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母の休日

うーん、こういうことあるのよねえ。

 朝から味噌汁のいい匂い。

 これは私の大好物のサツマイモの味噌汁。甘くてほろほろした芋が入っていると心も体も温まる。でも、もう少し寝ていたい。

「佐織、起きてる?」

「うん、もっと寝たい」

「いいけど、ご飯作ってるから」

「どこか行くの」

「ええ」

 今日は休日のはずでしょう。フリースのガウンを羽織り階下へ。

「ゆっくり休むんじゃなかったの」

「うん、そうしたいけどお腹もすいた。どこへ行くの?」

「今日は展覧会」

「何の?」

「この先の喫茶店で絵手紙の展示会があるの」

「ふーん、母さんも出してるの?」

「そう、結構気に入ってるの」

「どこよ、後で見に行くわ」

「まつぼっくりって所。町の公民館の二軒隣」

「わかった。でも早いんじゃない」

「ううん、そこでみんなとモーニング食べるの」

「そうか、いってらっしゃい」

「今日の予定は?」

「うーん、発送バイトの話があるから午後に行くつもり。これからお歳暮のシーズンだから雇ってくれそう」

「そう、届けるの?」

「やだ、ペーパードライバーだもん。無理」

「そうね、事故起こしてしまったらバイトどころか家を売る羽目になるわ」

 とてもうれしいご忠告、心にしみるわ。はやくいってらっしゃい。私は味噌汁を入れて静かに食べることにする。

 ピンポーン。

「はあい」

「春爛漫のお迎えに来ました」

 ドアを開けると、むっちゃんではないか。受付ではなかったの。

「おはようございます。小日向文子さんのお迎えに来ました」

「おばあちゃん」

 思わず声が上ずってしまう。呼ぶと同時に祖母が来た。お気に入りのグレーのカシミアのカーディガンを羽織っている。黒のコーデュロイのズボンがよく似合う。おしゃれじゃないの。ピンクの口紅までしてる。

「おはようございます」

 むっちゃんが声を掛けるとうれしそうにおはようと祖母も応えるが、いつもより二音ばかり音程が高い気がするわ。

「いってらっしゃい」

「はい、行ってきます」

 祖母の手を取りむっちゃんがゆっくり歩く。マイクロバスにはすでに二人の女性が乗っている。入り口のドアを開けると、ステップを下す。祖母がゆっくりと上がって二人におはようございますと頭を下げている、運転手の人までが優しく声を掛けている。

 朝からすでに家族以外の四人と声を掛けあうのか。祖母にはいいことだなあ。私なんぞ、家にこもってたら家族でも顔を合わさなければ話はしない。きっと気難しいおばあさんになってしまうだろう。

 食器棚のガラスに映る私の姿。

「いやだ、すっぴんどころか、顔も洗ってない!」

 ハンサムなむっちゃんは朝からすっきり爽やかな顔だった。よだれや目やにはなかったかしら、髪はぼさぼさ、フリースのガウンはよれよれで、パジャマのズボンはゴムがゆるくてかかとで踏んでるじゃないの。

 あーあ、落ち込むなあ。

 でも、食欲とは別なのね。サツマイモの味噌汁がやたらと美味い。もう一杯食べよう。


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