだ――!」
そう呟いてハッとする。
――私の声ではない。見ず知らずの女の声だ……。
全ての異次元が今は消失しているから……私は誰にも干渉される筈がないのに……、何故、私がサラマンを破壊するなんて呟いたのだろうか……。
「ぶん殴ってやらないと気が済まないけど、……復讐して破壊するなんて考えてもいないわ。……そんな事をしたらイナリが修復出来ないじゃない……」
ドクン――。
――急に胸が激痛に襲われた――。
今までの比ではなく、もう……痛みで動けない激痛――!
急にその場にうつ伏せに倒れ込んだ。
痛みなんてものではない――! 心停止の感覚なのかも……しれない。目も霞んで息も吸えなくなる……。
「――だ、誰か……助けて。だ、れか……」
声も――出ない。
霞んでいく視界に、一人の男の足が見え……かすかに声が聞こえる。
「……やれやれ、まさか……こんな結末になるとは思わなかった。どうするかだなあ……」
緊急事態にも動じない悠長な言動……。
他人の痛みや哀れみを感知しない奴……。
なにより、宇宙と私の人生を滅茶苦茶にした張本人。――サラマン・サマー!
「……サラマン、……助け……て」
声にならない。
声が出ない。
胸の痛みがより大きくなると、大量の血が胸からドロドロとあふれ出てきた。
心臓が、そこからドロリと流れ出た感触が分かったかと思うと、その血の塊が――深紅のクリスタルへと姿を移し変えたのだ――。
……私の目に最後に映ったのは、その真っ赤な石が、自分の意志で動き出した奇妙な光景までだった……。




