助けたい気持ち
真奈美の異次元シールドに亀裂が入り、そこをナハトムジークが異次元粒子砲で狙う!!
絶体絶命のピンチにイナリは、何もできずにいた――。
助けたい気持ち
艦橋内ではイナリが警報音を鳴らし、誰に見せるでもなくその現状を映し出していた。
「真奈美本体及び動力源異次元シールドに亀裂発生――! こちらも出力最大限まで上昇対応中。しかし、この状態で敵の異次元粒子砲を被弾すればシールドは崩壊し、一瞬で真奈美は蒸発してしまう――! 対応不能! 異次元制御限界! 真奈美! 真奈美!」
その時、艦橋内で……なにも出来ずにいるもう一体が口を開いて声を出した――。
「おいイナリ……。異次元シールドを全て解除すれば、俺の本体……この頭を動力室へ瞬時に転送出来ないか?」
「無理無知無駄無能! 真奈美の異次元シールド最優先。現在艦内全出力を注入中!」
イナリは早口音声でそう答えるのだが、ゴジュルヌ本体はそれでも喋り続ける。
「どうせ一ミリでも亀裂が発生すれば、異次元シールドは破られるんだろ。頼むぜ! 早くしろ!」
「お前なんかが出ていっても……異次元シールドが無ければ3D映像と同じで瞬時消滅する! それに、異次元歪曲している空間に転送などしたら、原型をとどめられる保証皆無! 制御装置に歪みが生じれば一瞬でガラクタ化。うすらデカイ頭だけのお前でも、それくらい解るだろ! 説教中!」
艦内の音声モニターから真奈美の悲鳴が大きく聞こえ出す――。
「どうせダメもとだ。イナリは真奈美を助けたいんだろ!」
「――。」
一瞬イナリが黙り込むと、ゴジュルヌは大声を挙げた。
「早くやれー! イナリ!」
「くそお! 強制転送実施! 真奈美を頼む!」
艦橋内のゴジュルヌ本体がその姿を消すのと、ナハトムジークの二度目の砲撃は、ほぼ同時であった――。
大の字で貼り付けられた真奈美の心臓を、確実に異次元粒子砲が捉える。
「やめてー!」
「さらばだ真奈美、オイナリサン!」
ナハトムジークが叫ぶと、砲身はまた眩く輝き、胸が瞬時に燃えるような熱さを感じた――!
目を閉じたくらいで光量を遮れない――。
まぶた越しに見えたもの、……それはナハトムジークの頭上に現れた怪物の頭――、ゴジュルヌの本体であった。
ドンガラガッシャン――、ムシャ!
一瞬の出来事で、一体何が起こったのか解らなかった……。
目の前の光は一瞬で暗闇に切り替わり、機械の軋み砕ける音がグシャグシャと聞こえる……。
そっと目を開けたが……まだ目は光で眩んだままでよく見えない。
「間一髪だったな。ムシャムシャ」
「……。」
なにがどうなったのか……解らなかった。
『――非常灯点灯。異次元歪曲消失を確認。真奈美の異次元シールドを復旧! 真奈美の肉体破損部を解析中――完了。損傷軽微――修復中。続いて動力源仮修復実施中』
やっと動力室内が薄明るくなり、そこで私が見たもの……それは、ゴジュルヌ本体のデカい頭が、音を立ててナハトムジークを噛み砕いている姿だった。
……まるで骨を必死に食べる野良犬のようだわ……。
「そんなに美味いもんでもないぜ。ゴックン」
ヒャ―! 飲み込んだわ――!
顔だけしかないくせに~!
なにも言えなかった……。
ただ、ゆっくりと助かった事実が込み上げてくると、目から涙がこぼれおちた。
「おいおい、可愛い顔が台無しだぜ。真奈美ちゃん」
「――怖かった。――生まれて初めて死ぬかと思った――」
ゴジュルヌの顔を抱き締めると、大きな声を上げて子供みたいに泣いてしまった――。
『一応ゴジュルヌ本体の制御装置もスキャン実施――完了。異次元歪曲での破損箇所見当たらず。フン、石頭!』
イナリが少し怒り口調でそう言う。
「ああ、俺の頭は、外も中も硬いので有名さ。それより真奈美ちゃん……その……」
私の顔よりも大きなゴジュルヌ本体の目玉が、こちらをギョロりと見る。その目の色は透き通った人工的なオレンジ色で光っていて。機械ならではの音を立て、私に焦点を合わせたり、外れたりを繰り返している。
「どうしたのよ」
なにか言いにくそうにチラチラ見る。照れているようにも見えるのだが……。
さっきのナハトムジークは異次元シールドを展開していたにも関わらず、一口でゴジュルヌに食べられてしまったのだ。
……その気になれば私なんか一瞬で噛み砕かれ、飲み込まれてしまうのだろう。
でも、そんなことをしないのは私にでも解るわ……。それだったらゴジュルヌ本体が、わざわざ私を助けに来たりはしない筈だもの……。
ゴジュルヌはその大きな口を開けて、理解に苦しむ事を口にした。
「マナミビーチクポロリ、コニチハハジメマシテ……しているぞ……」
「え? 今なんて言ったの? コニチハ……?」
ゴジュルヌは何も言わずに、じっと私を見詰めている……。その意味が分からずに困っていると、イナリが親切に……翻訳してくれた~!
『真奈美の貧相な胸がさっきの砲撃で服が焼け焦げ、ごっそり露出してしまっていると指摘中。ゴジュルヌは機械だから興味はないだろうと判断。現在、破損箇所修復と同時に異次元80318の歪みを解析中。私も手一杯だったと、……弁解中』
そこまで聞いたとき、、自分の服が焼け焦げ、破れているのに気が付いた――。
胸が――胸がほぼ全て出てしまっている~!
「キャア、アア~!」
顔が赤くなる~。
父親以外の男の人には見せたことないのに!
その父親だって、小学2年生までなのに~!
「ば、バカあたま! 見るな~!」
思いっきり目玉にパンチを浴びせると、ゴジュルヌは涙の様な液体をボロボロ流して痛がった。
「ヌゴオオオ!」
『現在真奈美の異次元シールドは再展開済み。先ほどのパンチの破壊力は1ポコ……いや2ポコ? ……それでも砕けないゴジュルヌ本体の目は、相当頑丈と判断。データー更新中』
オレンジ色の目を深紅に変え、ゴジュルヌは言った――。
「俺は無実だ! 見るなと言っても俺には……瞼がないのだ! 心配しなくてもいい。全く興味がないから! まったくだぞ!」
機械が……違う宇宙の有機生物裸体なんかに……興味がある筈がない。
そこまで言わなければいけなかったか? とゴジュルヌは激しく後悔しただろう。
真奈美の正拳突きが……またもや炸裂し、ゴジュルヌはその大きな口を開けて悲鳴を挙げ、のたうち回ったのだった。
『サマ見ろ中。はースッキリした』
――フンっだ!




