驚愕の事実だ!
むっちゃんに送られて帰る道すがら、祖母はご機嫌だった。
「今日も楽しかったわ」
「デイがこんなに楽しいってよかったねえ」
むっちゃんは運転しながら笑っている。
「小日向さんはクイズの女王って呼ばれてるんですよ」
祖母はそう言われてご満悦の様子。
「いやあね、そんなこと」
祖母の言い方に女を感じる。いくつになっても女は女。褒められると嬉しいし華やいでくるのか。デイとは不思議なところだな。私も行こうかしら。八十になれば。
「小日向さん、新しいお勤め先はどうですか」
「ええ、とってもいいところです。ぜひコーヒーを飲みに来てください」
「あ、喫茶店でしたね」
「はい。ギャラリーもしていて小さな作品をよく飾っていますよ」
「そうですか。今度伺います」
二人で楽しそうに話していると、祖母が割り込んでくる。
「私はね、コーヒーは嫌いなの。紅茶がいいわ」
「あるわよ、紅茶も」
「そうかい」
二人で話していると、のけ者にされた気分なのか、クイズの女王よ。
家に着くと、早速あのお金のことを聞いてみた。
「おばあちゃん、タンスに大金があったよ」
「あら、どうして知ってるの」
「だって、さっき服を届けたじゃないの。のぞいたりしないわよ」
「ああ、そうだったわね。あれはね、保険金じゃないの。投資よ」
「えーっ、五百万も?」
「私じゃないよ、おじいちゃんがやっていたの。ボケる前にね。それで、投信を売ったお金よ」
この驚愕の事実。この高齢者たちは投資信託などしているのか。すごい。証券会社すら行ったことがないのに。
「よく騙されなかったね」
「誰に?」
「証券会社の人」
「映画じゃないの。普通の銀行員と同じよ。悪い人なんてテレビや新聞での話よ。大手の証券会社はそんな心配要らないの。でも、おじいちゃんが転んで入院した時にやめたの」
「それまではしていたってこと?」
「そうよ、アメリカの株やヨーロッパの公社債などの投信」
「わあ、おばあちゃんの口からそんな話を聞くなんて」
心臓に悪い。でも、祖母は滑らかに話す。分配金の利益やら損した時の話。
「長く持っていればいろいろあるよ。リーマンのときなんかガクッと下がっちゃって。おじいちゃんがやせたもの」
リーマンってリーマンショックですか? おばあさま、すごすぎる。そういえば一時祖父は痩せたなあ。
「それでも、こんなお金墓まで持っていけないし。いずれは遺産だよ」
「泥棒に入られたら危ないから預けたら?」
「そうだね、そんなことも面倒だから放っておいたんだけど」
「そんな大金、タンスに入れて忘れちゃうって信じられないわ」
祖母は近くの信用金庫に明日預けるっていうから、私も付き添うことにした。老人一人で大金持って行かせられるわけない。
母が帰って来た。
「ああ、疲れた。あんな山奥、おじいちゃんだって狸と一緒みたいで嫌がるわ」
疲れた母に今日の祖母の一日を話す。頭から濡れてしまった話やら、悦子さんとの会話を涙を出して笑っていた。そして、本題のお金の話。
「知ってるわよ、そんなこと。いくらしているかは知らなかったけど」
「えーっ、知ってたの? おじいちゃんの投資話」
「だって、証券会社の人がよく見えてたもの」
「そうなんだ」
「退職したときから始めたみたいだったわよ。証券会社から通知の手紙もよく届いたし」
ほうっ、そんなものか。
「ねえ、お母さんもしてるの?」
「少しね」
わーっ、またまた驚愕の事実。世の中そんなことしているのはごくごく少数だと思っていたのに。
「佐織も仕事をして給料がたまるようになったら考えたらいいわよ。あなたの世代は年金だってもらえるかどうか疑問だわ。自分で考えておかないと」
「お母さんやおばあちゃん、今日は尊敬する気持ちになったわ」
「あら、ゲンキンな子」
そうだけど、それで道外すって人も多いって聞くし、そのあたりを今度しっかり講義してもらおう。でも、弟には教えない方がいいと思う。
あの子は危ない。