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落人

西暦201X年7月7日 AM0110


 深夜一時過ぎ、中心市街地から自動車に乗って二十分ほどで辿り着く、郊外の静まり返った住宅街。その静けさを打ち消すように、路上で幼い男の子が泣いていた。男の子の傍らには少女が呆然と立ち尽くしていた。

 子供の多い住宅街ならば、深夜に子供が泣いていたとしても、夜泣き程度に思われたかもしれないが、この住宅街では他の地域より少子高齢化が進んでいて、この路上を含む町内では、ここ数年、子供が生まれていない。そんな状態では警察に子供が外で泣いているといった通報が届くのには、そう時間はかからなかった。


 しばらくすると、付近の交番から夜勤の警官が連絡をうけて、自転車でやってきた。

 警官は二人の子供の様子を見るとすぐさま異常を感じ取った。異常を感じ取ったといっても、虐待の疑いなどではない。その二人は普通の子供服ではなく、中華風の正装らしきものを着ていて、髪は緑色、おまけに耳が空想上の存在であるエルフのように長い。コスプレをした子供が深夜の住宅街で泣いている。このことに警官は現代社会の病理を感じつつ、二人に話しかけた。

 「君たち、こんな夜遅くにどうしたの?お父さんお母さんは?」

 「****!?**********!!!」

 返事をしたのは少女だった。少女はこちらに何かを訴えかけようと必死になって話しかけてくるが、発している言葉は日本語でも英語でもない。警官は苦肉の策で、二人の服装から中国系と判断し、脳内の中国語をありったけ総動員して話しかけてみる。

 「***!!********!」

 どうやら通じていないようだ。しばらくの間、少女と無意味なやり取りを繰り返した後、警官は本部への応援を要請した。


同日 PM0300

 警察署内では昨夜に保護した二人の対処に困り果てていた。なぜならば、中国語に精通した署員によって先ほどまで、事情聴取が行われたが、まったく言葉が通じなかったからだ。事情聴取を行った署員によると、何らかの言語を話しているが、話している言葉は全く中国語ではない。中国内のいくつかの方言で話してみたが、どれも通じなかったということだ。

 しばらくの間、二人の対応をしていて分かったこともある。最初はコスプレだと思っていた服装や特徴のことだ。女性署員がいうにコスプレにしては異常に服の質感が高く、尖った耳もピクピクと生きているかのように動き、飾りなどではなく本物であることがわかった。緑の髪の毛も地毛かもしれないと、担当している生活安全課の署員が思い始めたころ。

 「こりゃ異世界人かもな」

 若い男性署員が冗談交じりに言った。それを聞いた別の署員は笑えない冗談だと思い、嫌な汗をかいた。


同日 PM0500

 署内は、保護された二人の子供のことについての話題で持ちきりだ。言葉は通じず、尖った耳、そして目立つ緑色の髪。そんな二人を見た年配の署員は

 「見てみろ、あの緑色の髪を、地毛らしいぞ。アレは、宇宙からやってきたお客さんだ」

 といったようなエイリアン説を唱えた。

 また別の若いマンガ好きの署員は

 「そんなわけありません!あの長くて尖った耳…あの二人はファンタジーからやってきたエルフですよ!」

 そんな感じで、異世界からやってきたエルフ説を唱えた。

 署員同士による論争が起きているころ、二人の処遇について、警察署上層部は、警察署では手に負えないとの判断を下した。未知の言語に、普通の人間にはない特徴、それが上層部を慎重にさせた。

 「とりあえず、役所だろ」

 その言葉を受けた担当の署員が役所に連絡し、たらい回しにされているころ、署長は大学時代の友人である一人の男に連絡をとるため、受話器に手をかけた。

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