救助作戦失敗
真奈美とイナリが異次元消失空間へ飛び込み目にしたのは、敵の超巨大異次元粒子砲を被弾し、航行不能になったファンデルワールスの姿だった――。
救助作戦失敗
「ゴジュルヌ艦隊よりミサイル多数接近中」
「な、なんですって? 敵艦がいるの? 避けられるの?」
「回避不能。全弾被弾!」
イナリの声と同時に艦橋周辺で大規模な爆発が起こり、爆発音が船内に響き渡る。
「キャー、助けて!」
テーブルの下へ潜り込む。
……歴史上数多くの戦艦に艦長はいただろうけど、これほど情けない姿をさらけだした艦長は居なかっただろう。
「助けるもなにも、真奈美は外見上で無傷と判断。スカート捲れていると忠告中。節操無いと教育中」
「異次元シールド無いんでしょ! やられちゃうわ~」
捲れ上がった艦長服のスカートだけは必死で戻しながら反論する。艦橋内には特に変化は無く、警報音やメッセージも表示されていない。
「ミサイルは全弾命中したが、私の装甲はゴジュルヌ艦隊のミサイル及び光学兵器では破壊不能。亜光速での質量衝突程度では傷一つ付けられない。警戒するのは異次元粒子砲のみ」
「そ、そうなの……」
恐る恐るテーブルから這い出た。
「我ら宇宙制御戦艦の装甲はサラマン様が宇宙元素を一部違法錬金して作成された材質。装甲厚さわずか1ミリにてこの強度を誇る。完璧中」
「一部違法って言うのが……すごく引っ掛かるけど」
あのバカは……陸なものを造らない。
立ち上がると、正面の大スクリーンに見覚えある艦影が姿を表した。
宇宙制御戦艦ファンデルワールスである。イナリが自慢をしていた違法錬金された装甲が、滅茶苦茶に変形し、灰色にくすんでいる。
「ファンデルワールスとの通信回復。こちら80318オイナリサン。ファンデルワールスの状況データ報告依頼中」
『……オイナリサンだと。――なぜこんな所へ来たのだ。我々の異次元は消失したままではないか……』
「樋伊谷真奈美の命令遂行中」
「急いでるんだから! 助けに来ただけでいいでしょ。まったく……仲間がいがないんだから」
しかし……助けると言ってもどうしたらいいのだ?
異次元へは転送出来ない――。
あと5分以内にこの宙域から離れなくてはならない――。
「収容アンカー接続中」
いつもなら即座に完了と報告するのだが、異次元での制御が出来ない今、数秒が数分に感じる。
「ねえ、まだなの。早くしなさいよ――」
長いワイヤーがついたイカリがファンデルワールスに向かって射出される。そのイカリには推進用のエンジンが付いており、ファンデルワールスをしっかりと縛り始める。
『私の事は……いい。さっさと離脱せよ。どうせ制御装置が異次元粒子砲で被弾している。異次元が復帰したとしても私の異次元07245を制御することはとうてい不可能だ……』
「拘束完了。全速離脱――」
『駄目だ、この速度では再発射迄に射程距離外へ……離脱できない! 私を置いて逃げるのだ。樋伊谷真奈美もそう説得してくれ――』
「ファンデルワールスのデータベースはサラマン様にとって必要。全力で回収作業を行うのは義務。それに……」
「置いて逃げるくらいなら最初っから来ないわよ! 大丈夫。こう見えても私、運がいいんだから」
『――私に「運」は解析不能』
ファンデルは一瞬黙ると、イナリにデーターを送信し始めた。スクリーンに文字が日本語でスクロールアップして現れる。
『異次元通信不可のため要点だけを送信する。小宇宙への強行突破は不可能だ。何故なら敵の移動要塞のみが小宇宙の次元座標を把握管理しているからだ。もし破壊すれば小宇宙から大宇宙への一方通行となってしまう。異次元解析をしようと私も接近し奮闘したのだが、移動要塞中心部は異次元消失されていて、転送も解析も不可能だった』
「ではどうすればよいのだ。我ら宇宙制御戦艦でも手出しが出来ないではないか」
――おびただしいミサイルや戦艦の残骸を突き破り、光速を越える速度まで加速して突き進み続ける――。
『敵の移動要塞のデータを解析してくれ。なにか方法はある筈。もう私の重力制御エネルギーも余力がない。他の次元戦艦、そして偉大なるサラマン様の為に、この戦いを早く終結させてくれ。それが出来るのは、……オイナリサンと樋伊谷真奈美だけだ』
「ファンデルワールス!」




