目標物捕捉 (挿絵あり)
次元戦艦オイナリサンが目標物を捕捉し、真奈美は敵かと驚くのだが……。
目標物捕捉
次元戦艦オイナリサンによる私の護衛が始まったが、異次元にずっと隠れているから、基本的には誰からも気付かれない。かといって、何か特別に私に危害を与えるような悪者も現れない。
日常生活はこれまでと全く変わらない……とはいかなかった。
「目標物を捕捉」
「え?」
いつもの駅へ向かう途中、踏切を電車が横切ったとき、オイナリサンがそう言った。
「目標物って何。何か発見したの? まさか、敵?」
踏切の前で立ち止まり、イナリに確認した。
「真奈美が一方的に異常なまで好意を抱く橘太郎を捕捉」
「何よそれ、護衛とは全く関係ないじゃない。そんな私用にまで口出さないで」
顔が赤くなっていた。何よ、その捕捉って。
「君が目視可能な状態となったので報告したまで。捕捉とは捉えたこと。待機中」
「そんなことわざわざ報告しなくても……」
あ、でも橘君がどこに居るのかがすぐに分かると、ちょぴっと嬉しいかも――。
「目視可能となれば報告続行と設定決定。待機中」
途中から佳奈と一緒になると、オイナリサンからはメッセージのみの表示となったのだが、残念ながら佳奈と話しながら目に映る文字を読んで、それを理解できるほど私の頭は高性能ではない。
『右脳左脳はデュアルコアの一種。待機中』
目にはそう映っていたが、気付いていなかった。
この寒い一月の一限目から体育をグランドで行うというのは、いったいどういう神経の持ち主? 若い私達への先生のイジメとしか思えない――。
「体育中に凍え死にしたら訴えてやる」
教室で着替えながら皆で不満の声をあげている。
私の通う高校は共学なのだが、私のクラスは女子ばかりだ。男子もいる共学のクラスには……ちょっと成績が足りなくては入れなかったのだ。
『五教科で一〇〇点足りないのをちょっとと評価するのは不適切。待機中』
イナリがそう表示している。――ご丁寧にどうも。
でもそんな私達のクラスにも賢い女子はいる。友達の五十鈴佳奈は……そうでもないのだが、田中則子は特にズバ抜けていた。成績は学年でも上位で、スポーツもできる。ソフトボール部では一年にしてレギュラー。誰もが認める一年女子のナンバーワンだろう。しかも、スタイルもいい――。
いつの間にか則子が着替える姿を虚ろな目で見ていた。
「ちょ、ちょっと、どうしたのよ真奈美。私に何か付いてる?」
則子が私の視線に気づいてそのナイスバディーを体操服の上着で隠した。
ええ、ええ、付いてますとも! 自慢の二文字が――。
それに比べ私ったら……。
『貧乳であっても現在の人間的ランキングに重要視されない。異性からの好意を得るためであっても、誤魔化しが可能。問題無し。真奈美には護衛の私がいるが、田中則子には何も護衛なし。異次元コーティングによるシールド力は薄さゼロミリながら異次元粒子砲の威力ですら半減させることが可能。物理的な攻撃は完全に無力化可能。真奈美の方が圧倒的に優勢。待機中』
その長い文字を読んでるうちに、何の話をしてるのか全くわからなくなってしまったじゃないの!
『貧乳気にするな。待機中』
「余計な御世話よ!」
そう言ってイナリを制したが、クラスのみんなからは急に指を天井に指して怒る私の姿は、どう映ったのだろう。……あまり考えたくない。
……まったく、変な日本語を覚えるな――バカ!