敵襲――
宇宙制御戦艦オイナリサンにミサイルが命中する! 真奈美が反撃を命じようとするのだが、イナリはすぐには従わなかった。
敵襲――
ドン、ドンッ!
明らかにミサイルが当たる感覚だわ――。以前に何度か経験がある。
「きゃあっ、ちょっとイナリ! まだ敵が残ってるじゃない! それとも、新手なの? 反撃しなさいよ!」
「え? 反撃するの? 私の超重力制御エネルギーが無限だからって……自衛隊の戦闘機なんか攻撃してたら、サラマン様に笑われると推測。真奈美の命令なら従うけど。――捕捉中」
艦橋前の甲板から姿を現せたのは、オイナリサンの主砲である異次元粒子砲であった。
……たしかイナリは、月くらいなら一瞬で破壊できるとか言っていたような……。
「チッチッチッ。冥王星まで一瞬で破壊可能。真奈美の認識している射程距離は、私がまだ次元戦艦だった頃の威力。エネルギー充填完了。発――」
「だー! 撃つな!」
艦橋内でそう叫ぶと、なんか、残念そ~に主砲は甲板内へと姿を沈めた。
……チェッと舌打ちが聞こえたような気がする……。
「いつまでもこんな所に居るからよ。早く異次元に隠れなさいよ」
「了解。ただ……いきなり消えたのでは地球人の不安は残ると推測。また来るんじゃねえの? と」
イナリの推測は正しいわ。大勢の人が……眠れぬ夜を迎えるだろう。
「……今日のことを、夢と思わないかしら?」
「うーん、民間人はともかく、実際にミサイルを発射した戦闘機の運ちゃんはそうは思わないだろうねえ」
戦闘機の運ちゃんってなんだ? パイロットのことかしら。
「あ、そうだ! だったらやられたフリをすればいいのよ。自衛隊のミサイルが当たったと同時に、火を吹き上げて海にユラユラジャポン。みんな納得間違いないわ。それどころか、自衛隊の基地を作ってくれって、色々なところの自治体が大はしゃぎするわ」
「……この私が沈没? 地球のミサイルごときで? ……却下! この上無い侮辱と認識~。反対中~」
「いいじゃん。お願い。宇宙制御戦艦になって演劇力も向上したんでしょ?」
「演技力? ――当然向上している。了解した。次の被弾でそれを見事演じて見せよう。待機中」
やっぱりイナリはイナリだわ。単純。お陰で助かる。
コツン!
ミサイルが当たる音がした。
「今よ!」
「了解」
目の前の甲板から猛烈な炎が吹き上がり、大きく艦内が傾いた。
「ちょっと、傾いたらコーヒーが溢れちゃうでしょ!」
テーブルのコーヒーカップを慌てて持ち上げた。すっかりリラックスモードに入っていたのだ。
「真奈美及び艦橋内は重力制御中のため影響無し。真奈美の脳が傾いていると錯覚しているだけ。着水中」
目の前が空から海へと変わった。
「ところで、イナリって潜水艦にもなれるんでしょうねえ?」
「……当然過ぎて返答する必要なしと判断。開いた口が塞がらないレベルの質問。自慢では無いのであしからず。爆発演出準備中。完了」
宇宙も飛べるんだから、潜水なんて楽勝なのよね、やっぱり。
私がそう安心していると、目の前で閃光が炸裂し、一瞬にして光のヴェールで、何もかもが見えなくなった――。
「どかーん」
イナリが大きな声を出す――。
本当にこれが宇宙制御戦艦の演技力なのかと疑惑が沸き起こるのだが、目が眩んで、なんも見えん――!
「ええい、いきなり爆発させるな! 光度調整しろ~! なんにも見えないじゃないの!」
「真奈美の視力回復中。完了。爆発を音と光で演出中。爆発が見やすい大気圏外まで移動中。――完了」
私の視力が回復し、最初に目についたのは地球であった。そして、その地球からは地球以上の大きな光の玉が膨らみ、破裂していく。
光の玉はさらに膨らみ月までもを光で飲み込み……まだまだ光が膨らむ……。
「本来の宇宙制御戦艦が爆発した状態を忠実に再現。光と音だけの為、地球に影響無し。完璧」
開いた口が塞がらなかった。
「閉口措置実施。完了」
私の口はイナリによって閉められた。ありがとうとは言わない。




