来客
西暦201X+4年7月26日 1300
房総半島からはるか東の空、しかし日本の防空識別圏内。そんな空を一隻の船が進んでいた。
船は雲海を切り裂くようにして、この世界のどんなドラゴンよりも速く飛行している。
この船は、船を操る一人の女性の内から発生する膨大なマナによって、浮遊し推進していた。甲板の中央にある魔法陣の中で、マナを発生させている彼女の名はレテア・ベルローレ。
「ディアルク爺!あと、どれほどの時間で目的地に到着いたしますの?」
「お嬢様、この速度のまま飛び続ければ、あと一時間も経たずに目的地に到達いたします」
レテアは、ディアルク爺と呼ばれた年配の付き人らしき男性に話を続ける。
「魔探に反応はないかしら?陛下の仰ったとおりならば、目的地あたりには魔力反応がないはずですわ」
「魔力探知機に若干の反応がありましたが、ほぼゼロの範囲でございます。ノイズでございましょう」
「陛下の船の魔探にノイズなどありえませんわ!もう一度確認を!」
「…承りました」
そのようなやり取りから数分もたたない内に、船上から見える景色に異変が現れた。
「何かしら、あの二つの点は?あれは……爺!進行方向から何か飛んできていますわ!魔探に反応は?!」
「ございません」
「となると、あれが二ホンの飛行機械かしら…」
「その可能性が高いかと」
はるか遠くに見えていた二つの点はいつしか、レテアが資料で確認していた姿に近いもの変わり、轟音を響かせながら船に接近してきた。
飛行機械の前部にある透明な囲いの中に人が搭乗している様子が、飛行機械の横腹と翼には赤い丸が描かれているのが、レテアの目から確認できた。
「お嬢様、あの太陽を模した印、資料にあったニホンの国旗と一致しております。計画に移りましょう」
「ええ。音響拡大魔法陣の作成をお願いいたしますわ」
ディアルクは轟音の響く中、腰に下げていた鞘から、剣ほどの大きさの筆を取り出すと、甲板中央にあるレテアの魔法陣に美しい筆使いで陣を書き足した。
レテアがその新しい魔法陣に魔力を流し込む、すると魔法陣から淡い赤の光が漏れ始める。そしてレテアは魔法陣向かって、段取りにしたがって異国の言葉で話しかけ始めた。
「われらは、まぞく。ニホンのものよ、わられはこうげきをしない。ニホンのものよ、われらはたいわをしたい」
レテアの発した言葉たちは魔法陣の回路を通ることにより、音量を増幅されて出力された。その増幅された音はかなりの音量で、周囲を飛行していたニホンの飛行機械にも届いていた。
ニホンの飛行機械達はしばらくの間、そのまま船の近くを飛び続けていたが、決意が定まったのか、二つのうちの一つが、轟音を立てつつ船の前方にまで加速し、レテアたちを導くかのように、カエルの標章が描かれた尾っぽを振ってニホンのあると思われる方角に向かって飛び出した。