未知との遭遇?
真奈美は湖畔を散歩し、懐かしい宇宙人達と再会する。肉を食う……。かなり食う……。
未知との遭遇?
謁見場のステージの上では、サラマンが一人で一生懸命宇宙人と話をしている。
……どうせまた異次元レンジのクレーム対応でもしているのだろう。私に言わせればサラマンの思考回路が宇宙で一番理解できないわ。
「何事においても宇宙一となればそれは賞賛に値すると判断。賞賛中。パチパチ。サラマン・サマー様最高」
この惑星内ではイナリの異次元使用は制限がかかる。
よって、イナリは声を音声にして皆に聞こえるように馬鹿でかい声を出す~。
「バカ! 部長に媚を売る花見に来た酔っ払いのサラリーマンか!」
凄く分かりにくい例えを出してしまった。
「サラリーマンではなくサラマン様だと訂正中。リーが抜けている、リーが。真奈美、宇宙においても名前の間違いは大変失礼。謝罪をした方が懸命だぞ。教育中」
「あのねえ、そういう意味じゃなくて、サラリーマンっていうのは……」
――しまった、イナリに完璧にからかわれていた……。
そっとサラマンの方を見ると、――顔を赤くして照れているではないか~!
「もう二人とも馬鹿にして! もう知らない! もう並んであげない。もう……イナリが並びなさい!」
百人を越す列の最後尾から離れ、両手をグーにして湖畔をツカツカ歩いた――。
「真奈美、ゴメン。謝るから列に戻って~。謝罪中。あ、また一人抜かれた。あ、また一人!」
イナリが遠くでそうほざいているが、、もう聞く耳を持たない!
って、別にそんなに怒ってるわけでもないのだ。……ちょっと宇宙船内の圧迫感に疲れたから、少し散歩したかったのだ。
外国でしか見られないような綺麗なエメラルドグリーンの湖を見ながら、イナリが見えないところまで歩いた。
五分も歩かないうちに、他の宇宙生物に遭遇した。未知との遭遇だわ……。
青い石コロのような動く物体と、豚のような鳥。クチバシが着いてなかったら、完全に豚だ。以前にもこの辺りで今日と同じようにバーベキューをしていた覚えがある。
「……これってデジャブかしら」
「デジャブじゃないよ。久しぶりだね~。良かったら一緒に食べようよ」
「ブヨブヨ」
青石コロの方が喋ってるよ~。しかも日本語だわ。高性能な宇宙言語翻訳機でも持っているのだろう。
「じゃ、じゃあ遠慮なく」
宇宙の果てにある星で見ず知らずの宇宙人と見ず知らずの肉のこれまた見ず知らずの部位を食べる地球人って、私くらいかしら……。そう考えながら差し出された箸を受けとる。
「いただきます」
肉らしい物は確かに美味しい。霜降り和牛でもこの味と香りは無いかしら。……そんな高級なお肉なんて食べた事なんてないけどね! テヘペロ。
「ところで今日は何の用で来たの?」
「ええっと、こんな所で言っちゃっていいのか分からないんだけど……、宇宙制御戦艦が謀反よ謀反」
イナリが聞いていれば怒られたかもしれないわね。
「へえー。それは大変だねえ。それを言いにわざわざ遠くから来たんだね」
「そうなのよ~。でもあの列が長くて長くて……嫌になっちゃう」
「ブヨブヨ、どうせもう受付は終了してるから、最後に飛び入りで話をしたらいいんじゃないブヨ?」
腕時計を見ると、ちょうど17時15分だ。日本の標準時間とこの星の時刻に何ら関係があるのかどうかは知らないが、これ以上列が長くなることはないのね。
肉を頬張りながら青石コロに問い掛ける。
「あと一時間位かかるかしら?」
「いやいや、サラマンはせっかちだから十分もかからないよ。残業嫌いだし。こんどは逆に早く並ばないと、帰ってしまうよ」
「――え、そうなの? じゃあ私行かなきゃ! お肉ご馳走さま」
「うん、じゃあね」
「ブヨブヨ~」
謁見場まで走った。
列は先ほどとは打って変わって急スピードで短くなっていく。
一人二秒くらいで話が終わっている~! 日本語ではない音声信号が一瞬聞こえ、宇宙人は納得したように帰っていく~!
――最初からその早さで対応していれば、列が出来ることないじゃないのよ――!
「真奈美! どこほっつき歩いていたの! さあ走って! サラマン様が帰ってしまう!」
イナリの声に私は、肉を食べた直後の全力疾走せざるをえない状況に追い込まれてしまった。
「そんなあ~、横腹痛くなるじゃない」
「夕食に間に合わないとか言っていたくせに、肉食べ過ぎ! 真奈美の摂取カロリー2.4メガカロリー。早く早く! 催促中!」
メガって何の単位だったか考えながら走る。
イナリが異次元から手伝ってくれることは無かった。
「異次元制限中――手伝えないよ! あと五百メートル。あとニ十五人。残り50秒。ダッシュ必要!」
「無理だってばー」
五百メートル50秒? それって間に合うの――?
横腹だけでなく胸まで痛くなってきたわ。
いつもならイナリの強制回復で一気に楽になるのに。はあ、はあ、体が重い。
……しかし、運動不足な私のダッシュは意外に早かったようで、最期の一人が謁見を終えるのと同時にサラマンの前に辿り着けた。
「――ハア、ハア、ハア、ハアー」
サラマンは少し真面目な顔で私を見続け、
「……ハアでは分からん!」
怒られてしまった……。
なんか……ハア、ハア、ハラ立つ~!




