二、直里(スグリ) その一
目が覚めたとき、私は教室にいた。
窓際から二列目、後ろから三番目の机に顔を突っ伏して寝ている。
机の天板は前に座っていた人の仕業なのか、 “ツヨシ参上! ”と深めに彫ってあった。見覚えがある。自分の席だ。ということは二年三組の自分の教室らしい。
黒板上にある時計を目で確認すると九時五十六分。
一時間目が終わったあとの休み時間。
「アヤメ、机に……ヨ……ダ……レ」
後ろから囁かれた。友達のエリカだった。
私は顔を真っ赤にさせながら、制服の袖で机の上の涎を素早く拭き取る。
「もう!口が先でしょ」と言って肩を叩かれる。エリカの手には花柄のハンカチが握られていた。私のために貸してくれるつもりらしく、遠慮なく使わしてもらった。
「洗って返すね」
「いいよ」とエリカはハンカチをさり気なく奪う。
「私いつから寝てた?」
「数学の時間が始まってから五分もしないうちにウトウトしていたよ」
エリカは笑顔で答えてくれた。いつも世話を焼いてくれる。垂れ目が特徴でふんわりとした雰囲気が私は好きだ。ボリュームのあるツインテールが彼女のトレードマークになっている。
「牧原先生じゃなかったら怒られてたよ」
さらに声をかけてきたのは直里。近眼で赤い縁のメガネをかけている。上部にリムがなく、目の表情が盗めやすい形なのだけれど、いつも笑っている印象が強い。ストレートの長い髪がしなやかになびいていつも良い香りがする。三人の中で一番成績が良い。自分から前に出るタイプじゃなく大人しいけれど、三人一緒だと饒舌になる。
一年から同じクラスで、二、三年はクラス替えがないので高校はずっと一緒のクラス。三人共名前が花の名前から取られている共通点があって、仲良くなるきっかけになった。
「どうしたの?すごい汗だよ」
エリカが心配そうな顔をして、仕舞いかけたハンカチで私の首を拭いてくれた。
「怖い夢でも見たの?」
直里も私の顔を覗き込んでくる。
「私、変な夢を見た」
二人が心配しているのがうれしくて、私は素直に答えた。
「どんな夢を見たの?」
エリカと直里が声を揃えて訊く。
「高いビルから落ちる夢」
咄嗟に嘘をつく。お母さんを殺そうとして、逆に殺される夢を見たなんて言ったら二人には刺激が強いかもしれない。
「あぁ~私も見たことある」
エリカが同調してくれた。
「寝相が悪いとか、ストレスがたまっていると、見るって聞いたことある」
直里は安心感を与えるように説明を加える。
「私、寝相悪いからなぁ~」
「椅子に座って寝てたんだから寝相が悪いとか関係ないでしょ」
パシッ、とエリカが笑いながら背中を叩く。釣られて直里も口に手を当てて上品に笑う。
私はいつも二人のお荷物的な存在なのだけれど、構ってくれて、心配してくれて、笑わせてくれる。
その後、重度のストレスが原因だと二人から無理矢理診断を下され、二人はこれからもっとアヤメに優しくする、という処方箋をくれた。
休み時間や昼休みはエリカと直里と会話を弾ませ、二時間目以降は珍しく授業に集中できた。
ただ、全ての授業が終わってしまうと虚しい気持ちになる。家に帰るのが嫌だった。ちょうど掃除当番で少しは時間が潰せた。
最後の一人になるまで教室に残っていた。深いため息が何度も出てきた。足も重い、手提げ鞄がずしりと指の関節を痛めつける。いつもより神経が過敏に反応している。いや、体の芯から怯えている。家に帰るのが怖い。現実を受け入れるのが怖い。なによりも私の本性がバレることがもっと怖い。
柄にもなく早起きなんてするんじゃなかった。
花子に首を絞められて気を失った場面はリアルすぎる。
エリカに起こされるまで、私の記憶はどこを彷徨っていたのだろう?
