快適なドライブ
真奈美は戦闘機の操縦方法を勝手に覚えさせたかのかとイナリに問い詰める。
快適なドライブ
「そういえばイナリ! 私の頭に勝手に戦闘機の操縦方法を書き込んだでしょ。……お陰で助かったし、まあまあ楽しいから消すことはないけど、私の許可なく勝手にはやらないでよね!」
ひょいっと小惑星を避けながらそう問いただすが、答えはノーだった。
「そんな面倒くさい事をした記憶はないと返答。真奈美の脳細胞内を解析しても、戦闘機に関する知識はゼロ。先ほどから何故操縦が出来るのかと逆に聞きたい。こっちが質問中」
――?
「なんですって、イナリの仕業じゃないの? 別に怒らないから素直に白状しなさいよ」
「宇宙制御戦艦、嘘つかない。冗談はちょこちょこ言う。真奈美の操縦は慣性と判断。空気を吸うように操縦をしている」
「そんな芸当出来るはずないでしょ。ええっと? ほら、これがミサイルでしょ、これがシールド、レーザー、アフターバーナー……って宇宙用の戦闘機にこれは必要ないでしょ」
解説しながらそれぞれを発射すると、目の前の邪魔な小惑星は綺麗に散開し、要塞までの異物が綺麗に一掃できた。
「ゴジュルヌ星団の戦闘機を真似て作った為、操縦方法を解析して真奈美の容量が少ない脳ミソにインプットするのは面倒大。よって何も行わなかった」
「――じゃあ何で戦闘機の操縦なんか出来るのよ!」
「――それはこっちの台詞。逆切れ反論中。……まあ、人間誰しも一つくらいは取り柄があると判断」
「……んん~? なにか言ったかしら~ん?」
……一つくらいってなによ! 私の取り柄はもっとたくさんあるわ!
「人間誰しも一つくらいは取り柄があると判断。と言った。リピート中」
「ええい! 聞こえとるわい! 二回も言わんでいい!」
またしても口喧嘩をしていると、もう目の前にはあばら骨のような要塞が近付いていた。敵の戦闘機が数機飛び交っているのだが、別に私達を敵と認識していないようで助かる。
「どこに着陸すればいいのよ」
言うのと同時に要塞の一部分に赤い矢印が現れた。イナリがコクピット内に表示したのだ。
「ここが敵要塞の正門。言わば正面玄関」
次に要塞の裏側が狭いコクピット内に立体映像で現れる。
「グルッと回り込むと、通用門。言わば裏口あり。敵の主要人物解析中。……ここからでも異次元へ捕らえることも可能」
「騒ぎが大きくなるといけないから、正々堂々と裏口から侵入してさっさと話をつけましょ」
時計の針はどんどん睡眠時間を奪っていくように進んでいく。
時間の進む早さは大宇宙よりも早いのではないかしら……。
「小宇宙の時間進行速度も大宇宙と同等。毎秒約30万キロ。必要であれば睡眠同等の疲労回復措置可能」
「今は要らないわ」
今日は全然眠くならない。
小宇宙へ来てから胸がドキドキして興奮が治まらないわ――。なんだか居心地が良く、ずっとここに居たい気分……。
「それは不可能。……もし真奈美がどうしてもって言うのなら……地球や太陽系ごと小宇宙へ転送すればいいかもしれないが、……いやいや、そんな事をしたら宇宙に歪みが生じるし、サラマン様に叱られる。しょぼくれた惑星とは言え、「誰の権限で勝手に移動させたのだ~」と叱られると推測」
早く解析しなさいと言う言葉を飲み込み、ベラベラ喋り出すイナリの話を聞き続けた。
「ここでしか言わないが、実はサラマン様は見かけによらず気が短いと判断。大宇宙の統一者にしてはちょっとセコ……ちゃっかりしている」
――言えてるわ。思わず吹き出してしまった。
やっぱりイナリも、サラマンに思うところが多々あるようね。
「小宇宙はまだサラマン様も認識不可能な領域。さっきの陰口は絶対内緒。バレたら異次元レンジにされちゃうよ。ユビキリゲンマン中」
立体映像で小指を立てた手の形が映し出されると、笑いながらそれと指切りをした。
「分かった、二人だけの内緒ね。弱味を握ってやったわ」
「そう言ってても、真奈美がサラマン様に告げ口しないのは容易に推測できる。99.8%」
あえてその中途半端な確率を指摘する。
「じゃあ残りの0.2%はなに?」
「サラマン様が真奈美の脳ミソを直接解析すれば、それくらいの確率でバレる可能性あり。但しサラマン様は忙しいお方。そんな暇はなし」
「ええ、ええ、そうでしょうねえ」
――私の脳ミソで暇潰しなんてされたら敵わないわ!
「私も敵わない。いや、これマジで。冷や汗中」
イナリの声が真剣になっているのが面白い。問題発言がバレて異次元レンジにされる可能性……ちょっぴりあるのかも……。
「くれぐれもサラマンが暇にならないことを祈るわ。それより、もう敵の親玉の解析は済んだの?」
戦闘機を裏口へ向かわせながらそう問い掛けると、イナリはとっくの昔に解析済みと答えた……。
はあ~、まったく……怒る気にもならなかった。




