墜落――炎上
全機能停止し墜落するオイナリサン。真奈美は最後の力を振り絞り、一人奮闘するが……。
墜落――炎上
――あった。
その強固な扉はまるで私を待っていたかの様に大きく開いたままになっている。そしてその部屋の中央には重力の塊。いわば人工ブラックホールが黒光りをしていた。
「……どこかに、……この部屋のどこかにイナリを再起動させる鍵がある筈だわ……」
艦外温度が――どんどん上昇している。
大気圏内に突入しているのだろう。もう数分の猶予もない――。
「ここまで運だけで生き抜いて来て、……最後に死ぬなんてまっぴら御免だわ。そうでしょイナリ……。だから一緒にサラマンの所へ行きましょう。そしてイナリは褒美を貰いなさい。私は……一発……ぶん殴ってやるんだから……」
球状の部屋の周囲の壁は、全てイナリの思考回路情報が詰まっている。その総数は裕に一万以上ある。青くて薄い透明クリスタルの様な制御装置。間違って抜けば、全停止を起こすと……以前脅された事もある。
「全停止しているなら間違えも正解もないわ。……これね……」
なぜその一枚を抜いたのかは分からなかった。以前の記憶でこの一枚が特に印象に残っていたのだ。その一枚にはナンバー866と書かれていた。そしてまるでイナリが今日の事を予知していたかのような事が記載せれている!
『親愛なる真奈美へ。この制御装置は最低限使用できる能力のみを予備装置で回復させ、セーフモードで稼働再開させる装置である。方向に気を付けてこれをナンバー1と差し替えてもらいたい。状況にもよるが、それでも再起動しない場合がある。悲しまないで欲しい。それと……真奈美だけは末永く人生を全うしてもらいたい。グッバイ真奈美。フォーエバー』
「馬鹿な説明文書……こんなこと、わざわざ書かなくていいのよ」
涙が頬を伝った……。
でも今は感傷に浸っていられない……。信じてそれを実行するのみ――。
ナンバー1の制御装置を抜き捨てると、866を奥まで差し込む。次第に大きくなる振動と、体を焦がすような高熱で、その操作すら難しかった。
「蘇って! ――私のオイナリサン!」
大声を上げると、制御装置中央の黒い球体が強い黒い光を輝かせた――。同時に艦内の照明が復帰する――。
「――再起動中。――完了。現状把握中。――処理能力制限あり。推進装置損傷大の為、重力下での飛行不可能。重力制御不可。索敵不可。異次元消失は継続中を確認。異次元制御不可。地表への不時着不可――、墜落を想定。衝撃にて内部の真奈美及びゴジュルヌ本体は破損の可能性大。――危険中? いや危険大?」
「イナリ、大丈夫? 私が分かる?」
呼びかけるが、事態は全く解決などしない。
「――真奈美の位置を確認。完了。墜落まで3秒。――真奈美を艦外へ緊急退避!」
「イナリ……良かった。私……心配したんだから」
――言った途端、私は白い泡状の物を体全体に瞬時に吹き付けられ、制御室内からの壁を全て突き破るように――一気に艦外へと吹き飛ばされた。
「ぶおっ!」
「パラシュートの展開を……確認。同時にゴジュルヌも放出。……あっちは石頭のためショックアブソーバー及び、パラシュートは不要と判断。墜落中」
宇宙制御戦艦オイナリサンは三秒後、そのまま地表へ激突し――、歪みで脆くなった艦は、中央から真っ二つに折れ曲がり炎上した――。