家に帰れば、はっきりすることは確か。
学校の玄関で上履きを脱ぎ、靴に取り換えて学校を出る。足で前に進んでいるけれど、私の未来には先がないような気がした。お先真っ暗。
けれど、人間って単純なもので、校門を潜っただけで気分が変わった。
エリカと直里が立ち話をしながら私を待ってくれていた。
「あっ、アヤメぇ~」
エリカと直里が大袈裟なくらい呼ぶ。
「待っててくれたんだ」
スゥーと体が軽くなった気がする。
「あたりまえじゃん」
「優しくするって決めたでしょ」
二人の言葉はうれしかったし、申し訳ないくらいだった。二、三百メートル先で、高校がある地元に住んでいるエリカとは別れ、別れ際に何度も振り返って手を振ってくれた。さらに百メートル行くと電車で通っている直里と別れ、たわいなくて面白い話を終了しなければいけない。
「また、明日ね」
「そういえば牧原先生って、私を無視してたのかな?」
電車の到着時間が迫っているにも関わらず、名残惜しくて強引に話を引き延ばす。
「いつも通り、黒板に黙々と書いていくだけで、生徒と目を合わせるなんてことしなかったよ」
直里は嫌な顔ひとつせず、答えてくれた。
笑顔が痛かった。私のわがままで足止めするのは気が引けてきた。
「じゃぁ、じゃぁね……バイバイ」
私が作り笑顔で別れを告げる。
「バ、バイバイ……」
直里は戸惑い気味に手を振った。
「また、明日ね!」
私は過剰なくらい明るい声を出して、直里から離れた。
振り返って直里を見てしまうと、また甘えが出てしまう。気も滅入っている。また体が重くなる。気分は最悪。足を動かすだけに集中した。
歩いて五分足らずのバス停横のベンチに腰をかけた。体がベンチに密着する。何処かへ逃げたいという衝動も湧いてこない。
八分後、乗らなければいけないバスが目の前で停まる。出入口のドアを開けて招き入れる準備をしてくれた。けれど、私は俯いたままベンチから動けない。
運転手が怪訝そうな顔をさせながらバスを発車させる。
最新科学の接着剤が塗られていたかのようにベンチから離れられない。ずっとこのままの状態が永遠に続いても構わないという思考でも働いたのだろうか。
「アヤメ……何かあった?」
突然、聞き覚えのある声に話しかけられた。
「す、直里……」
「どうして、いまのバスに乗らなかったの?」
直里が珍しく強い口調で訊く。
「考え事してたら、乗りそびれちゃった」
ちょっと目眩がしていた、とか、体調不良を訴える嘘はつきたくない。考え事は嘘に含まれない答えだと思う。
「ふ~ん」
直里は私を嘗め回すように見てから隣に座る。
「電車に乗らなくて大丈夫なの?」
「八時二十分が最終だから問題ないよ」
私の心配事は直里の気遣いで蹴散らされた。
直里がふぅ~とため息を吐き出しながら「今日のアヤメがいつもと違うことくらいわかるよ」と何かを決意したかのように言った。
「そ、そうかな」
悟られちゃいけないと思ったけれど、短い言葉でさえも滑らかに出てこない。
「体育のバスケの試合で、いつもより動き過ぎるくらい動いてたね。何かを忘れるために必死にバスケに集中していたように見えた」
エリカの言うとおり、体育の時間は隣のクラスとの試合だった。いつもはバランスを考えて味方がシュートしやすいようにパスの起点になる役目をしていた。オーケストラの指揮者のような感覚で、指示しながら味方を動かすのが好みだった。けれど、今日は朝の出来事を忘れたくて、無理やり相手のディフェンスにドリブルで切り込み、自分でシュートを狙っていった。
「たまには目立ちたいなぁ~と思っただけだよ」
私はわざと照れ笑いを浮かべる。
「目立ちたい?そんな単純な思いで、バスケしているように見えなかったよ」
