それでいいのカナ?
真奈美は親友の佳奈と仲直りするために必死で謝るのだが、それに対して佳奈は……?
それでいいのカナ?
ハルマゲドンとは大蛇と勇者の戦い程度にしか考えていなかった。
宇宙における最後の戦いが、私の身近で起こっていたなんて、検討すらしていなかった。宇宙を裂くほどの威力を持つ異次元粒子の集束帯が宇宙制御戦艦オイナリサンを掠めていく。
その艦橋内で私は……今朝の出来事を思い返していた……。
「いやいや! ――ちょっと真奈美! この現状で回想にフケるのは危険と判断! 敵宇宙制御戦艦の異次元粒子砲、緊急回避中!」
「ばか野郎イナリ! 避けすぎると隣の奴から砲撃されるぞ!」
目の前のスクリーンが照度を抑えきれずに真っ白に光輝く。そして同時に大きな轟音が艦橋内に鳴り響く!
「拘束の身でばか野郎とは憤慨。異次元が復帰したらすぐさま解体処分を検討中!」
「だったらそれまでやられるんじゃねーぞ、このポンコツ!」
「カッチーン! 憤慨中!」
「……やれやれ、喧嘩も戦争も、……宇宙じゃあまり大差ないのね……」
ため息混じりにそう呟くと、イナリとゴジュルヌは一斉に声を合わせて反論した。
「「大ありだっつーの!」」
朝、電車を降りた私のすぐ前を、親友の佳奈は歩いていた――。
喧嘩する前のように、出来るだけ明るく振る舞って挨拶をした。
「おはよ、カナ! 今日もいい天気ね」
佳奈は少し驚いたような顔をして私を見たが……、すぐにまた不機嫌な顔をすると、挨拶を返しもせずにスタスタ歩いていってしまった。
昨日までの私は、「ああ、また今日も無理か……」と諦めたが、――今日は違う。友達と仲直りするのを諦めたりなんかしない!
――こんな喧嘩なんて、命懸けで宇宙戦艦に載って戦うのに比べたら、へっちゃらよ。
そう自分に言い聞かす。
宇宙の戦争なんかより、佳奈との喧嘩のほうがよっぽど重要だったのよ。私にとって――!
「佳奈! まだ怒っているの? だったらごめんなさい! 私、急に男子に告白されてどうかしていたのよ。謝るから……お願い! 仲直りして!」
佳奈の前に回り込んで両手を合わせてそう言うと、佳奈は――急に私の手を引いて走り出した。
あ、佳奈、許してくれたんだ。……そう確信した。
「マナ、一つ聞いていい?」
「え、なに? ……いいわよ」
佳奈が聞きたいことは分かっているわ……。
――私が橘君とディアブロ君のどちらを選ぶのかって事だ――。
則子は言ったわ。「マナの為にならないから自分の意思でしっかり選びなさい」って。でも、私は親友が傷つく姿をこれ以上見ていられない。それに、今の私に必要なのは、橘君でも、ディアブロ君でもない――。
本当に信用できる友人。なんでも相談できる親友なのだ――。
「私は……どっちも断るわ! だって、マナとこれからもずっと仲良く親友でいたいから……」
言い終わると、私は自然に笑顔になる。口を閉めたら……なんだか、涙が零れそうになっていた。
カナは私の顔をチラっと一瞬見ると、顔越しに私の後ろを見つめていた。そして、また私の顔をチラ見する。
「ええ、ええ。私達はいつでも親友よ、それよりもさあ……」
……?
あまりにも軽い返事を佳奈がする。……まるで、私の話なんて上の空で聞いていないかのよう……。
っていうか……実際に聞いていたのかも不安になる……。
「そんなことより、一緒に歩いてきたあの人は知り合いなの?」
「え?」
振り返って、頭をタライで叩かれたような衝撃に見回れた――。
そこには私服姿に着替えたゴジュルヌがポケットに手を突っ込んで堂々と歩いていたのだ……。もちろん3D映像なのだが、位置的に私の隣か後ろをずっと並行して歩いていたのかもしれない。
誰~に断って~私の私生活をも邪魔をするのか~! 頭の血管が十字マークで浮かび上がるう――十!
今すぐに、大声で怒鳴り散らしてやりたい……。
が、それは後の……おーたーのーしーみー……ワナワナ~。
「さ、さあ? 誰かしら。他人よ他人……」
ぎこちなく知らんぷりをして、佳奈の方を見る私の顔は引きつっていただろう。
――サラマンに処刑されるのを……私もこの目で確認してやるわ――! 心に誓う!
佳奈の目は私の肩越しにゴジュルヌ3Dを見つめ続けている。
「やだ……、超好み。こっちに来るわ、キャッ、どうしよう!」
「逃げよ、今すぐ。怪しい不審者かも知れないでしょ!」
今すぐ走って逃げたい私を、佳奈はしっかり両手で捕まえて阻止する。
――放して~、私はイージスの盾じゃないのよ~。
佳奈の目が、ゴジュルヌに釘付けになっている~。一体イナリはなにやってんのよ!
「おはよう。今日はいい天気だね。それじゃ」
「……!」
「……。……。」
ゴジュルヌは脈絡もなにもない挨拶だけをして、綺麗な白い歯をキラリと見せ、……見とれる佳奈にウィンクをして歩き去っていった……。
「キャアー、あの人、超素敵じゃない。本当にマナ知らないの?」
「知らない。あんな古くさい仕草を平気で女子高生にするような奴!」
もしあれが本物の人間であったとしても、――私は御免だわ!
学校に向かって歩き出すと、佳奈も横に並んで歩き始めた。昨日まで口も聞かないくらいの喧嘩をしていたのに……。それが嘘かと思うくらい自然に歩いていた。
今までずっとこうだったのよ――。
「あ~まだドキドキしてるわ。この辺に住んでる人かしら。なんか大人の魅力って感じがたまらないわ~。明日も会えたらいいなあ~」
「……そうね……ハハハ……はあ」
……佳奈の切り替えの早さには負けたわ。でもそこがいいところなのかもしれない。そのお陰で仲直りもできたんだし。って、ん?
結局、仲直りするのを手伝って貰ってるじゃない~。あの宇宙人エトセトラに~!
『真奈美、喧嘩をするのは友達の証だが、喧嘩の仲裁をするのも友達の証。解説中』
『その通り。上手くいっただろ』
――偉そうに文字を出すな! 誰が誰の友達だ!
『俺と真奈美ちゃんさ。作戦通りだっただろ?』
『最終的に許可して指示したのはこの私! ゴジュルヌの二足歩行有機生物の解析力は私以上と関心中。早くサラマン様にバッラバラに分解されて、データー解析をして欲しいところ。真奈美の授業終了を心待中』
『バラバラにされたら、明日は佳奈ちゃんが残念がるかもしれないぞ?』
『ゴジュルヌ3Dもどきを異次元にて作成するのは容易。粘土細工は得意』
……どうでもいいことは読まずに、久しぶりに私は佳奈と仲良く教室へ向かった。




