三、ブリッジキックマン その一
すごく頭が重かった。
脳の中に余計なモノが詰まっているかのような感覚で、瞬きするのも辛い。
二日酔いってこんな感じなのだろうかと思いながら、顔を上げる。
視界がぼんやりとしていても木目調の化粧合板の机が確認できた。
また、居眠りしてしまったらしい。
涎を垂らしていないのが救いだった。エリカ達に注意されないですむ。
とても静かなので授業中かもしれない。
鳥の声が聞こえる。
聴覚を刺激するくらい近い。
窓から教室の中へ入ってきたのだろうか?
だとすると、クラスがもっと騒いでもいいはず。
視界が徐々に開けてくる。
「ここは……どこなの?」
まだ、夢の中にいるような気持ちになった。
周りはうっそうとした木々に囲まれている。机と椅子が置かれているところは、子供がサッカーできるくらいの空地で、膝より背が低い雑草が乱雑に生えていた。誰もいない。一人青空教室状態。どこにでもある田舎の風景のど真ん中に学校の机と椅子が何気なく置かれ、理不尽さが同居している。軽く風が吹いて木の枝に張り付いていた葉が飛び、青空に彩えた。同時に魚が腐ったような臭いが鼻腔をくすぐる。近くにゴミ処理場でもあるのかもしれない。日差しが強く、着ている制服は夏用。起きる前とそれほど記憶がずれているとは考えにくい。
なんで、こんなところに自分がいるんだろう?
推測して、後悔した。起きる前のことを思い出すと震えてしまう。
私は親友の直里に刺された……はず。
刺された箇所を慌てて見ると、無傷だった。
ほっとする半面、頭が混乱する。
夢にしてはリアル。
今が夢なのか、さっきが夢なのか、どっちが夢なのか判断ができない。
とりあえず帰り道を探す。
ここから離れないと何も解決しない。
少し離れたところに、舗装された道ではないけれど、車のタイヤに踏まれて凹んでいる轍を見つけた。途中から右左に分かれている。風が吹いて嫌な臭いがする左を進むことにした。どう考えても自然発生したものじゃなく、化学繊維的なものが混ざって燃えた跡のような臭い。人工的にできたニオイなら人間の形跡があるはず。
道はやや下り坂になっている。木と木の隙間から海が見えた。私の住んでいる街ではないけれど、見覚えがある。確か小学生くらいのときに遠足で来た隣町ではないだろうか?
風が吹くごとに臭いがきつくなって、思わず手で鼻をふさぐ。
行く先に、信じられない光景が広がっていた。草が削られた赤土の空地があって、傾いた木の杭に有刺鉄線が巻きつかれている。厳重に管理された土地ではなく、有刺鉄線が土に埋まって自由に出入りできる箇所もある。そして、車のタイヤが黒い壁となってきれいなはずの海岸の景色を遮っていた。生ごみ、冷蔵庫や長椅子、原型のない割れたプラスチック片なども散乱している。不法投棄の言葉がこれほど当てはまる場所がないくらい悲惨な状態。
ゴミがあるなら人が生活しているわけで、とんでもない異世界に放り込まれたということではないらしい。嗅覚が機能しているから夢の中でもなさそう。
街の方まで歩いて警察に助けを求めるしかない状況なのかもしれない。でも、 なんて説明したらいいのかわからない。
迷子になった高校生を相手にしてくれるだろうか?
山積みされたタイヤを迂回するような轍の道が続いている。
街まで何キロかな?
こんなときは文明の利器を使わない手はない。けれど、スマホはどこかに落としたのか行方不明で、体を弄って膨らみを感じたのは胸ポケットに入っている生徒手帳だけ。
ため息しか出てこなくて、萎えてくる。
「えい!」と少し気分を変えるために声を出し、足の動き出しをスームズにする。
しかし、その空元気はすぐに消えてしまう。
タイヤの山に近づくと、背骨に疼きが走った。いままで感じたことがない悪寒。花子と面と向かったときだって、こんな感覚を味わったことがない。
「久し振りだな」
若い男の声が親しげに飛んでくる。
目をキョロキョさせても人影がない。
「どこを見ている」
粗雑な言い方で、声だけで相手にしたくないという感じがした。
黒いタイヤの中に入って隠れているのだろうか?