語尾の “よ ”を言ったとき、直里はこっちに顔を向けて微笑む。
「私ってそんなに負のオーラが出てたかな」
「さっきの別れ際もいつもと違う感じがして、嫌な予感がしたの」
直里が顎に手を添えてしんみりとした言い方をする。
「嫌な予感って、自殺するように見えた?」
「ううん、その逆」
直里は首を横に振る。
「逆?」
「誰かを殺すんじゃないかと思って心配した」
直里に指摘されて、私は無言になる。友達に言うにはかなり勇気がいる言葉だ。
「人なんか、殺ろせるわけないじゃん」
私は笑って誤魔化す。
「人なんか……か。これからアヤメにもっと不快な気持ちさせること言うけど、怒らないで聞いてくれる?」
「う、うん」
直里が改まった態度で確認を取ってきた。初めて見る真剣な顔つきに威圧されてうなづいた。
「アヤメが授業中に、怖い目をして一点を見詰めているときがあるの。あの目はこれから人を殺しやる!という決意が感じられる目よ」
「ごめん。これから気を付けるよ」
もともと私は目つきが悪い。だから友達が少ないのか、といまさら認識させられる。エリカと直里は貴重な存在。
「謝ることじゃないよ。でもね、さっきアヤメが “人なんか ”と言ったでしょ。あれは心の奥に人を見下している節があると思う。例えば人間を物に置き換えれば人殺しも可能だということを示唆してない?強引すぎたね。ごめん」
直里は精神科医みたいな診断を下してくる。私を殺人犯にしたくないという忠告だと思うけれど、自分の胸の内を見透かされて、逆にこっちが怖くなってきた。
「直里は人を殺したいと思ったこと……ないよね?」
私は直里の表情を探って訊いた。言ったあとで、人を殺したいという感情を肯定したことにならないかと不安になる。
「あるよ」
即答だった。正直びっくり。真面目な直里からは考えられない発言だった。
「誰を殺したいと思ったの?」
思い切って訊いてみる。
「先にアヤメが教えてくれたら考えとく」
直里はペロッと舌を出す。さっきの “ある ”という返事が嘘なのか本当なのか、惑わされる笑顔だ。
それに比べて私はつくづく隠し事ができない性格だと感じる。今朝の出来事を話すなら今しかないし、相手が直里なら大大丈夫という安心感もある。喋って楽になりたい気持ちが先行してくる。もしかしたら顔に “人を殺したい ”と書いていて、直里に心の中を読まれてしまったのかもしれないと本気で思う。
「私はね……」
今朝の出来事を丁寧に説明した。夢なのか、現実なのかもはっきりしないと付け加えた。それに母親から虐待されたことも。
直里は腕組みをして考え込む。私の告白に対してすぐに反応しなかった。予想していたより重い話で、戸惑っている様子に見えた。素直に受け入れるのはさすがに難しいかもしれない。
「アヤメがそんな状況で追い込まれていたなんて、もちろん想像できなかったけど、洗いざらい話してくれてうれしい。スズメバチは頭の中で飼っていると思えばいいよ」
「家に帰るのが怖かったんだよね」
少し砕けた言い方をして恐怖心を悟られないようにする。この期に及んでまだやせ我慢をする自分が醜い。
「まず、夢か現実か確かめないといけないね」積極的な意見を突き付けられ、私は黙ってしまった。「大丈夫、私も付いていくから大丈夫だよ」私がよほど助けを求める顔をしていたらしく、直里が過保護的な提案をしてくれた。
私の家までバスは市営団地から田園風景を経由する。静かな新興住宅地で、まだまだ開発途中の地域。コンビニと床屋がバス停付近にあるだけ。『終点より二つ前』といういい加減なバス停の名前がつけられている。
「ここは空気がおいしいね」
バスを降りた直里は両手を上げて体を弓のようにしならせる。これからすることを考えると緊張感のない柔軟体操に見えた。
