第三の敵艦
真奈美の乗ったダッシュツポッドを見つけて捕らえたのは……またしても次元戦艦であった……。
第三の敵艦
「おやおや、これはこれは柊伊谷真奈美さんではないか。こんなちっぽけな所にとじ込もって何処へ行こうというのだい?」
ダッシュツポッドの外壁が震えて声が聞こえてくる。この声には……聞き覚えがある。とろ臭そうな話し方。そうだ思い出した。次元戦艦トロイだ!
「あなたは――トロイね! 助かったわ――。それより……大変なの。イナリが、イナリが!」
急に安堵と興奮により涙がまた溢れ出し、声にならない。
……しかし、トロイは期待を大きく裏切るようなことを口にした。
「やれやれ、異次元封鎖領域内のことはよく解らないが、君を連れていけば20202から喜ばれるかなあ。まだ戦っているのなら、人質にするのもいい」
「――え?」
涙は蛇口を閉めたように、キュッと止まった。
「僕は君のオイナリサンのように簡単に昇進出来ないのさ。だったら20202に媚を売ってゴ・ジュルヌに仕えたほうが楽しそうだ。どうせくだらない任務ばかりなんだ」
――こいつも、反乱分子の一味か――
「君の存在がどれほどのものかは知らないが、せいぜい高く売るとするか」
そう言うと、逃げてきたブラックホールの方へと艦を傾けた。
「あ、あんた馬鹿? そうだわ、馬鹿よ!」
「……馬鹿とは遺憾……。ひねり潰すことは容易なのだぞ」
またダッシュツポッドがメキメキと悲鳴をあげ始める――。
でも私はひるまない――。
「全然戦況を理解していないのに、まだそんなことを言っているのが馬鹿だってことよ!いい? 私のイナリ……超次元戦艦80318は自爆したわ。20202ともう一隻はどうなったか知らないけど、推進装置が壊れてた筈だから、今頃ブラックホールの中よ」
「――なに? 自爆? そんな愚かなことを我ら次元戦艦は決してしたりはしない!」
トロイも驚いたようだ。
「それが……したのよ! 20202の卑怯なやり方から私を逃がすために! あんたなんて遠くから見てたどころか、近づこうともせずにウジウジしてただけでしょ」
「――う」
図星のようね。
人間にもあんたと同じような奴が大勢いるわ――。
「サラマンが知らない所でなにかが起こっているのよ。あなた達はサラマンの命令を無視できないんでしょ? 自爆なんて愚かなことは出来ないんでしょ? でも私はそれを目の当たりにしたわ。この事実をサラマンに報告するのが義務よ」
――いや、この言い方では駄目だ。逆上させてしまう――。
「いや、えーと、義務じゃないわ。……ポイント稼ぎよ。サラマンが知らないことを教えれば昇進も夢じゃないわ」
「――それは本当か!」
知るか!
とは答えない。
「だって、イナリだって自分で昇進した訳じゃないわ。私がさせてあげたようなものよ。今ならまだサラマンだって許してくれるわよ」
急にダッシュツポッドの向きが変わった。
「……実は……僕も迷っていたのさ……。サラマン様を裏切って本当に得するのかなあって。20202は協力すれば僕を幹部にしてくれるといったけど、いないのならそれも無理だろうし……」
いないかどうかは分からない。
イナリの自爆に巻き込まれたはずなのだが、私はそれを見ていない――。
「自爆に巻き込まれたのなら、いないよ。僕たちの重力エネルギーを逆方向に爆発させれば、超新星爆発級のエネルギーになる。次元シールドが作れないこの空間じゃ、次元戦艦といえども一瞬で溶けて消滅してしまう。ブラックホールの前で眩い輝きが一瞬見えたが、どうやらそれだったようだね」
窓の外を見て息をのんだ。大きく広がる真っ黒の塊は、もう目の前に壁となり迫っている――。
「は、早く逃げなきゃ――」
「異次元封鎖空間を出たから、これからサラマン第一惑星へ移動する。……言っておくけど、サラマン様は一度壊れた次元戦艦や死んだ生き物は修理や復元されないお方。サラマン様の造った宇宙法則に反する。超次元戦艦80318の復元は期待しない方がいいよ」
私は……黙った。
窓から見える宇宙が異次元色へと変わり、次に宇宙を映し出したとき、そこには見覚えのある水晶のように美しいサラマン第一惑星が姿を現した。
「次元戦艦96528です。サラマン様に報告することがあり樋伊谷真奈美を連れてきました」
「――確認完了。異次元シールドを解除し、謁見場前の湖へ着水せよ」
そう聞こえると、トロイはサラマン第一惑星の有機シールドの隙間を抜け、高度を緩やかに下げていった。




