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出自

前話から少し時間が戻ります。

201X+4年7月25日 1800

 4年前に日本国内のみならず、地球中を大いに騒がせた存在がいる。それは人の形をしているが、DNA情報がまったく人とは異なる人型の生命体であった。

 その生命体の存在は、日本のとある大学の教授によって四年前の7月22日に公表された。

 公表された当時は、国立の研究機関に所属する者によって発表された論文の撤回という話題が世間を賑わせていた頃であったので、公表された人とは異なるDNAを持った生命体の存在を簡単に信じる者は少なかった。

 様々な国内外の研究機関が調査を行った結果は、公表された内容が正しいことを示していた。

 教授と生命体は一躍、時の人となった。公表された内容が正しいと判明したころには教授とその生命体の間では、ある程度、簡単な会話が成立するようになっていた。そして、生命体は自らのことをツァーカと名乗り、そこから、その生命体はツァーカ人と命名された。だが、世間ではツァーカ人の外見から名を取り、俗称としてエルフという名が浸透していた。公表した教授の名を取りヒサノエルフなどと呼ばれることも、しばしばあった。

 ツァーカ人は二人存在し、一人は7歳ほどの男の子、もう一人は12か13歳ほどの少女だった。


 経緯は省くが、ツァーカ人二人は、久野教授のもとで生活を続けることとなった。その後、二年が経つころには久野教授は彼らの言葉を、二人は日本語を流暢に使いこなすことが出来るようになっていた。二人のツァーカ人はツァーカというのは自らの姓であり、少女の方の名前がカジュ、男の子のほうがカーキュと話し、二人は姉弟ということも二人によって説明されていた。

 後に二人は教育者に保護されているのに教育を普通に受けることが出来ないのは、けしからんとの争議が日本国内で起きた結果、学校にも通い、日本国籍を紆余曲折の過程を経て取得した。その頃には日本での生活にも完全に馴染んだ様子だった。


 カジュは大人びた少女になり、カーキュは幼い子供から少年へと成長していた。その頃にはメディアや世間からの関心は完全に薄れていた。一部の学者と、物好き以外には。



 ウェブ上のとある匿名掲示板のスレッドのテンプレの1より引用。


【ヒサノ】ツァーカ人の謎をオカルト的に考察するスレ27【エルフ】


1

Q:ツァーカ人ってなにさ?

A:○×県○×市で警察に保護され、○×大学の久野茂雄教授によって存在が発表された人のようで人でない生物。


Q:人のようで人でないって?

A:ツァーカ人は人類と似ているが、人類とは全く違う特徴を持つ(細長い耳、緑色の髪など)。もちろんDNA配列なども人類とは違う。その容姿から発表者の名を取ってヒサノエルフの別名を持つ。


Q:なんで、そんなのが○×市に?

A:その謎を考察するのがこのスレの存在理由。君はカジュたんハァハァしてもいいし、オカルト的知見から考察してもいい。


引用終了



 前話から少し時間が戻って、オーロラが消失した当日の昼過ぎ。

 久野教授の妻である久野京香は、我が子同然の存在であるカジュとカーキュの様子が下校してきてから明らかに普段と違うことに気が付いていた。

 午前九時ごろまで日本全土の空を覆ってきたオーロラの消失。および、それと同時に起きた日本全国での海外との通信障害によって、政府は非常事態宣言を発令。地方自治体の任意の判断により公立学校の子どもの早期帰宅が促され、児童、及び生徒は、避難計画に基づいた形での帰宅を余儀なくされた。

 二人は帰宅してからずっと何かに怯えているようだった。姉のカジュは不安を隠そうとしているようだったが、ここしばらくの日本での平穏な生活になれきっていたせいか、突然のことに動揺を隠せないようだった。

