命拾い
なんとか宇宙制御戦艦同士の戦いは回避できたのだが、イナリは落ち込んでしまう。
命拾い
「フー。戦わずに済んで良かったわねえイナリ」
イナリは返答をしなかった。
「どうしたのよ。どこか壊れた?」
「私は……故障などしていない。常時自己修復と自己診断装置稼働中。思考回路にも異常なしと判断」
「……まあ自分で自分の異常を見分けるのは難しいと思うけどね。それよりコーヒー頂戴。あとこんな真っ白な所から早く移動してよ」
しかし、いつまでたってもテーブルにコーヒーが現れない。スクリーンも真っ白なままだ……。
やれやれだわ。
「……大丈夫よ。イナリは壊れてなんかいないわ。元気出しなさいよ。壊れてるのはさっきの奴らの方よ」
「……真奈美」
イナリはいつも言っていた。サラマン様が造った次元戦艦は完璧だと。
……しかし、その自分を含めて完璧だと確信していた次元戦艦の頂点に立つ宇宙制御戦艦十隻が、あろうことか主人への謀反を企てているのだ。それも満場一致で。
イナリの気持ちが……なんか、良く分かる……。
「だから、早くここから出てサラマンに報告しに行こうよ」
「……了解。真奈美も……たまには正しい判断をすると認識。ブラックホール外へ異次元転送中」
「たまには……って言うのが余計よ」
ようやくテーブルに出されたコーヒーを一口飲みながら、大スクリーンが見慣れた宇宙の色に変化するのを見続けた。
「綺麗ね」
壮大な宇宙には無数の星々が光輝いている――。
「この光景は今しか見れない貴重な光景。これらの星は全て数時間後に大ブラックホールのシュワルツシルト半径内に引き込まれ、光輝かなくなる。見納め中」
「……そうなの? そう言われるとなんだか儚いわねえ」
「有機生物であれ、我ら機械であれ、作られたものはいずれは滅ぶ定め。天体であれ銀河であれそれは同じ事。このブラックホールであっても、いずれは宇宙と共に消滅する」
イナリが言うと、背筋が寒く感じる。
宇宙の終わりなど考えたこともない――。
「宇宙の終息はどうなるのよ」
「全てが収縮され、無という計測不能状態になると推測されている」
「それって、なにもかもが無くなってしまうって事……?」
艦橋内の大スクリーンに大きな『?』 ……クエスチョンマークが表示された。
「宇宙制御戦艦の思考回路においても、無の状態は解析不可能。データー不足。二次元内において三次元を説明できないように、存在有る大宇宙内で存在無き『無』を説明しようとしても不可。0という数字は無とは違い、既に存在している。従って、無とは解析不可。真奈美、教えて」
テーブルに両肘をついて眉間にシワを寄せる。
「イナリの知らない事を私が知ってるはずが無いでしょ! サラマンにでも聞きなさいよ」
「宇宙制御戦艦に昇進しても、サラマン様は私に大宇宙の最期、無についてのデータベースは与えて下さらなかった。つまり、自己解析が必要。解析中」
「……じゃあサラマンも知らないだけよ」
「それは皆無。サラマン様は全知全能。宇宙の起源から終息後迄もを把握されていると推測。全宇宙を把握。真奈美の下着の色までも把握されている白」
……?
「――っちょと、コラ! バカイナリ! どさくさになに言い出すのよっ!」
誰に対してか分からないが……顔が赤くなるではないか~!
「まったく……バカ! それに全知全能ならさっきの奴らの悪巧みや小宇宙でのゴジュルヌとかいう敵の事も知っているはずでしょ」
「小宇宙はサラマン様の管轄外。但し、大宇宙の歪みに大きく影響を及ぼし始めた為、調査を開始したと推測中」
「フン、やっぱり知らないんじゃない」
座り直して制服のスカートを押さえながら足を組む。
「で、さっきの事はもうサラマンに報告したの?」
「異次元通信準備は完了。しかし、周辺宙域は宇宙制御戦艦02911エレキギターの監視範囲内。異次元通信を解読される可能性大」
「別にいいんじゃないの」
「宇宙制御戦艦同士が大宇宙で戦うのは愚行。謀反を企てていても、それだけで私が単独行動をする事は避けるべきと判断。御報告し、サラマン様の命令が必要」
「あっそう。だったらさっさと報告しに行きましょ。……夕食までに帰らなくちゃ、また叱られるわ」
泣きだした母は、怖いというか……メンドクサイ。
「了解。異次元へ移動。完了」
昨日会ったばかりだというのに、……今日もサラマンの顔を見ないといけないとは。
「ところで……宇宙制御戦艦エレキギターって……ありなの?」
酷いネーミングセンスだと私は思うのだが……。
誰が考えたのかとはあえて問わない……。
「……オイナリサンの方が……マシと判断。待機中」