「ここだ」
今度はけだるく大きな声がして方向は判断できた。けれど、やっぱり黒いタイヤしかない。
よく見ると、横向きに倒されて縦に配列されているタイヤが僅かに回っているのがわかった。中の丸い空洞にはなにも入っていない。タイヤ自らが意志を持って回転している。次第にその数が増えて、二メートルくらいの高さに積み重ねられたすべてのタイヤが、キュルキュル音をせるようになった。
「会ってそんなに時間は経ってないが、おれを覚えてないか?」
はっきりとタイヤが語りかけてきた。一列に縦に並ぶすべてタイヤが連動して、とぐろを巻く。
蛇?!
黒光りしている歪なうろこ、楕円形の斑点はさらに黒く、生臭い。ニオイの発生はこれに間違いない。アマゾンの奥地にならいるかもしれないけれど、サイズは逸脱している。いまいち蛇だという認識が頭の中で整わない。
「化け物に知り合いなんていない!」
恐怖を振り払うために大声で叫ぶ。
「失礼な奴だな」と言いながら、頭部が垂直に伸びてきた。細くて憎々しい目、赤くて先の割れた舌をペロペロ出す。「いきなりこの姿をさらせば、腰を抜かすと思ったのに、母親を殺そうとした人間はさすがに肝が据わっているな。おっと女性には失礼な表現だったかな」
どうして……花子を殺そうとしたことを知っているのは、花子自身と直里だけのはず。
「ほめてあげてるんだぞ。ありがたく思え」
「化け物にほめてもらってもうれしくないわ」
「ほぉ~ずいぶんと強気に出たね。まさか君はここが夢の中とか時間がループした世界だとか平行世界や電子空間なんかと勘違いしてないか?」
「えっ?」
心の中が見透かされている。やっぱりここは夢なんだと、自分に念じた。
「この姿を見れば、少しはわかってもらえるかな」
蛇は含みのあることを言うと、ギュギュと自分の体を絞めて、とぐろの輪を縮めていく。そして、ほんの一瞬で人間の形になる。蛇のうろこまみれの人間で、見方によってはSF映画に出てくる宇宙人。
「花子にくらべたら、あんたなんか怖くないわ」
私が言うと、蛇人間に変形した化け物は、湾曲した眼で口を歪め、両肩を奇妙に隆起させた。バサッと翼を広げるような音をさせると、いつの間にかナイロン製の紺色のウィンドブレイカーを羽織っていた。手品みたいな真似もおかしいけれど、あまりに似合ってなくて笑いそうになる。
「まだ、わからないのか。これでどうだ」
蛇人間が手を背中へ回して、頭の後ろからフードを垂れ下げた。
「ひょっとして、ブリッジキックマン?」
橋で蹴られた場面が鮮明に浮かんでくる。
「自転車も用意しないといけないかと思ったぜ」
言ったあとで、蛇人間はククッと笑う。
「なんで、私を蹴ったの?」
もっと肝心なことを訊くべきだったかもしれないけれど、こいつに蹴られたせいですべて狂った気がする。
「蹴りたかったからさ」
「理解できないんだけど」
私は睨んでみせた。怖くなんかない。
「すごいなおまえ。この姿を見ても全然ビクつかないとは、さすが一番目の人格だ」
「一番目の人格?」
ブリッジキックマンと真面に会話できる不思議さより、一番目の人格という言葉に、なぜか優越感みたいなものが湧く。
「夢、時間のループ、ネットの世界じゃないとさっきも言ったろ。だから、すでにネタバレなのだが、この世界は、つまりおれの潜在意識の中さ。しかもおれは多重人格障害。なのでおれが、オリジナルの人格というわけさ。この蛇の体は仮の姿。おまえは最初に現れた一番目の人格」
「そんな話、信じられるわけないでしょ」とは言ってみたけれど、話の半分も理解できていない。
「朝からいままでの出来事を振り返ってみろ。すでに非日常的な世界じゃないか」
「あっ、でも……」
