連合
西暦201X+4年7月26日 1500
正午過ぎに一つの船団が、連合極東方面軍直轄の軍港であるプツィ港を出港していた。
その船団は連合極東方面軍と極東民主連邦共和国の共同船団であったが、ほとんどの艦艇は連合所属であり、共和国の艦艇は数える程度であった。
極東民主連合共和国(通称:共和国)。地球における中国のあたりの地域を領土とする。16年前にツァーカ帝国で発生した革命により誕生した新たなる国家。その実態は対魔族連合(通称:連合)の傀儡であり、連合の唱える対魔族二正面戦争論の実現のために作られた国家であった。
ツァーカ帝国はもとをただせば、遠い血筋に魔族を持った人、いわゆる魔人とエルフとの混血、ハーフエルフの初代皇帝によって築かれた帝国であった。皇帝一族が魔族の遠縁であるツァーカ帝国は魔族に対して融和的な態度をとることも多々あり、その態度は連合内で批判されていた。ツァーカ帝国自体は様々な種族が入り混じった他種族国家であり、ツァーカ帝国という形になる以前は魔族による侵略を受けていた時期があったということもあり、継承という形で連合に所属していた。
しかしツァーカ帝国は18年前に魔族との平和条約締結及び、連合の脱退という、連合に対しての裏切りを行った。それによって中央世界および、歴史の経緯により魔族にただならぬ憎悪を抱く西方国家達の怒りを買い、実質的な報復として革命が諸外国により誘発された結果、ツァーカ帝国は王統が途絶え滅亡した。
共和国は国内各地でいまだ活発に発生し続けるツァーカ帝国残党などによるテロの脅威にさらされており、陸軍や警察組織の再編が優先され、ツァーカ帝国時代の海軍力を復元するまでに至っていない。
「なぜ、魔族はこの極東海であんな超大規模魔法陣を発動させたんだろうね…」
この船団の旗艦である連合の戦艦ジーリアリル。その船内の待機室で一つの疑問が投げかけられていた。
疑問を投げかけたのはオーヴォル連邦国に所属し、連合に派遣されている勇者ペクタッキ・キリンだ。
オーヴォル連邦国は地球におけるオセアニア地域を領土としてる国家で、魔素資源に乏しい。しかし科学技術という、この世界におけるマイナー技術に特化した技術開発を行っており、特に化石資源と呼ばれる新エネルギー源の開発に日々勤しんでいる。
ペクタッキ・キリンはそのオーヴォル連邦国生まれの勇者で、オーヴォル連邦国から連合に派遣されており、数多くの輝かしい戦歴を持つ。特に魔界と呼ばれる地域のキード大山脈の東側の完全制圧は彼女の存在なしには成しえなかった。彼女の功績により、西方世界と呼ばれる地域では魔族の襲来に怯えずに生活することが出来るようになった。彼女は魔族の脅威に怯えるすべての者にとっての英雄であり勇者であった。
ペクタッキやペクタッキの同僚にあたる連合極東方面軍所属の勇者は40名ほど。
今回の魔族が布陣し、発動させた超大規模魔法陣の偵察、および検出されたツァーカ帝国の王統波紋の調査を目的とした船団には、極東方面軍に所属する勇者の半数近い18名の勇者が動員されていた。
司令部は偵察、調査を目的としているというが、実際は違った。
「なーに言ってるんですか勇者ペクタッキ。ミーティングで上からの説明があったじゃないですか。今回の大規模魔法陣は魔王が発動に関与した召喚魔法陣という線が濃厚で、魔界山脈東側を完全に失い西部に追い詰められつつある魔族の八つ当たりだって」
そうペクタッキの問に答えたのは、ペクタッキと同郷にあたる勇者アーノドン・サミラだ。
「いやいや、答えになってないよ。勇者アーノドン。八つ当たりなら魔界にいる連合に対して行えば良いだろう?なぜ、この極東海でこんなことを…あー!仕事を増やすなよ魔族め!」
ペクタッキが仕事を増やす魔族に対して小言を放つ。アーノドンがそれに対して、冗談で皮肉を言う。
「出ました!勇者長のニート発言。この航海に出てからまだ一日と経ってないのに、これで十四回目ですよ」
「わからないのか、君には。魔界西部での戦いを終え。先月の移動で、かつてからの希望だった魔族のいない極東での勤務…ようやく休めると思ったのに、この仕打ちはっ!」
