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調査

西暦201X年7月9日

 ○○新聞朝刊 地方欄

 「深夜に○○市内で警察が身元不明の子どもを二人を保護

 7月7日深夜一時ごろ、○○市内で○○署が身元不明の子ども二人を保護した。保護された子どもは小学校低学年ほどの男の子と高学年ほどの女の子で中国風の衣装を身に着けていた。二人は日本語ではない言語を喋り、署員がいくつかの言語で話しかけてみたが会話は成立せず、未だに二人の身元は判明していない。警察は二人が話しているのは少数言語の一つではないかとの見解をした。警察は身元確認のため、関係機関と連携するとともに、専門家への協力を依頼している。」

 

 この記事が書かれるにあたって、警察は意図的に新聞記者へと子供二人の情報をいくつか流し、少しでもこの身元不明で謎の言語を話す二人の身元につながる情報を求めていた。それほど二人は謎の存在であった。

 

同日 0900

 中年の男が、付き人と思われる若い男性を連れて、警察署にタクシーで乗り付けた。

 この中年の男は久野 茂雄。大学で言語学の教鞭をとる教授だ。付き人らしき男性は水迫 純一。久野教授の教え子で無理に連れてこられたようだ。

 二人は警察署に入るとすぐさま応接間に通され、署長の柴沼 英光と面会をすることになった。


 「よう、久々だな、教授様」

 柴沼署長は久野教授に会うなり、すぐさま冗談を言った。それを聞いた水迫は一瞬戸惑いの表情を浮かべた。しか久野教授は

 「ああ、久々だな、署長様」

 と冗談を言い返した。このやり取りは二人の男にとって日常のようだ。

 「とりあえず、腰を下ろしてくれ…さっそくだが本題に入る。電話で話したとおり、うちでは二人の子供を保護している。が二人は普通ではないんだ」

 柴沼署長はそう話を切り出し、自らもソファに腰をかけると、事の詳細を語り始めた。

 語ったのは、二人の子供は身元をしめすものを全く所持していなかったこと。そして未知の言語を話し、中国風の衣装を身に着けていたこと。最初は服装から判断して、中国語に精通する署員が中国語で話しかけたが通じなかったこと。そしてまだ、報道はされていないが、耳が長く尖っていて、緑色の地毛を持つこと。

 「耳が長くて尖っている?地毛が緑?」

 「そうだ。正直、人類かどうか定かではないと俺は思っている。これは内密にしてほしいが、採取した毛髪を極秘にDNA鑑定に出している」

 「極秘に?そこまでする必要があるのか?人権問題じゃないか?」

 そういった久野教授に対して柴沼署長は

 「理解してる。しかしな、俺にはあの二人がどうもこの世の人間とは思えのだ。話している言葉もこの世のものかは判断できない。だからお前に頼んだんだ」

 と真顔で答えた。

 「そこまで言うのには理由があるんだろうな」

 短い沈黙の後、柴沼署長は見ればわかると言い、男たちを二人の子供を一時保護してる部屋へと案内した。


 そこには長机の前に置かれたロングソファに二人の子供と向かい合って対応をしている婦人警官がいた。

 美しい…これはエルフだ。水迫は薄緑色の髪をして長く尖った耳を持つ二人の子供を見た瞬間直感し身震いした。

 しかし、その思考を遮るように柴沼署長は切り出した。

 「容姿どうこうで、この世のものじゃないと言ってるんじゃない。笠埼君、頼む」

 笠埼と呼ばれた婦人警官は部屋の片隅に丸めて置かれていた紙を持ってくるなり、デスクの上にその紙を広げた。紙は世界地図であった。

 そのあと笹崎婦警はジェスチャーでまず自らを指し、次に現在の場所、地図の中にある日本を指した。そして二人の子供にジェスチャーを交えながら問いかける。

 「あなたたちの国はどこですか?」

 すでに笹崎と二人の子供は、何回かこのやり取りを繰り返しているようで、二人の子供うちの女の子の方が意味を理解しているらしく、すぐに中国のあたりを指さした。

 「不思議だろう?中国を指さすが、中国語は全くダメだ。中国系のいくつかの言語を使って署員が話してみたがダメだった。彼らはいったい何者だと思う?」

 そう話した柴沼署長の横を通り過ぎ、久野教授は二人の子供の前に立つと何かを二人に問い始めた。


 問い始めてから十分が経とうとしてる。久野教授はいくつもの言語で、二人の子供と会話を試みていた。

 だが、その試みには意味がなかったようで、子供たちとの会話は成立していない。

 その後、久野教授は水迫を呼び、水迫は久野教授とは違った言語で会話を試みる。しかし、会話が成立しない。

 それから五分が経った。必死になって会話を試みる水迫を横に柴沼署長は

 「もういいか、久野」

 「ああ、わかった。確かにこの二人はこの世界の主要な言語、それとシナ・チベット語族の殆どの言語とは違う言語を話している。お前の言うとおり、不可解な存在だ」

 男たちの努力は結局、無駄だったようだ。


 「この二人のことだが、いつまでもここに置いておくわけにはいかない、だが児童養護施設に連れて行ったとしても、対応ができないだろう」

 「確かに…言葉が全く通じない子供の対応を迫られても、施設じゃ手に負えん」

 柴沼署長はその言葉を聞くとニヤリと口元が笑った。

 「そこでお前のところだ。一人息子も独立して寂しくなっただろう?それに二人が話す言葉がこの世の物ではなくて、しかも解析することが出来たら、ノーベル賞物じゃないか」

 「いやいやいやいや、確かにそうかもしれないが、かみさんにはどう説明すればいいんだ?見ず知らずの子供を連れて帰る?犬や猫を拾って帰るのとは全く違うんだぞ」

 その言葉を待っていたかのように、柴沼署長は切り返す。

 「お前のかみさんにはもう、話してある。了承済みだ」

 「なっ!?」

 そのようなやり取りがしばらく続き、結局、久野教授は折れた。

 だが、久野教授は内心では素晴らしい研究材料が入ったと思い。その喜びと、これから解き明かす謎へのときめきで、顔が綻んでいた。

 その後、山のような手続きを関係機関と行い、二人の子供は久野教授宅で世話になることになった。そして水迫はその手伝いを強いられたが、いやいや言いながら心の中では喜んでいた。ちなみに彼はロリコンでないが、彼にそう思わせるだけの美しさを二人の子供、特に女の子の方がもっていた。あと久野教授と同じように未知の言語への好奇心があったのだろう。


同年7月16日

 警察署での出来事から1週間後、一本の電話が久野教授宅にかかってきた。電話は柴沼署長からだ。

 「DNA検査の結果が出た。二人は人間ではない。科捜研の連中が狂喜乱舞しながら伝えてくれたよ。署では緘口令を布いているが、漏れるのも時間の問題だ」

 無言が続いたあと久野教授は覚悟を決めたように言った。

 「正式に公表しよう」

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