言葉が迷子になる前に飲み込む。記憶が二回途切れたこと、そしてこんな場所まで運ばれて学校の机や椅子を用意されていた意味不明な状況を考えると、ブリッジキックマンの話しを信用しないわけにはいかなくなる。
「ここがおれの頭の中の世界だと信じられないか?それとも信じたくないか?」
「どっちもよ」
「証拠が見たいか?」
「当たり前でしょ!」
もったいぶった訊き方が気に障って、声が大きくなってしまう。
「すでに俺の姿を見て、ここが現実の世界じゃないということはわかるだろ」
「そんなことだけじゃ、あなたの頭の中の世界なんて、わからないわ」
「そんなこと……か、ククククッ」
ブリッジキックマンは肩を振るわせて笑う。
「私、笑うようなこと言った?」
「いや、なめられたもんだと思ってさ」
妙に人間臭い言葉を連発させるブリッジキックマン。
「別になめてないわ」と言えるだけ、私に恐怖心はない。見た目と相反するように襲ってくる気配が感じられない。花子よりも会話が弾む。
「俺はオリジナルの人格だから、おまえのことを知っている」
「例えば?」
「母親の策略でスズベバチに刺されたことがトラウマになっている。それを根に持って母親を殺すイメージが頭から離れないでいる。今朝俺に蹴れたことが原因で母親に首を絞められ、友達にも刺されて、二回記憶を失っただろ」
「な、なんで、そんなことまで知ってるの?」
監視されていた?
いや、私の精神状態まで把握している?
「一番目の人格、つまりおまえが現実世界に戻ったとき、自慢げに自分のことをぺらぺら喋ったらしい。おまえにそのときの記憶がないのは、オリジナル人格の特権で、おまえの邪魔な記憶を消してやってるのさ」
「私は現実の世界へ戻れないの?」
「さっきも言ったが意識的には戻れる。だが、肉体は存在しない。あるのは俺の体だ。おまえは俺の精神世界の住人で、おれの人格のひとつにすぎない」
「そ、そんな」
私は縋るような表情をしてしまう。ブリッジキックマンの言っていることを信じてしまいそうになっている。
「でも、方法がないわけじゃない」
蛇人間の目が怪しく光った。
「あるならさっさと言いなさいよ!」
私はイラッとした。
「わかっていると思うが、俺の肉体で良ければ譲ってやる。人格を乗っ取ればいいんだ」
「人格を乗っ取る?」
「殺す、という意味さ。簡単ではないけどな」
ブリッジキックマンは憎らしく微笑む。
「そうね。あなたを殺すのは簡単ではなさそうね」
私は相手にしなかった。
「他にも第二、第三、第四の人格がいて、おれを乗っ取ろうとしている節がある。そこでおまえに他の人格を始末してほしい」
ブリッジキックマンからは頼み事をする低姿勢さが伝わってこない。
「自分でやればいいじゃない」
「ネタバレをするが、おまえが記憶を失っているとき、現実の世界では俺が精神を安定するために睡眠薬を飲んでいる時間帯と符合する」
「だから、なんなの?」
「おまえが首を絞められたり、刺されたりしたとき、慌てて睡眠薬を飲んでやって、助けてあげたんだぞ」
妙な説得力は感じるけれど、ブリッジキックマンの卑しい目つきで言われると信用するわけにはいかない。
「俺の精神状態は破綻寸前なんだ。そこでおまえにすべてを譲ってやろうという親切心で話している」
「このままだと、もうじきあなたが死ぬってことね。おめでとう」
私は満面の笑みで応えてあげた。
「まだよくわかってないようだな。俺が現実世界で死ねば、おまえも死ぬ」
「そうかもしれないわね。でも、私はあなたが創り出した人格だなんて信じない!」
「まぁ、現実を簡単に受け入れることができないのはわかるが、一日を振り返ってみろ。おまえの他に登場人物はどれくらい出てきた?」
「登場人物って……直里とエリカ、花子もそうか……あとは……」