「直里が来るのは二回目だね」
「そうだね」
三人の家が微妙に遠いこともあり、お互いの家で遊ぶことは少なかった。駅前のカフェやファミレスで雑談したり、宿題を一気に片づけてしまうことのほうが多い。
バス停から私の家まで十五分くらいかかる。更地にぽつりぽつりと真新しい住宅が点在して、長閑な風景が広がる。数奇矢橋を渡ると、車一台がやっと通ることができる細い坂道を歩いて行けば家が見えてくる。
「ここで蹴られたのね」直里が橋の真ん中で立ち止まった。それからピンク色のスマホを取り出して、素早く打ち込みはじめる。「あった!」と声を上げると「紺色のウィンドブレイカー、フードを頭から被って自転車に乗った男は、あちこちで同じようなことをしているみたいね」
直里が突き出す携帯の画面を見ると、最新のニュースをリアルタイムで提供してくれるアプリで『ブリッジキックマン』という項目がトップのアクセス数を稼いでいた。
「被害者はアヤメだけじゃなかったんだね」
直里が神妙な顔つきで画面を見詰める。
「一週間で三人も……今朝私を蹴った犯人と同一人物かな?」
私が住んでいる約三十キロ圏内の橋の上で皆同じ目に遭っていた。被害者の年齢はバラバラだけれど、いずれも橋の上で女性が狙われているのが共通点。地方のTVニュース動画は貼られてないから嘘ではないようだ。
「いや、四人目よ」と、直里は悔しさを滲ませ、「こういう犯人は徐々にエスカレートしていくのよね」と言ったあとキュッと唇を結ぶ。
かなり怒っている様子で、被害者になってしまったことが、逆にこっちが申し訳ない気持ちになってしまう。
「殺しといたほうが世のためになるね」
本心が口からこぼれ落ちた。
「アヤメも私も正常な精神状態じゃないのかな?」
直里が慎重な言い方で訊いてきた。私の怖い独り言を真正面から受け止めてくれている。
「そこまで直里が悩む必要なんてない。ここからは私一人の問題だよ」
自分だけ家に帰って様子を見てくることを決断した。私にはもうひとつ確かめなければいけないことがある。
「駄目。私達は友達でしょ?アヤメの苦しみを一緒に共有して、一緒に解決したいの」
直里の強い口調とすがるような瞳の合わせ技で、拒むことができない。
家までの短い時間、直里を巻き込んでしまって大丈夫かな?と自問自答する。 “巻き込んじゃいけない ”という当たり前の答えしかないような気がする。どんなことがあっても彼女を守らないといけないと心に誓う。
数奇矢橋から緩やかな傾斜の坂を上ったところの小高い丘の頂上付近に私の家がある。
街が一望できて、見晴らしは最高。
「いつ見てもかわいい家だね」
私の家の前に立った直里はニコッと笑う。
「中はボロボロだけどね」
私は自虐的に答える。掃除や洗濯など苦手な花子は廊下にゴミや洗濯ものを投げ捨てるので、空き巣に荒らされたと思うほど。友達を呼ぶには前日に念入りに掃除しないと追いつけない。
玄関のドアレバーに手をかけたとき、花子がいきなり襲ってくるのではと思ってしまった。過剰に警戒しても損はないし、慎重にドアレバーを引く。
「あっ?!」と思わず声を出してしまった。
玄関や廊下に物が放置されていない。
掃除したようにきれいになっている。
「どうしたの?」
後ろから直里が心配して訊いてくる。
「家がきれいになってる」
「お母さんが掃除したんじゃないの?」
何がおかしのいの?という顔で訊かれる。
「お母さんは掃除するタイプの人間じゃないんだよ」
花子の顔が浮かぶと、口調が強くなった。
「そ、そうなんだ」
直里の表情が一瞬だけ強張った。ちょっと声が大きかったかもしれない。
「なんか変。自分の家じゃないみたい」
