部屋に隠れていた……ダミー真奈美
ようやく地球に帰ってきた真奈美。しかし、真奈美を部屋で待つ、もう一人の真奈美!?
――真奈美とゴジュルヌは驚愕する!!
部屋に隠れていた……ダミー真奈美
「その通り。正解! だからこれまで次元戦艦は小宇宙へむやみに入ってこなかったのさ。戦争の終結が何を意味するか良く分かっていたのさ。……まあ、それが分からなかった落ちこぼれもいるようだがな」
ゴジュルヌはそう言って艦橋内をぐるりと見渡す。
「――! わ、わかってらいーでか! ああ! 今のは侮辱と判断! 今すぐゴジュルヌは破壊するのが賢明と判断中~」
イナリが大きな声でそう言いだし、ゴジュルヌの本体である大きな顔に異次元チェンソーをゴリゴリと押し当て始めた……。
「どうぞご自由に。只し、勝手な行動はサラマンに叱られるんじゃないかな」
ゴジュルヌ本体の頭からはゴリゴリと火花が飛び散っているが、3D映像の方は余裕の表情でコーヒーをまた口に運ぶ。……どうでもいいが、艦橋内でやらないで欲しい……。なんか、酸化鉄臭いわっ!
「それに、イナリの場合、サラマンの命令だったんだろ。別に構わないじゃないか」
「イナリなどと気安く呼ぶなと忠告中! ……でも……その通り。同士の事を考えると気は進まなかったが、サラマン様の命令だから仕方無かったと……弁解中」
弁解すんな――。
何も考えて無かったのバレバレじゃないの……。
ゴジュルヌも吹き出してカカカカ笑っている……。
「では小宇宙から大宇宙へ転送。本来直ぐにでもサラマン様に通信してこいつを引き渡し、報酬を得たいところだが、真奈美の護衛と私生活を私の任務で妨害しないとの契約に乗っ取り。地球へ帰還中」
外の風景が異次元から宇宙へと変わり、美しく青い地球が映し出された。
「私は美味しいものは後にとっておくタイプ」
いつもより余計なことをべらべら喋るイナリは……いささか興奮気味だ。
この後、どういう事態が待ち受けているかを知っていたのは……ゴジュルヌ一人だけだったかもしれない。
目の前に地球の姿を見て、私は悩んでいた――。
「朝帰りは……さすがに怒られるわよねえ……」
昨日は家に帰らなかったのだ。誰かの家に泊まると嘘の一つでもついておけば良かったと今さら後悔している。
「次元戦艦と同じで、作戦がお粗末だなあ、真奈美も」
まるで昔からの友達のようにゴジュルヌにそう言われると、腹が立つよりむしろ恥ずかしい。
「一層の事、真実を言ったらどうだ」
「そんなの理解してくれる筈がないじゃない。人間の脳ミソはまだ宇宙なんて空の上~くらいの認識なんだから」
宇宙の戦争を止めさせるために小宇宙へ行ってましたなんて、笑えない冗談にすらならないわ。
「男の人と一緒でしたって言うのはどうだい。あながち間違ってもいないんだし」
ゴジュルヌが軽~いノリで言う。
「そんなこと口にしたら、二度と家には入れてもらえないわ! デッチボウコウに出すって昔から脅されてるんだから!」
私の両親はマジで頑固者なんだから!
今でも玄関先でライガフウガの様に仁王立ちをしているかもしれないわ……。
「索敵――完了。安全確認。全て心配無用。何故なら出撃前に、真奈美と全く見分けがつかない「ダミー真奈美」を部屋にセットしてきた。完璧中」
――!
「な! なによその……「ダミー真奈美」って……」
もしかして、クローンとかアンドロイドなの? イナリが誇らしげに言うくらいなんだから、
――人間にはどちらが本物か識別できないくらいの出来なのかもしれない。
背筋に冷たい汗が流れる――。
「百聞は一見にしかず。真奈美の部屋へ移動中」
「ちょっと待って、嫌よダミーとご対面なんて――」
乗っ取られるのではなかろうか。私の地球での生活が――!
ダミーの方にも思考回路が組み込まれていて、「コレカラハ私ガ樋伊谷真奈美ヨ」って不適な笑顔でこちらを見る光景が目に浮かんだ。
そして、私は強制的に部屋のベッド前に立たされた……。
『布団の中で現在も任務遂行中。真奈美が確認後に――分解し異次元へ回収予定。待機中』
……喉の乾きを感じて唾を飲み込む。どうせ解体するのなら――私がわざわざ見る必要なんて無いじゃない!
でも、やはり気になるのも事実……。何とも言えないモヤモヤを断ち切る様に――布団をめくり上げた――。
――そして息を飲んだ。
「なあんだ、ダミーとかなんとか言って、……ただの枕と座布団と縫いぐるみじゃないか。笑わせるぜ。ハッハッハー」
私の代わりに隣にいたゴジュルヌの3D映像がそう言って大笑いをしだした。……思わずため息が出た。安堵の……。
『でもこれはある意味、物凄く高性能なダミー。真奈美の家族はこれを見て、真奈美が夕飯を食べるのも忘れて爆睡していると勘違い継続中。この作戦なら真奈美は海外旅行も御忍びで行ける。プププ中』
「――あのねえ、馬鹿にしないでよ! こんな手口がそう何度も何度も通用する筈ないでしょ。まったく!」
バカにされているのに気が付くと、そのダミーを私が解体し始めた。枕と座布団を元に戻し、大きなピンク色をしたカエルの縫いぐるみを棚に戻そうとする。
「ちょっとどいてよ。邪魔なのよ邪魔!」
「ああ、すまない」
ゴジュルヌが棚の前から机の前へと移動する。3Dの癖になんでぶつかる設定になってるのよ~!
艦橋よりも狭い私の部屋に大きな男が居ると、本っ当に邪魔だわ……。
――?
「って言うか……、誰に断って私の部屋に入ってるのよ……」
「いや、女子高生の部屋ってどんなのか興味があってね」
ゴジュルヌは部屋の中をぐるり見渡しながらそう言う。本棚に並べられた漫画や小説を眺めて頷いたりしている。
「……って言うか、なんで異次元から勝手に出てきちゃってるのよ……。 拘束されてるんじゃなかったの?」
「いやあ、冥土土産に大宇宙の新鮮な空気を吸いたいってイナリに言ったら、有機生物コンタクト用の3D映像だけなら出してやるとイナリが言ってくれてね」
「バカイナリ! 勝手に男を部屋に入れるな~! プライバシーの侵害よ!」
『ゴジュルヌはあと数時間の寿命。せめてもの冥土土産。私は宇宙制御戦艦ナンバーワンとなる存在。……であれば寛大である必要あり。練習中』
「そ~ん~な~練習、――よそでやれえええ~!」
片手を高く挙げてそう言ったとき、部屋のドアがノックもなしに開いた――。
※ライガフウガ:雷神風神のようなマッチョ。
デッチボウコウ:子供でも仕事に出さすぞ!! ……と親からの脅し文句。