「はいはい、勇者長殿は一仕事終えてから、休みましょうねー」
ペクタッキは部隊長もとい勇者長という身分の勇者だ。それはこの世界における、もっとも高い魔素適応値を持つ人の呼び名だ。
魔素適応値とは魔素を吸収する量と操ることの出来る量を数値化し、合計したものである。通常の人の魔素適応値は、おおよそ10とされ、10あれば魔素を取り込み、操ることが通常通り行える。魔素適応値3以下は魔素適応障害とされ、魔素を十分に取り込めず、操ることが出来ない。無魔素適応症と呼ばれる魔素適応ゼロの人は文字通り魔素に対する適応力がない人で、ほとんどの地域で被差別対象として扱われている。
勇者と呼ばれる者は魔素適応値がずば抜けて高い人で、通常の人で魔素適応値が高いと呼ばれるような数値とは隔絶の差を持つ人だ。通常の人の範囲で魔素適応値が高いとされるのが、100とされる。それでも通常の十倍であるが、勇者と呼ばれる者達は1000万以上の魔素適応値を持つ。
ペクタッキの魔素適応値は振れ幅があるが、最大で11億3400万。これは歴代の勇者のなかでも片手に入る領域であり、現代最高最強の勇者だった。
勇者と呼ばれる者たちが現れ始めたのは今から数百年前。それまで魔族に対して劣勢で、時には魔界から侵略してきた魔族に、この世界の中心あり最も高度な文明群が栄えていた中央世界とよばれる地域。地球でいうならば中央アジア地域の一歩手前まで攻め込まれたこともあった人であったが、勇者が現れてから怒涛の勢いで魔族の手から領域を解放していき、百年前からは魔族は魔界と呼ばれる大陸。地球でいう北米大陸にほぼ押し込められていた。
現在ではもうないが、魔族は魔界に押し込められてからも、三十年ほど前までは、散発的に西方世界とよばれる地球で言う欧州地域に襲い掛かることがあった。
しかし、ここ十年で魔界制圧も進み、魔界山脈東側はすべて連合の支配下に入ったので西方世界に危険が及ぶことは完全になくなった。
航海は進み、港を出てから三時間が経とうとしていた。
「事前情報のとおり、現在、極東海での魔族側大規模魔法陣が存在した領域では魔素の消失が確認されている。それと同時にすべての人が昨日、感じ取っただろうが、先刻、魔王の力の半減が正確に観測されたという通信が入った。魔王の力の半減は魔素の器を贄として発動する召喚魔法の結果と推測される」
「私たち勇者部隊には、今までの魔界での戦闘とは全く違う。魔素のない領域での戦闘になることを通達する。魔素の供給は自らの内にため込んだ魔素で行い。非常時補助魔素供給具が普段より多く支給されるが、あくまで一名につき二つ。非常用だ」
ペクタッキによる出撃前の最後の演説が終わろうとしていた。
「以上。人類に栄光!魔族に破滅を!出撃!」
ペクタッキの言葉に合わせるように他の勇者たちも声を上げる。
「「「人類に栄光を!魔族に破滅を!」」」
声を上げていた一人の新米勇者は思っていた。ペクタッキ勇者長もこうやって真面目にふるまっていれば美しいのに…と。
勇者たちは身にまとった装具の最終確認をし、次々と艦上から飛翔していった。
西暦201X+4年7月26日 1530
「なんだあれは…女の子が飛んでる?」
対馬沖で民間船からの連絡を受け急行した海上保安庁・対馬海上保安部の巡視船乗組員が見たもの、それはとても現実のものとは思えないものだった。
女の子が鎧のようなものを身にまとい、武器を持ち武装し、編列を組み、海面に近い低空を飛行している。一昔前のアニメーションのキャラクターのような存在が現実に現れたのだ。
あっけに取れれる海上保安官たちだったが、船長は適切に指示を出した。
「呆けていないで、撮影!そしてこれ本部に連絡!」
連絡はすぐにされ、撮影された映像データはすぐさま対馬の海上保安部に転送され、そこから全国の海上保安庁のネットワークに転送された。
連絡を受けたときはあっけにとられていた本部だったが、映像データを受け取ると、事態をようやく事実として認識し、他の省庁機関への連絡を取った。
その後、本部が対馬沖の巡視船に連絡が行ったが、巡視船からの応答は永遠になかった。