冷静に考えてみると、花子は仕事場に向かっている時間。玄関に靴もない。廊下の床は雑巾で拭き掃除したばかりなのか、濡れている箇所もある。
「誰も居ないみたいだね」
直里は私の肩に両手をかけて、ぴったり寄り添ってきた。
いつもならキッチンにゴミ袋が散乱して、リビングの長椅子に下着などが平気で放置されているのに、きれいに整頓されている。
「二階に行こう」
玄関に戻って階段を上った。私の部屋を掃除されていた。迷惑なことをされたわけじゃないのに、この不気味さはなんだろうと警戒心が疼きはじめる。
直里と目が合って屋根裏に通じる梯子をかけた。
「大丈夫?」
「うん」
手をかけたアルミ製の梯子がいつもより冷たく感じた。そっと出入口の真四角い蓋を開けて覗く。誰も居ない。花子の死体が転がっていないことは幸いだったのか自分でもよくわからない。
「どんな様子?」
階下から不安そうな声が飛んでくる。
「まだわからない」
夕方で窓からの自然光は頼りなく、薄暗い。花子に首を絞められたはずの場所に向かうと、つま先に何かが当たった。
拾って間近で確認すると、私が隠し置いていたステンレス製の果物ナイフに間違いなかった。想像していた場所に落ちていた。花子に首を絞められていたのは事実ということになる…のだろうか?
「何かわかった?」
直里が屋根裏部屋に上ってきた。取り残されて心細かったに違いない。
「これが、落ちてた」
果物ナイフを見せた。
「夢じゃなかったんだ」
直里の表情はショックを隠すように平静を装っているように感じた。血がついていればもっと違う反応だったかもしれない。
「朝橋でブリッジキックマンに襲われて、家で花子に首を絞められて気を失って、それからどうやって登校して、教室で授業を受けていたのか覚えていない。私、朝学校でちゃんと普通に会話してた?」
「アヤメは私より先に学校に来ていて、朝のホームルームの前にエリカと三人で会話もしたし、普段と変わりなかったよ。本当に記憶がないの?」
尋ねられても黙って首を縦に振ることしかできない。
「電話してみようかな」
花子の携帯番号は登録していない。毎月送られてくる請求書を見れば番号はわかる。非通知の電話に出てくれるかは疑問だけれど、花子の生死を確認する必要がある。
階下に下りて玄関に向かう。いつもならエアメールや請求書の封筒が突き刺さっているのに、空っぽになっていた。
どこに片づけたんだろう?
真面に整理整頓したとすれば、という憶測でリビングにあるラックを見にいくと、きちんと携帯電話の請求書が収まっていた。
印字されている番号を打ち込む。プルルルゥという発信音のあと、『もしもし?』と面倒くさそうに出る声が聞こえてきた。すぐに花子とわかり、反射的に切った。
「電話に出たよ」
舌打ちしたい気持ちを押し殺して直里に伝える。
「よかった……アヤメが殺人犯にならなくて……」
直里を見ると、涙ぐんでいるように見えた。彼女は私を止めるために付いてきてくれたとわかって、思わず抱きしめてしまった。体温が伝わってくる。心地良くて包まれるような温かさ。体内に宿るスズメバチに刺されたときとは質の違う温かい感覚。このままずっと直里の温もりを感じていたいと思った。
唐突に下腹部が、トン……と何かに押された。
私と直里の間に隙間ができた。
握られている果物ナイフが血で染まっている。
「えっ?……」
「ごめんね」
直里は無表情で謝る。
「ど、どうして?」
両膝が折れて、床につく。
次に、看過できない言葉で鼓膜が揺さぶられた。
「隠すつもりはなかったんだけど、会う前からアヤメのこと大嫌いだったんだ」
会う前から?
言葉の意味が成立できない。見上げる直里の顔に緊張感がなく、言い間違いじゃなく、前から用意していた台詞のような気がした。