フカフカ
宇宙を裂く光の帯の正体は、敵の超巨大異次元粒子砲であった。真奈美は宇宙制御戦艦ファンデルワールスを助けに行こうとするが、イナリがフカフカ言いやがる……。
フカフカ
「――敵の異次元粒子砲と解析。宇宙制御戦艦、次元戦艦のどちらとも全く異なる別の未確定異次元を使用した敵の新兵器と判断――。危険中! いや、危険大!」
「――やっぱり」
嫌な予感はだけは……いつも当たる。凹むわ。
「異次元消失状態で異次元粒子砲を直撃の為、味方艦隊ほぼ壊滅。宇宙制御戦艦ファンデルワールスの生存未確認。異次元通信不可状態」
光の帯はその姿をゆっくり消し、代わりに大小様々な大爆発が発生している。ゴジュルヌ艦隊の物ではない。爆発の規模がまったく違う。
「助けに行かなきゃ!」
「――却下。危険大と申告済み! 真奈美の安全確保が第一優先。先ほど真奈美がそう言ったのをもう忘れたかと落胆中!」
テーブルを叩いた――。
「なにが落胆中よ! あんたの友達がやられているんでしょ! 放っておく気?」
「敵は異次元消失範囲内! 異次元転送不可能! さらに異次元シールド展開不可。その状態で先ほどの異次元粒子砲を被弾すれば宇宙制御戦艦でも危険大。真奈美の護衛不可!」
目の前の爆発は次第に収まってきている。
「……大丈夫よきっと。さっきのあれはすぐに発射してこれないわ。あれだけのエネルギーを即座に充填出来る筈がないもの……」
うちのハンディー掃除機でさえ……充電に二十分はかかるわ……。
――急速充電器のくせに。
「これまでのゴジュルヌ艦隊の性能から考えてみなさいよ」
「解析中。最短推測時間、約12分間」
「……じゃあ5分で助けて5分で脱出出来るでしょ」
「重力制御装置最大出力で可能。――本当に異次元消失宙域へ突入するか最終確認中?」
「さっさと行け~!」
「了解! 推進力最大速。――異次元シールド消失。――異次元弾装使用不可。――異次元粒子砲使用不可。――異次元魚雷使用不可。――真奈美の脳ミソ異次元解析不可!」
目の前の巨大スクリーンに赤色の文字が読みきれないほどスクロールアップしていく。
警告灯が光り、警報音が鳴り響く――。
「ふかふかフカフカうるさいのよ。鮫か!」
「鮫では無いと反論。私は宇宙制御戦艦オイナリサン。現在第一級臨戦体制中。ソファーに深く腰掛けてコーヒーをすすっている真奈美の神経が一番理解不可! フカ!」
「別に……私が焦ってもどうしようも無いでしょ?」
非常事態なのだが、妙に落ち着くのは、イナリの異次元シールドが私からも解除されたからだろう。
通常であれば私は異次元粒子砲も効かない異次元シールドでイナリが過剰防衛しているのだ。さらに空腹やトイレを我慢しているのでさえ解析され続けている。その異次元シールドが解除された今――、
すごく快適なのだ~。
「真奈美、何を考えている?」
「――! 内緒よ。あーなんか気分爽快だわ」
なにより考えていることが読まれないのがいい!
「真奈美の思考回路は解析不能。但し、トイレは我慢しないよう指摘。普段は異次元転送や異次元清掃機能を使用できるが、現在は不可。よって、お漏らしした場合は自分で拭き取る必要ありと忠告中」
「なにが忠告中よ! それじゃまるで私が高校生にもなってお漏らししちゃってるみたいじゃない!」
「あくまでも忠告」
まったく、イナリの方こそ緊迫感もなにもないんだから。
――しかし、現実はそう悠長なわけではなかった。




