20 エピローグ
――入室して二十分。はっきり言う。そこはカオスの世界だった。
入室者のうち、男女二人は延々とバーチャルアイドルの話をしていた。
あとは、語尾に「かにー!」をつける、年齢性別不詳の方。
二次元の嫁について語る方。カラオケについて一人で喋ってらっしゃる方。
このサイトのやつらはみんな宇宙人だと言い張る方。
最近できた、流行りの貝類専門店について延々と語る方。
大学で専攻している、なんちゃら主義について滔々と語っている方。
その方々を片っ端から否定する方。
――僕は入室時の「こんばんは」以外、一言も発しないままその場に残り続けていた。サイトのタイトルを確認する。死にたい人のお悩み相談。……死にたいとはなんだったのか。
利用規約を確認すると、『死にたい人達で相談したり雑談したりする場所』となっていた。きっとこの、緩い規約のせいで場が混沌としているのだろう。雑談と言われれば、そりゃあ人間なんだって話す。二次元とか貝とかなんちゃら主義とか。
この場で死にたい、と言ったらどうなるだろうか。話を聞いてくれるだろうか。無視されて、ログが流れていくだけだろうか。分からない。死にたいという言葉すら、ここでは場違いな気がする。おかしい。死にたい人用のチャットのはずなのに。この人達は死にたいのだろうか。分からない。
一時間粘ったものの、それらしい会話は一切出てこなかった。僕はというと、いい加減に疲れ始めていた。退室するか、会話に参加するかしたほうがいいのかもしれない。幸い、バーチャルアイドルについてなら知っている。初野ミクっていう歌うアンドロイドだ。これの話に乗ってみようか……。
その時だった。
僕に向かって、僕にしか見えない水色の発言がされたのは。
『イザナミ > YOU あなた、もしかして死にたいの?』