私は背筋が凍った。ブリッジキックマンに蹴られて、病院に運ばれはしたが、看護師さんや医者の顔、学校で直里やエリカ以外の生徒や先生の顔が思い浮かばない。特に生徒に関しては名前も憶えていない。
「世界観を繊細に表現するのは難しい。映画みたいなもので、登場人物は限られるし、個人の設定も完璧というわけにはいかない。例えばおまえに小学校に通う前の記憶は残っていないだろう?」
「待って、思い出すから」
幼い頃の思い出を必死に甦らそうとした。遠足、運動会、誕生日、クリスマス……楽しいはずのイベントごとがたくさんあったはずなのに、映像として脳裡に焼き付いていない。
「おまえの記憶は穴だらけで、人生として成立してない。断片的に記憶を繋ぎ合わせただけの継ぎ接ぎ人間。おれの生活を台無しにした一番目の人格。性別は女だが、強気で粗暴な性格というところか」
「私はそんな性格じゃないわ。それに、あなたに迷惑をかけた記憶がないんだけど」
言われ放題でむきになった。腕を組んで怒ったポーズをとってみる。
「現実世界でおまえの人格が現れたとき、医者を殴ったりして散々迷惑をかけていたらしいぞ」
「そんなの知らないわよ!」
自棄気味に返す。
「現実世界の記憶を少しでも残しておけばよかったかな」
ブリッジキックマンは鼻でせせら笑う。
「譲るって本気なの?」
現実の世界に興味が湧く自分がいた。
「一番目の人格に受け継いでもらうのが、理想だと思っている。二重人格までくらいなら我慢できなくもないが、三重、四重となるとさすがにきつい。生き残れる人格はひとつだけにさせてもらう」
「現実世界で、あなたは男?女なの?年齢は?職業や家族構成も知りたいわ」
自分の人格が現実世界で自由になれるとして、操る体が死ぬ間際の老人だったらたまらない。
「疑問は色々あるだろうが、それは他の人格を始末するごとに、報酬として教えてやることにする」
「随分上から目線ね」
「感謝されることはあっても、おまえに恨まれるいわれはない」とブリッジキックマンが声のトーンを落として言った。
「原因が私だって言いたいわけ?」
「そうだ」
「私が望んであんたの一番目の人格になったわけじゃないわ。多重人格って幼い頃の虐待のストレスが原因なんでしょ?親から暴力を振るわれて、その痛みから逃れるために別人格を頭に創って、身代わりになってもらう。そんなところかしら」
言ったあとで、この知識は一体どこから湧いてきたんだろうと思った。たぶんブリッジキックマンが現実世界で見たサスペンス系の映画やドラマで取得したレベル。そう考えると、私がブリッジキックマンから創られたモノだということになる。自分の体が気持ち悪くてしょうがない。
「浅い知識をひけらかしても惨めになるだけだぞ」
「はっ?」
おまえが言うなよ、と突っ込みたい気分。ブリッジキックマンの人格だと口に出して認めれば、勝ち誇ってつけあがりそう。
「ところで、他の人格を消す決断はできたか?」
「そんなの、できるわけないでしょ」
答えてから、もっと強く拒否しておけばよかったかもしれないと反省した。
「身内を殺そうとした奴が言う台詞とは思えんな。おまえが拒否しても、他のやつに話を譲るだけだ」
ブリッジキックマンは口を斜めに歪ませて卑しい笑顔をつくった。結局、勝ち誇ったような顔を見てしまうことになった。
「それって脅迫よね」
「脅迫でも何でもかまわないから、さっさと判断してもらわないと、次の段階に進めないのだが」
「殺すのは花子だけって決めてるの」と言いながら直里の顔も浮かんでくる。
「一人殺すと宣言しておきながら、正義を振りかざすのか」
ブリッジキックマンの挑発は半端ない。花子を殺せば頭の中のスズメバチが消えると思っていることまで知っているような気がする。
「私って身勝手?」
優しい訊き方で変化をつけた。これで私の心が読めるのか探ってみる。