 弟のカーキュは姉より幼い。それだけに露骨に不安を抱いている様子が現れていて、それが京香の二人に対しての心配を煽っていた。

 オーロラの消失と二人の動揺が関係していることはすぐに見当がついた。

 そして京香に対してカジュはついに意を決したのか、言葉を打ちだした。

 「京香さん。とても大切な、私とカーキュの出自に関わる話があります。そしてこれからの私たちについての話も。久野教授に至急連絡を取りたいのです」

 普段から生真面目なカジュが、いつもに増して真剣な表情で、言葉を発する様子は京香からすると痛々しく、非常に辛そうに見えた。



 「私とカーキュがどこから来たのか、そして何者なのか、あのオーロラが消えた今なにが起きているのか、お話しします」

 二人が久野家で生活するようになって四年ほど経つ。しかし二人は自らがどこから来たのか、そして何者なのかという点については固く口を閉ざし続けていた。

 しかし今回のオーロラの消失に始まる、この国で発生している異常事態をきっかけに決意したか、その固く閉ざしていた口を開こうとしていた。その様子は久野教授は二人からただならぬ覚悟と不安。そしてなぜか心から謝罪する前の人がとるような態度を感じとっていた。

 「私たちは教授達、この世界の人の言葉で表すならば、異世界。パラレルワールドに近いところから、流れ着きました」

 「異世界…にわかには信じがたいが、君らのDNAが人類とは異なり、地球上には存在しない言語でしか話せなかったことの説明は確かにつく…流れ着いたというと君たちは意図して、この地球上に訪れたわけではなかったのだね」

 久野教授の地球上という言葉に、カジュとカーキュは苦しみを瞳だけで表すとこんな瞳になるのだろうなといった瞳で久野教授を見つめ返すことで答えた。

 「私たちは異世界の帝国、ツァーカ帝国の王族です。わが国では革命が起き…王族は私とカーキュを除いて皆、処刑されました。私たちは帝都を命からがら脱出し、船に乗っての亡命先への道中で追手によって攻撃を受け、船から身を投げ出されました。投げ出された水中で必死になって生きたい、逃げ延びたいと願い、意識を失いました。気が付いたときには見たこともない世界…地球の日本でした」

 久野夫婦は真剣に話を聞きながら頷いた。カジュ達の様子から彼女が嘘をついているようには、とてもじゃないが見えなかったのだ。

 「そして今、私たちがいるこの世界は地球ではありません!私たちには感覚でわかるのです。大いなる魔力のある、私たちがもと居た世界に戻って来たという感覚が!…帰ってきてしまった…ツァーカの王統を受け継ぐ私たちを革命軍が殺しにきます。この国にとてつもない迷惑が掛かりますっ…これだけは伝えなければならないと教授にお話させていただきました。この世界で身寄りのない私たちをわが子同然に扱ってくれ、育ててくれて本当にありがとうございました。私たちが日本にいると、革命軍はきっと日本に襲い掛かります。革命軍だけじゃない、連合さえも…だから私たちの引き渡しを革命軍が求めたら、応じていただきたいのです。これがせめてもの恩へ返礼です」

 しばし無音が空間を支配した。

 「なにを馬鹿なことを…君たちは異世界の帝国の王族だ、しかし今は日本国籍を持った日本の国民でもある。この国の人をこの国が守らなくてどうする?」

 久野教授に続き京香も言う。

 「そうよ、あなたたちは私たちの子同然よ、その子が死にに行きたいといってそのまま差し出す親がいるわけないでしょ!」

 「…しかし、私たちを引き渡せば済むのです。日本が戦争に巻き込まれずに済むのです。…この国はとても平和な国です。争いの続く私たちの世界には存在しないほど…私たちはすでに一度死んだ身。だからこそこの国の平和を守りたいのです」

 「この国も愛されたものだな……だが断る。君たちが、誰が、望もうとも、そのようなことは私が断る。君たちには君たちなりに平和を守るためにできることがある」

 「しかしっ!」

 必死に嘆願し説得を試みるカジュ。カーキュは姉を必死に支えようとしていた。

 「カジュ、カーキュ。私に任せなさい」

 そう久野教授は言うと今ではほとんど見ることのなくなった折り畳み式の携帯電話を取り出し、電話を始めた。

 電話は三十分ほど続いた。

 電話を終えた久野教授は二人に言った。

 「カジュ、カーキュ。会見の準備だ。この会見で君たちと日本の運命が変わる。忙しくなるぞ」

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