five. あの時から。
駅は無人駅で、同じ駅で降りた人はいないくらいの田舎だった。
小さな改札を抜けて、駅の外に出る。
中学に上がってからはもう来ていなかった。
懐かしい景色…。
周りは田と畑が広がっていて、遠くに民家が1.2軒見える。
コンビニもなければ、スーパーもない。
ただただ広い空と緑が広がっている。
歩いて、目の前のコンクリートで舗装されていない狭い道を中村くんのあとについていく。
私たちの間には会話はなくて、ただただ、セミの鳴き声だけが、響き渡っている。
私は中学に上がるまでずっとここで育ってきた。いきなり親の都合で引っ越すことになって。私だけ、みんなと違う中学校に行くことになった。
今住んでるところから、ここまでは電車で1時間以上かかって、引っ越してから一度も来ていないし、みんなの顔もよく覚えていない。6年間も同じクラスでずっと過ごしていたのに。
そんな思い出を思い出しながら、私は、黙って歩く中村くんの後を追った。
「ここ、覚えてる?」
丘の上の大きな木。
雨宿り。自由研究。怒られてへこんだとき。
あらゆる時を過ごしたこの木。
「どうして、ここを・・・?」
「俺さ、一年間だけここに住んでたことがあるんだ。その時、相馬さんに出会って。一年間だけだったし、忘れてるかもしれないけど。よく、一緒に遊んだ。苗字も変わったし、あれからもう、4年たってるし・・。でも、俺はすぐ相馬さんだって気づいてたんだよ?。」
「…」
状況を呑み込めない私に、彼はもう一言付け加えた。
「田中芳也」
思い出した。
笑顔がかわいくて、肌が白くて、背も私よりずっと低くて。
「あの時から好きだったんだよ。」
中村くんはそういうと私を抱きしめた。
読んでいただいてありがとうございます。
二か月ぶりの更新です…
うまく完結できなくてごめんなさい。
温かい目で見守ってください。