次元戦艦オイナリサン
異次元内にある次元戦艦の艦橋は、ごく普通の白い部屋だった。
本当に戦艦の艦橋なの? 真奈美は疑問を抱く。
次元戦艦オイナリサン
丸くて小さな白く可愛らしいテーブルがあり、白いソファーに白い壁。
……マンガや映画で想像していた宇宙船とは全くイメージが違う。外は見えないし、モニターすらない。息苦しさも感じさせない。
なんか――普通の部屋だ。
「必要時に必要な物を配置予定。現在未使用。邪魔なだけ」
その部屋を見てまわろうとした時、周りが一瞬で元の私の部屋に戻った――。
突然の変化に、頭がついていけない……。
『君の部屋に侵入者予測。異次元から宇宙空間へ強制帰還実行』
目にはそう表示されている。異次元からって……。
「私は異次元に行っていたの?」
思わずそう口走ると、部屋のドアが大きく開いて妹が入って来た。
「お姉ちゃん、うるさいから勉強に集中できないでしょ!」
瑠奈は部屋をキョロキョロしている。
「テレビも点けずに一人で何喋ってたのよ? 誰かとスマホで通話でもしてたの?」
「そ、そうよ、友達と話してたのよ」
とっさにそう言ったが、手にはスマホなど持ってもいない。
「ふーん」
窓に近づいて言った。
「この寒いのに窓まで開けっ放しで通話なんて、頭おかしいんじゃない?」
勝手に窓を閉める。……おっしゃる通りなのだが、
「ちょっと、開けといてよ。換気中よ!」
そう言うと瑠奈は閉めた窓をまた開けて、今度は窓の外を見渡した。
「もしかして……、ここから誰かと話してた?」
――う、鋭い。
「そんなわけ……ないじゃない。ああ~寒い。もういいわ、さっさと閉めて」
「そうよね。お姉ちゃんにこんな時間に会いに来るような物好き、いるはずないもんね」
瑠奈はそう言いながら窓を閉めると、部屋から出て行った。
誰も会いに来てくれないですって? ……その通りよ。
その通りなんだけど、ちょっとムカつく。
その通りなのが、かなりムカつく~!
妹が自分の部屋に戻ったのを確認すると、ベッドに横になった。もう寝る時間だ。
「聞こえてる?」
また次元戦艦に話しかけてみる。
「聞こえている。君が休息中も護衛は継続する。待機中」
休憩なしでずっと任務遂行とは偉いものだ。
「もしかして、この前に寝ぼけて何かの受取りサインをした覚えがあるんだけど、それって、次元戦艦の受取サインだったの?」
「そうだ。正確には次元戦艦である私に完璧な護衛を受ける権利を君は受取った。本来の君たちの二足歩行生物が支払えないはずであり、君には護衛を受けるほどの特別な価値は全く見受けられない。
主の命令ではあるが、その理由は知らされていない。待機中」
「理由もわからず任務に就くのって、単純ね」
一瞬、また怒るかとも思った。
「次元戦艦にとって任務の理由や善悪など、不要なことは考慮しない。任務に支障が出ては意味がない。主からは必要最低限の情報だけが与えられるのだ。待機中」
「ふーん。じゃあ考えたりもしないのね」
「そんなことはない。私は君たち以上に考え発展していく。任務についても現在調査している。地球は全て調査済み。現在太陽系を調査している。待機中」
少し眠くなってきた。待機中の文字がぼんやり見えてきた。
「ところであなた名前はないの?」
「80318が私のナンバーと以前報告したはず」
「そうじゃなくてニックネームのことよ」
「君達の言う名前は与えられていない。名が与えられる階級まで昇級することが必要。……こんなところでこんな任務についていれば、数千年後でも不可だろう」
こんなところのこんな任務だと全然出世しないってことね。ええ、ええ、そうでしょう。護衛されている私ですら、その理由が分からないんだから……。
「じゃあ出世しないあなたに護衛される私から名前を与えてあげるわ」
「そんな物は不要。待機中」
その答えを無視して適当に考えた。
私の好きな物の名前をつけたらいいのよね。……橘君っていうのはちょっとあからさまかしら。きゃー顔が赤くなっちゃう。
「……私に二足歩行生物と同じ名を付けるのは全く腹立たしい」
あ、怒ってる。
「じゃあ、オイナリサンってどう? 次元戦艦オイナリサン。いい響きだと思わない?」
「……それはもしかして、今日食べた回転寿司のオイナリサンのことか。却下!」
「いいじゃん。却下でも私はこれからそう呼ぶわ。よろしくねオイナリサン」
返答がない。
二足歩行生物なんかに対して本気で怒ってるの? ふふふ、上等だわ。
「それから、私のこともこれからは二足歩行生物とか人間とか君とか偉そうに言わず、名前で呼びなさい。真奈美よ、いいわね」
「……二足歩行生物に腹立てていても仕方ない。了承した」
「じゃあおやすみ、イナリ」
「いきなり省略するな」
いいじゃない。呼びやすいんだから……。
私はもう……眠りに入っていた。
「待機中」の文字が「おやすみ真奈美」に変わっていた。