「そんなこともないだろ。女は身勝手なモノさ」
予想外に良い反応をしてくれた。私の腐った性根の悪さまで、見透かされそうな心中を隠せれば儲けもの。
「殺した相手は痛みを感じる?」
「そんなことは知らん」
「殺人をすると、この世界では警察が追ってくる?」
「新たな人格が生まれて、それが警官として出てくる可能性はないとは言い切れないが、皆無だろうな。もし追ってくる奴が現れても、おれが睡眠薬を飲む時間まで逃げ切れれば問題ない」ブリッジキックマンは赤い舌をペロッと出した。「それより他の人格を殺せるのか?」
「しつこいわね」
「蛇だからな」
「嘘言わないで。私はあなたが精神破綻したときの保険でしかないくせに」私は感情を抑え切れなくなっていた。「どうせ私を手駒にしたいだけでしょ」
「間違ってもらったら困る。人格を殺すのは単なる治療なんだぜ」
ブリッジキックマンは隠し持っていた決め台詞を吐いてニタッと笑う。
俯いてしまった。返す言葉がない。このままだと殺人をしないといけなくなる。
「私、どうすればいいのよ……」
呻いても頭は迷走するだけだった。
「おまえに選択肢はないと思うがな。でも、気に病むことはない。おれの中に棲む二番目の人格はおまえの母親なのだから」
「二番目の人格は花子なの?」
「最初の標的にしては願ってもない相手だろ?」私の反応を窺うように楽しそうに訊き返してくる。人格を殺せるのか花子でテストするもりだ。「そろそろ睡眠薬を飲む時間になるが、次に目覚める場所や時間はわからない。誰と会うことになるかわからないから、他の人格も教えてやろう」
「教えてもらって、どんな利点があるの?」
「誰が敵かわからなかったら、逆に消されるぞ」
ブリッジキックマンの言い方に熱っぽさがあり、同時に違和感を持つ。
「そ、そうね」と戸惑い気味に返す。
「すでにネタバレなのだが、三番目の人格はおまえの少ないお友達のエリカだ」
「えっ?」
「四番目の人格もお友達の直里」蛇人間の目は緩みっぱなしで饒舌になる。「さっき言ったとおり、登場人物は限られてるからな」
「そ、そんな」
「ククッ……」
絶望感に満ちた私の顔を見て、ブリッジキックマンは顔を横に向けた。笑いを堪えている。
「できるわけないでしょ!」
「最初からできないと言ってしまうと、なにもできないぞ」
ブリッジキックマンの言い方は、体育の授業で鉄棒の逆上がりを教える先生みたいだった。
「いくら人格でも親友を殺すなんて……」
「できるさ、おまえなら」私の言葉を遮って無理やりねじ込んできた。唆そうとしているのか、親身になっているか、わからない。「おまえの友達は本当に信用できるのか?」さらに畳みかけてくる。「俺を信用しなくてもいいが、友達も本物の人間じゃないんだぞ」
このままだと押し切られてしまいそうだし、引き受けないと自分の人格が消される可能性もある。残る道は嘘をつくしかない。
「わかった……やるわ」
ブリッジキックマンは訝しく見詰めたあと「他の人格と繋がりのある生活空間にいれば、自然と会えるだろう。殺す順番はどうでもいい」とアドバイスを送ってきた。
「どうして身近なところに他の人格が存在するの?」
「俺が創った世界だからな。この精神世界は意外と狭い。これは現実世界の医者でも知らない事実かもしれないな」
前向きな姿勢を見せたことがうれしかったのか、ブリッジキックマンは薄く笑う。
「あとはお薬の時間まで待つだけ?ブリッジキックマンさん」
いきなり手下になりました、とか、へりくだった態度に出てもやりすぎなので、親しみを軽く滲ませてみた。
「俺はブリッジキックマンじゃなくて沢木 京というちゃんとした名前があるんだがな」
沢木 京と名乗るブリッジキックマンは、腰に手を立てて人間っぽいポーズをした。